第19話 女警部の復活

翌日、彼女は帰国後直ぐに登庁し警視総監に面談し自分の予想していた犯人は間違いだったと説明し合同捜査態勢の解散を要請した。

無論簡単に謝罪が許された訳ではない、警察とは言え高潔な人間ばかりではない。

日頃から彼女の捜査方法を気に入らないと思っていた人、妬んでいた人たちはこれ幸いと責めたてた。

彼女は叱責を只静かに聞き説明を求められた時だけ口を開き耐えた。

会話が途切れた時、それまで黙って聞いていた刑事部長が言った。

「次の国会答弁には私の変わりに君に出て貰おうかな」

暫く間を置き続けた。

「私はこれまでに私が指摘し謝罪を受けた事はあるが・・・自分から先に謝罪に来た部下に会った記憶が無いのだがね・・・私の記憶違いかな」

ここで警視総監が追従した。

「私は謝罪を受けた事がある・・・刑事部長・・・君だがね」

この言葉に参加者全員の目が刑事部長に向いた。

警視総監の言葉が続いた。

「麻生君、それで新宿の事件の今後はどうするのかね」

「はい、正直に申しまして少しづつですが進展は有りますがこれ以上の組織力集約は他の捜査に差支えがあります、警察は事件は事件として同一に扱わなければならない事は重々承知しておりますが、何分にも組織に対するものです・・・一般市民への波及を懸念しての強化でしたが・・・その確率が低いとの推測に至り合同捜査の解散の要請に参りました・・・今後も捜査を継続しますが、その規模を縮小します」

「解りました・・・謝罪を受け入れましょう、合同捜査は本日で終了とします、今後は新宿の件は麻生君の班で継続して下さい・・・本日はこれで解散・・・あぁ~麻生君、君は私の部屋に来て下さい」

麻生は総監に従い皆が解散した。

「麻生君、君は目星を付けた者の名前を言っていない・・・的が外れた直接的な理由も言っていない・・・何故かね」

総監は部屋に入りソファーに座るなり単刀直入に聞いた。

「はい、ここだけの話として下さい・・・私が当初犯人と思ったのは「滝」です・・・ですがその本人が自分でも出来ない、無理だ・・・と言ったのてす・・・滝とはグアムで偶然会いました、そして話す機会を得ました。私も彼の言う通り刃物の切り口から見て滝の技量を超えているのでは・・・と思っておりました」

「ほうーグアムで合ったか・・・グアムではな・・・で滝は誰の犯行かの見当はあったのかね」

「残念ながら無い様です、吹き流しを使ったスナイパー・・・超が付くほどの凄腕スナイパー、そして江戸時代の剣豪かと思わせる程の切れ味、現代の日本にこれほどの腕前の剣士は数える程しかいない、凄腕のスナイパーがわざわざ接近し刃物を使うか・・・と滝は矛盾点を指摘していました・・・これは私も同意見でした」

「それで滝以外に容疑者はいるのかね」

「残念ながらおりません・・・最初から捜査のやり直しです・・・その為合同捜査の終了をお願いしました」

「・・・解った、今後も頼む・・・以上だ」

「はぁ、ご理解ありがとうございます、失礼いたします」

彼女は敬礼し退出した。

「滝では無い・・・か、滝もほしい人材だが、この誰かも解らぬ者もほしい・・・なぁ~」

警視総監の独り言だった。


その後彼女は失態を挽回する様に数々の事件を解決していった。

その中の数件は長年の捜査にも関わらず犯人の目星すらも立っていないものもあった。

事件は年月が経つに連れ捜査陣は縮小され最後は一人の選任捜査になる。

彼女はそんな中の一つの資料に疑問を持ち選任刑事に違う角度からの捜査を命じた。

勿論、当初、専任刑事は「資料を見た位で・・・」と渋々上司だから従っていたが命じられた捜査をすると新たな証拠が見つかり犯人の特定と逮捕に繋がった。

選任刑事に取っては二重・三重の喜びである。

一に事件解決、二に一人寂しい選任が解かれる、そして被害者遺族に事件解決の報告ができるのである。

そんな事件解決が二件、三件と続くと選任刑事の方から相談に来る様になり捜査に進展が出ると彼女は自分の班の人員を総出し解決へと導いた。

そうこうする内に他の課の課長、部長自らが相談に来る様になった、事件は当然殺人事件にとどまらず窃盗、詐欺、組織関連と様々で彼女はそれを奇跡の様に全て解決したのだ。

そして事件が解決する度に所内での彼女の評判と人気が高まり、彼女の地位を確固たるものへと変えて行った。

当初、「キャリアの女が・・・」と見ていた古参の刑事たちも徐々に彼女の信奉者へと変わっていった。

特に若い所員たちには人気が有りその中でも同姓の女性たちからはまるで振興宗教の教祖の様に崇められ崇拝されていった。

そんな情報は警視庁張り付きの記者から流れテレビや週刊誌にも取り上げられる程になった。

だが彼女の態度は以前と変わらず物静かで凛としていた。

その事について上司が彼女に話題を振った時に彼女はこう答えた。

「一種の流行性の風邪と一緒です、直ぐに収まります、第一私は警察官であって芸能人ではありません、目立つ事は警察官としては為になりませんので申し訳ないと思っております」

この返事に問うた上司が驚き思った。

(この頭脳明晰な女性も自分の容姿端麗さと美貌に自覚が無い様だ・・・いるだけで目立っているのがなぁ~)

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