第10話 一匹狼の男-#3
二年の月日が流れ滝は日常から抜ける事になった、新宿で組織幹部の殺人があったからだ。
自分が世話になる組織とは違うが、その見事な仕事振りに感銘し日本にも自分以外に冷静な殺人ができる者がいる事実に驚き興味が沸いた。
ほとぼりが冷めてから新宿歌舞伎町の現場近くに行って見た。
勿論、今は以前の様な全身黒革ではない。
何処にでもいる会社員が着ているスーツ姿で髭を伸ばし、度無しの眼鏡を掛けていた。
銀座の事件以降、トレードマークの黒革は諦めていた。
実は革の裏地には防弾繊維が用いられていて、その柔軟性の無さを悟られぬ様に革にしていた、黒は勿論、夜の行動時に闇に紛れる為と敵の的に成り難くする為だった。
警察は当然今でも銀座の事件を忘れておらず黒革の男を探しており、滝の名前も知られていた。
そのため、今は黒革の上下にコート、帽子は海外だけにしている。
現場近くを目的がある様に足早に遠巻きに歩き監視の有無を確認した。
現場の細い道路の正面ビルの三階に監視の目が有った、警察が未だに見張っている様だ、又、街の所々の角に組織の下部構成員が立っていた、二人の幹部が殺害されたのだ、当然の処置と思われた、組織も警戒しているだろう、滝の力でも、これ以後の実行は不可能と思われた。
翌日の朝、滝は驚きと久しぶりの恐怖を感じた。
あの警戒の中、昨夜も歌舞伎町で幹部が殺害されたとのニュースを見たからだった。
幹部自身も警戒し組織も警戒し、悪人とはいえ殺人を見逃せない警察の警戒もある中での犯行だった。
滝にも実行には入念な下調べと準備が必要と思われたが、犯人は実行した。
それも滝が監視の目を三階に感じたビルの前でだった。
まるで、それは組織と警察への挑戦とも思われた。
そして何より滝に恐怖を与えた事は犯人の凶器だ。
警戒厳重とも思える中で刃物による鋭い切り傷だったからであった。
滝は実行者の目的が知りたかった、只の殺人とは思えなかった。
殺人を楽しみ後悔を感じない相手に組織の人間を選んでいるとも考えられたが、滝には、何か違うと思われた、幾つもの戦場を渡り歩き培われた感が訴え掛けていた。
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