第9話 海外への逃避行

4日が過ぎ、ロシアの国内線航空に乗りウラジォストックに向かった。

ここでは、一週間の猶予があった。

滝は、ここで初めて三人だけでの外出を許した。


夜半過ぎ、二人が部屋に駆け込んで来た。

慌てふためき要領を得ない話振りを落ち着かせて要点を聞き、滝は二人を連れ、

部屋を出て一階上の向かいの部屋に二人を案内した。

そして銃を渡した、無論、安全装置は掛けたままだ。

部屋にいるように言い、滝はもう一人を待つ為に元の部屋で待機した。

三十分後、もう一人が帰って来たが、お客さんを連れて来ていた、尾行者たちである。

追いつく前に彼を皆の待つ部屋に案内し、滝は元の部屋の向かいの部屋で待機した。

滝はこのホテルを借りるに当たり、四人に一部屋ずつ部屋の位置を指定して取って置いた。

滝の長年の用心だ、追跡者は五人だった。

撃鉄の引く音から、拳銃が二人、マシンガンが二人、ショットガンが一人と判断した。

滝の予想では順番はシヨットガン、マシンガン、中に入り二種類が続き、止めが拳銃の順と検討を着けた。

反撃のタイミングは、一撃目の後の一瞬の間だと理解していた。

一回目の一斉射撃が始まった、暫く続き、マガジンの弾装交換のタイミングだ。

この時を待っていた滝は、向かいのドアを静かに開け、確実に反動の比較的少なく連射が可能な911をマシンガンの男たちに三発づつ発射し一旦隣の部屋に隠れた。

暫くして、廊下の部屋とは反対の向きの廊下に空き缶を投げた。

残りの二人は滝に背中を向け廊下に出て発砲した。

滝は廊下に出て立て膝を着き、二人の男の背中に三発づつ弾丸を撃ち込んだ。

滝は部屋に戻り、マガジンを全弾装填済みに変え、顔だけを一瞬廊下に出し、瞬時に状況を把握し、拳銃を身近な敵に向け致命傷を次々に加えて行った。

三人の部屋に戻り、血みどろの服を変え、血を拭いたタオルと一緒にロシアでは当然ある暖炉に放り込んだ。

三人はただ黙って滝を阿修羅を見る様に恐怖と驚愕の表情でその動きをずっと追い続けていた。警察の追求を避ける為、襲撃された部屋と廊下を見渡し拳銃を持った男の拳銃と滝の911を交換し、ショットガンの男に交換した銃を握らせ、上の部屋に戻った。

暫くしてサイレンが大きくなり警察が到着した。

日本でなら大事件だが、ロシアではなのか、この街だけなのか、対処は形通りで事情聴取も通り一辺倒で四人には無関心だった。

ただホテルの支配人を通して「災難でしたね、これに懲りずに又この街に来てください」との伝言があった。

警察からの伝言で、四人は支配人が去った後、大笑いした。

それからの三人は、滝が外出する時意外は絶対に部屋を出ようとしなかった。

滝の金魚の糞の様に付き纏った。

又、滝が優しい声と言葉使いで言っても「はい」と言って素直に従う様に変貌していた。

それでも、時々、滝は一人で出かけて行った。

三人には、行動の予想も付かないし聞けもしなかった。

滝は、次の行動の準備に余念がなかったのだ。

時間が掛かるのは、一案、一コースに不備があった場合の予備の準備が数々あったからだ。

この用心深さが、このホテルでも生きたのである。

5日目の外出の後、滝が「明日の朝、出発します」と言った。

誰も「何処へ」などの質問はもうしない、黙って三人は頷いた。

翌朝、8時にホテルをチェックアウトしタクシーで空港へ向かった。

ロシアも今では輸送機の様な旅客機ではない、世界の何処でも通用するものだ。

日本よりも簡単に飛行機に乗り日本よりも早く出発した。

向うのは、新潟だった、そこから羽田に乗り告いだ。

四人はロシアでも日本でも税関での時間は掛からなかった。

ビジネスバック一つづつしか持っていなかったからだ。

バックは、パイロット用の物と良く似ている書類、下着など短期出張を思わせる大きさだった。

四人は、そのまま、成田空港へ行き、時間調整の後、ハワイ行きの飛行機に乗った。

滝以外の三人には当然、驚きだったが既に表情に出ない訓練がなされていた。

パプロフ犬と同じだ、もし、少しでも表情、言葉に出たなら、滝の激烈な制裁が待っているのだ。何度も味わった三人には教訓は十分だった。

因みに三人はトイレに行く時も、アテンダントに食事を聞かれた時も、日本の商社マンの幹部クラスの態度だった。

ハワイでの三人は時々、派目を外す事も有ったが、日本の観光客程度で滝の助けの必要は一度としてなかった、知識、知恵はあるに越した事はないが経験に勝るものはない。

4人は、ハワイに一ヶ月滞在した、日本のニュースを見ても事件については無くなった。

彼らは、日本に帰国し、空港近くのホテルで一泊し情報を集めた。

事件捜査は続けられていたが、世間の関心は事件から離れていた。

海外のテロや戦争、日本国内の犯罪、災害に向けられていた。

組織に連絡を取ったが、警察が滝の写真を持って来たが「こんなヤバイ男は知りたくもない」の返事で来なくなったと一ヶ月前と変わっていなかった。

勿論、連絡はホテルでは無い公衆電話から行った。

翌日、彼らは車をレンタルし事務所近くに行き、変装した滝が近隣を探索した。

その探索は徹底したもので4時間にも及んだ、滝が車に戻ると車が少し匂った。

三人は滝の「車から出るな」の言葉を厳格に守り車内で用を足したのだ。

滝と過ごした間に三人は彼に忠実に従う様になったと同時に戦士になっていた。

そして三人は、事が無かった頃の日常に戻って行った。

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