第3話 歩く

徒歩だと一時間ちょっとくらいか.

うまくいけば甘味を喫すのに丁度良い時間になりそうだ.

車通りの少ない道を選んで歩みを進めていく.

右半身に太陽を感じ,足元にアスファルトからの熱を感じる.

山の麓なら木陰があって風も吹いていて歩きやすいんだろうな,などと思う.


住宅街を抜けて田んぼ道に出た.

人の気配はなく遠くから蝉の声,土手からはコオロギか何かの声が聞こえてくる.

実家で聞いていた虫の声と比べて元気がなく,少し寂しくなってしまう.

虫たちも暑さにうんざりしているのだろうか.


不意に暑さがぶり返してくる.

鼻歌で暑さを紛らわせることにする.

夏の郷愁を感じさせる良い曲を書くバンドの曲だ.

どこか焦燥感と安心感と浮遊感を含んだ変な感覚を覚える.

地元の数少ない友人達や家族に会いたくなってしまった.

孤独だが寂しさは感じない.

それでも,私はやっぱり空洞だ.


三十分ほど歩いただろうか.

車通りのある道の奥の方に,山の麓が見えてきた.

道程の半分ほど進んだのだろう.

山道の手前に小さな公園があった.

その公園で水を飲んで日陰のベンチに腰を下ろす.

定期的に掃除されているようで小綺麗な公園だ.

山の方から風が通る.

有象無象のセミに交じって遠くでヒグラシが鳴いている.

案外心地がいい,少し休んでいこう,暑すぎた...

眼を閉じながら譫言のようにつぶやく.


十分くらい休憩しても咎めるものは居ないだろう.

時間はすでに二時半を超えていた.


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