第2話 外

ああ,私は何と愚かな人間なのだろうか.

決心などという気の迷いで外に出てみたものの,熱すぎる.

もし私が氷なら三十秒と持たず溶けきって蒸発してしまうだろう.

人生に憂いて突発的に行動などするものじゃない,少し反省だ.

軽く後悔しながら家の前の通りをゆっくりと歩く.

足を速く回せばその分だけ,汗をかいてしまうからだ.


幸いにも街路樹の桜の木がある通りまで出てきた.

その日陰で少し息をつく.

こめかみから汗が垂れてきてしまった.

相変わらず蝉共は木にへばりついて喧しく鳴いている.

こいつらは必死に毎日を生きているのだと思うと自分が情けなくなる.


…ダメだ.何を見てもネガティブな思考に陥ってしまう.

変わろうと決心したからには,暑さという困難を乗り越え何かを手に入れなければ.


そうだ,教授がいつかの講義中に言っていた甘味処へ行ってみよう.

話し方や話す内容が胡散臭い教授だったが,良いものを喰っていそうな見た目をしていた.

あの教授を唸らせるなら相当の店に違いない.

ただ,少し場所が遠いな.車があれば十分くらいで着くだろうに.


私が住む市は四方を山に囲まれた地方の都市である.

甘味処は東の山の短いトンネルを抜けた峠の方にあるようだ.

市の中心部とは真逆の方向だ.

この暑い中での山登りは骨が折れそうだが心は決まった.

スマホでナビを設定し,財布を確認する.


さあ行こう.日陰から足を踏み出した時には,既に二時頃になっていた.

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