第20話 グアムでの二人

斉藤清一郎と谷口雪恵の二人は何度もグアムに来ていた。

アメリカとカナダにも行った。

日本国内の山奥にも行った。

ジムでキントレもして空手の道場へも行った。

当初、幸恵は旅行が単に都会を離れ自然に接し適度な運動をしている・・・と思っていた。

トレッキングが徐々に厳しく、過酷とも言えるものに変わっていくうちに違和感を感じ始めた。

それは彼女にとって決して不快なものではなかったが・・・。

何回目かの山歩きの時に考え抜いた思いを伝えた。

「言いたく無ければ言わなくても良いのだけれどトレーニングやトレッキングには何の目的があるの。私には明確な意図がある様に感じる。それにこれらの事は貴方にとっては簡単すぎる・・・はず・・・と言う事は私の為と言う事になる・・・貴方は私に秘密があり、それを私に言うかどうか迷っている様に感じるの・・・私が信じられないのか、私を心配しているのか・・・私はもう何を言われても何をするのも平気・・・例えそれが犯罪でも平気・・・だからそろそろ言って・・・お願い。」

彼はこの言葉に驚き、感慨深げにまだ迷っているようだった。

彼らしく無い態度に彼女が追いうちの言葉をかけた。

「最近の新宿の数件の殺人事件の犯人はあ・な・た・でしょう・・・私も殺しますか」

「どうして私が犯人だと思うのかね」

「貴方のもう一つの顔を知っている、そして貴方の素晴らしい暗号アルゴリズムを私は習った、そして私は優秀なプログラマー・・・貴方が何をしているか、解っているわ」

「・・・そうだね、君の能力の高さを迂闊にも忘れていたよ・・・それでもし私が犯人だとしてその理由は解っているのかい」

「勿論、・・・銀座の事件」

「それでも私に付いてくるのかい」

「えー付いて行くだけじゃ無いわ・・・協力するの」

「・・・ありがとう」

「だから、これからは私を気にせず、もっと効果的に訓練して・・・お願い」

「解った・・・今後の事だが・・・」

それからはグアムで射撃訓練、アメリカ、カナダでのライフル訓練、サバイバル訓練と実戦的になった。

彼女は改めて彼の周到さと力強さに関心した。

アメリカでもカナダでも拳銃、機関銃、狙撃用ライフル、手榴弾など様々な火器・武器が人里離れた地下に隠されていた。

アメリカ・インディアンの子孫に追跡術を習った彼がプロでも見つけられない・・・と彼女に答えた。

彼にいろいろと習った彼女が見ても言われるまで解らなかった。

アメリカでは砂漠の真ん中、道路から何キロも奥に入った処だった。

カナダでは氷原の真ん中で何十キロも奥に入った処だった。

どちらも銃を撃っても手榴弾を爆発させても人に聞こえる事などあり得ない処だった。

そして、その武器の使い方を徹底的に教え二人で練習した。

何度目かの練習の時に彼が言った。

「スナイパーには女性の方が向いているかも知れない」


グアムには射撃の感を忘れない為に定期的に訪れていた。

それは主に屋外の射撃場だった。

そこは昔、日本の兵隊が終戦を信じられず一人で潜んでいた洞窟の記念館の裏にあった。

そこでは拳銃と散弾銃は勿論、M16の様なライフルに狙撃銃まであった。

狙撃は50メートル程離れた崖に置いた色とりどりの風船を的にした。

彼女も今ではアメリカ、カナダへ行く前には当たらなかった風船に確実に当たる様になっていた。

余りにも上手いと評判になるし顔も覚えられるので風船の横の小石を的にする様にしていた。

街中の屋内射撃場も利用したが、こちらでも目立た無い様に敢て散らした。

ライフルも拳銃もそれぞれ銃により癖があり一発目は中々当たらない。

一発目でズレを把握し二発目からは思い通りの処に当てられた。

それほどに彼女の射撃に対する才能はずば抜けていた。

何よりも彼女自身も驚いていた事だったが射撃が大好きだった。

それはダイビングにも言えた事だった。

好きなスポーツにダイビングを上げていたがライセンスを持つレベルでは無かった。

当初は怖がっていたが水泳が得意な彼女は水に対する恐怖心が無いせいか、彼よりも上達が早くアドバンスのライセンスも難なく取得しダイビングに嵌ってしまった。


そして今回はダイビングでも空のダイビング、スカイ・ダイビングを主目的にグアムに来ていた。

これは彼も経験が無く助言を与えられなかった。

しかし、それが彼女には嬉しいらしかった。

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