第4話 山道

...寝てしまっていたようだ.

硬いベンチのせいで腰が痛い.

時間にして二十分くらいだろうか.

日はまだ高い.

依然,蝉の声は聞こえてくる.

少しだけヒグラシの主張が強くなっただろうか,夏の終わりを感じさせる.

風は流れるが相変わらず暑さが漂ってくる.

甘味処まであとおよそ三十分.

着くのは三時半頃になるが,それでもまだ悪くない時間だ.

もう一度水を飲んで再び歩き始める.


ここからは緩やかな上り坂だ.

木陰のおかげでさっきの田んぼ道より大分歩きやすい

それにヒグラシの声がする.

私の中で蝉は,ヒグラシかその他有象無象かに分かれる.

有象無象の声は純粋に夏が来た!という感覚を沸き起こさせるに過ぎない.

小学生の頃は彼らの声を聴くだけで嬉しかったものだ.


しかし,ヒグラシの声はそれとは違う.夏の終わりの夕方を感じる.

悲しいとまでは言わないがどこか虚しくさせられる.

ただ,陰鬱にはならない.

心を冷えた何かが通り抜け,少しだけ清々しくなる.

あれこれ言ったが,つまりはヒグラシの声が好きなのだ.


一歩一歩山道を進んでいく.

左右の路肩の木々が風で揺れている.

キラキラと木漏れ日が眩しい.

日の光がもうオレンジがかってきている.

徐々に山の匂いが濃くなってくる.

なんだか懐かしい.

一人の散歩は意外と良いな.

誰かと一緒に歩くのとはまた違った感覚を持つ.

なんだかちょっとだけ大人になった気分だ.


トンネルが見えてきた.

名前はわからないが古そうには見えない.

中に明かりは無く,向こう側が丸く見える.

トンネルの先は輝いているように感じられた.

無性に駆け抜けたくなった.

甘味を求めて気が急いているのかもしれない.


ヒグラシはまだ鳴いている.時間は三時を過ぎていた.

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