第18話 刑事とやくざのデート
その夜、ホテル・デシタニの玄関を入りエスカレーターを登った右側のレストランで男と女がステーキをつまみにワインを飲んでいた。
男は滝で女は刑事の麻生だった。
彼女は滝に合って直ぐにグアムの入国管理局に連絡し滝の宿泊先を掴んだ。
滝の方も彼女の行動を予想し彼女からの連絡を待っていた。
滝は単刀直入に切り出した。
「貴方は新宿の件を私だと思っているのでしょう」
「ええ、そう思っているわ」
「そうですよねー、あれだけの事が出来るのは日本には私しかいないとの自負がありました・・・但し2件目までです、正直な処2件目も怪しい、3件目では私にも無理です」
「あら、ご謙遜ですね」
「やはり、信じていただけませんか??? 私にはあそこまでやる動機がありませんよ、もともと義理なんてありませんしね。貴方は動機は何だとお考えですか」
「ええ、私も義理とは思っていません、敢て言うならプロてしての意地でしょうか」
「意地ねー、意地で意地だけであれ程の危険を冒しますか・・・ねー」
「貴方程の名の知られたプロは面子が人一倍大事なのではないですか」
「確かに銀座に私が居たとしたら面子は丸潰れです・・・が・・・後の逃走で面子は回復したのではないでしょうか」
「確かに・・・ね、2年余りの逃走を成功させていますからね」
「ところで凶器の特定はできましたか・・・部外者には言えませんか」
「はい、と言いたい所ですが、そちらも内通者から情報を得ているでしょう。
ドスよりも長い・・・日本刀の脇差位の長さの刃物、長剣の日本刀、ライフルそれも50口径と超が付くロング・ライフル」
「貴方はどれも私が扱えると思っている・・・わけだ」
「ええ」
「ありがとう・・・と礼を言います、しかし正直なところライフルは私も可能でしょう・・・が刃物・・・特に長剣であの太刀筋は私には到底無理です」
「ご謙遜を」
「信じてもらえませんか???」
「無理ですねー、あれだけの腕の持ち主は世界でも数える程しかいない・・・まして日本では・・・違いますか」
「えーそうでしょうねー、世界はいざ知らず日本では一番と自負していました、それは確かです・・・がしかし先程も言いましたがそれは2件目までの話です、今は残念な事に今の日本には事暗殺に関し私以上の腕を持つ存在がいます・・・よ」
「・・・貴方が・・・そこまで言いますか・・・貴方以上の腕前の人が・・・」
「ええ、間違いなく居ます、警察がこのまま私を私だけを追えは警察の失態になります・・・ね」
「警察の失態は貴方の利益ではないの??? 何故忠告するの、私がこの話を上にすれば必ず貴方から捜査の目を逸らす為だと言うでしょうねー」
「でしょうねー、想像できます、できますが、敢て言います・・・正直なところ私は貴方を気に入っているのです・・・女性としてでは無く、女性として魅力はありますが、それよりも捜査能力を買っています」
「ありがとう・・・とお礼を言うべきでしょうか」
「そんな捜査能力のある貴方が間違った私を追っている・・・本星から遠ざかっている」
「貴方以上の人がいる、それも日本にいる・・・と思っているのですか」
言葉使いが少しづつ丁寧に変化していた。
「オリンピックと同じで記録はどんどん良くなります、私より凄腕が現れるのは覚悟していましたが、それがまさか日本とは予想外でしたがね・・・私も引退の潮時ですかね」
「こんな事をお聞きするのも変かもしれませんが・・・」
「犯人のプロファイルですか」
「ええー」
「考えてみました、貴方も考えたでしょ・・・でもそちらは結果・・・私になった、私は私では無いと分かっていますので少し違うと思います、当然です・・・まず凶器からですが、ライフル狙撃に際し吹き流しを使っている事から狙撃手のブロ、ましてや50口径を扱える者は数少ない、50口径は華奢な体形では無理なのです、ご存知でしょうが。そしてその命中精度一発で的のど真ん中・・・距離にもよりますが並みの腕前では無い、私の収集した情報では警察は未だに射撃位置を掴んでいないらしいのですが・・・」
「・・・残念ですが、その通りです」
「私の予想では警察は一度はその場所に行っています・・・ですが距離が遠すぎて違うと判断していますね」
「・・・そんなに遠くから・・・なぜそう思うの」
知らず知らずに女性言葉丸出しになっていた。
「わざわざ50口径と言う手に入り難い足の着き易い選択ですよ」
「・・・な・る・ほ・ど・・・どれ位の距離からだと???」
「回収した弾を見ていないので・・・そうですね・・・警察が完全に範囲外と判断するとなると・・・んー1500メートル以上でしょうか」
「えー1.5キロ・・・当てられる・・・んだーー」
「私は1800を当てた事があります・・・まー大きな的でしたけどね」
「1800メートル・・・なんだかピンとこないわー」
「次は刃物ですが世界的にも殺人の凶器に刃物を使う事は珍しくは無いのですがナイフが殆ど料理包丁が少々・・・日本刀なんてまずありませんでしたね、短い物ならまだしも長い物となると昨今の日本ブームとは言えあり得ません、短い物は出回っている本数も少ない。それに切り口です、あの切り口は並みの腕前ではありません。名人・達人の域でしょう。偶然では到底ありえませんね」
「切り口をみたの」
「写真でみました」
「日本の警察も駄目ねー内通者をどうにかしないと」
「無理でしょうね、現代はスマホで簡単に写真とれますからね」
「んーそうね・・・モラル、規律に訴えるしかないのよね・・・給料安いし」
これを聞いて滝が思わず「くっくっくっ」と笑った。
「今、笑った??? 笑ったでしょ、深刻なんだからね」
「はい、はい、解りました、御免なさい」
彼女は考えていた。
どうして、この男と話すとこんなに素直にそれも女性らしくなれるのか・・・と。
警察と言う組織の枠の外の人だからか??? いや違う、そう言う人は過去にも居たが違う。
なんなんだろう・・・か、どうしてなんだろう・・・か・・・と。
男も考えていた。
お堅いと思っていた警察の女の気さくな態度に当初策略か・・・と疑い・・・この女の地だと分かると可愛くみえて来て戸惑いを感じ始めていた、また彼は女性に・・・人にこれだけ気を使ったことは無かった、初めて・・・久しい感覚だった、そう言う面でも戸惑っていた。
「ところで、そんなに切り口が凄いの。私も写真を見たし実物もみたんだけど・・・」
「普通は解りません・・・よね、そうだなーうん、魚屋の刺身作りの人なら解るんじゃないかな、但し人のを見るのはどうかなー、袋がいるかも。貴方は大丈夫だったの」
「大丈夫・・・と言いたいけど駄目、立場上我慢しただけ・・・魚屋ねーー居合の先生には見て貰ったんだけど、美味い、上級者・・・と言うだけで私達と同じ感想だけだったの」
「確かに上級者だけど並みの上級者じゃ無い・・・特に人を・・・人間をこれだけ迷いも無く切れるには意思の強さ・・・か・・・信念か・・・恨み・・・恨み・・・恨みかも知れないなー」
「やくざ者に恨みを持つ人なら山程いるでしょうね」
「しかし、これ程の達人に恨みを買う様な事をするとは思えないんだがーー」
二人の話は事件の事とは言え尽きなかった。
「ところで僕を見つけた後に途中で横を向いたが何か見つけたのかい」
「とても綺麗な女性連れのカップル・・・なんだれど・・・何かのー女性が綺麗だけじゃない・・・と思えるの」
「貴方もですか、僕も綺麗な女性だなーと最初は目が行ったんですが男性の方が気になったんです」
「男性の方ですかーー」
「はい、ですが断じて僕はゲイではありませんよ」
「はい、それは思っていません・・・確かに私も男性に目が行きました・・・と言うか釘付けになりました」
「弱弱しく見える・・・と言うか・・・見せようとしている感じがしました」
「なぜ」
「実はとても強く、そう格闘技かなにかをやっていて自信があり面倒が嫌いなのでは」
「ふーん、男はみんな強く見せようとするものと思っていました」
「普通はね、でも本当に強い、とても強い人はそうでもないんですよ」
「あなたもー」
「私は住む世界が普通ではありませんからね、でも一般の人に囲まれている時はそうしますよ」
「あー成程、それで今は全然感じがちがうのね」
「はい、そうです、まーこれが本来の私です」
「今の方が良いですよ」
「失礼ですが・・・貴方も今の方が断然良いですよ」
「断然ですかーー」
「はい」
「うーん、私も仕事が仕事ですから、そうもいかないんですよね」
「お互い困ったものですね」
「はい」
二人は何年も付き合いのある友達の様に話をして楽しい時間を過ごした。
彼女はホテルに帰りシャワーを浴びベッドに入り眠りに着く時には滝は犯人では無いと確信していた。
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