高校生活,

 



 それから俺達は、楽しくもありキツくもある高校生活を送っていた。

 クラスの連中は相変わらず騒がしいけど、毎日笑い声が絶えない。

 サッカーの練習はめちゃくちゃキツくて、先輩達に毎日愛の鞭を受けたけど……それ以上にサッカーが上手くなりたいって気持ちで溢れ返る。


 そんな毎日を繰り返している内に……気が付けばあっという間に季節は夏。

 朝から顔を伝う汗をすかさずで拭うと、目に付いたのは少し日焼けした腕。そしてうっすらと滲んだ青いシャツの袖口。


「痛ってぇ。体全体が筋肉痛だ」

「だな。全然慣れる気配がないよ」

「ほれほれ!」


「うおっ! てめぇ夏希! ワザと突っつくんじゃねぇ」

「はははっ、それがマネージャーに言う言葉かね? うりゃうりゃ」


 そして2人のそんなやり取りを聞きながら登校する。その光景入学してからもまるで変わっていなかった。


「あっ、そう言えばさ今日って何日だっけ?」


 ん? 日にち? えっと……


「はぁ? 7月10日だろ。そんな事も忘れたのか? サッカー部のマネージャーさん?」

「なっ、なによっ! たまたまでしょ? しょっちゅう財布忘れるあんたに言われたくないんですけど? もうお金貸してあげなーい」


 7月……か……

 それを聞くと、まじまじと感じるのは時間の流れ。入学してから既に3ヶ月、それは本当にあっと言う間だった気がする。


 どうなる事かと思ったクラスメイトや遊馬先生。でも慣れって恐ろしい。その雰囲気に居るだけで、知らず知らずの内に打ち解けてた。2週間もすれば冗談も言い合えるようになってたっけ。


 それに遊馬先生。とんでもない事言う先生だけど、どことなく自分達と似た感じで……気兼ねなく話が出来るようになってた。まぁ先生としては?? って部分もあるけど、気軽に何でも言える存在は大きい。


 それに3ヶ月も経つと、学校の色々な部分も見えてくる。憎たらしさを見せつつある先生も居るけど、勉強には力を入ってるみたいだし、部活の熱はそれ以上。

 まぁ、明らかに金髪なのに先生達から注意されない陽気なイケメンや一目でギャルだと分かる容姿全開な先輩方。


 あと、バスケ部の奴だっけ? 同じ1年だけどやたら自信過剰な奴といった、4組の奴らに負けず劣らない人達の存在が明らかになったけど……それを含めても評判通り雰囲気は良い方だ。実際学校生活は結構楽しい。ただそれ以上に充実していたのは、やっぱり……



「よっし! あと2周! ペース落とすなよ!」

「「はいっ!」」


 大好きなサッカー。


 監督、コーチ、マネージャー達。そして俺達1年を加えた45人の部員。中学よりも大人数での部活の雰囲気は独特だった。


 それにAチームBチームに分けられてはいるものの、基本的に練習は一緒。しかもその内容はハッキリ言ってキツイ。覚悟はしていたけど、それすらを凌駕する練習量とメニューに、最初の内は付いて行けない1年生も多かった。先輩達は、


「毎年恒例の光景だな」


 なんて笑っていたけど、初日からその洗礼を受けた俺達はそれに返事する気力すらなかった。でも……それでも、辞めようなんて気持ちには一瞬だってならなかったよ。


 これを続ければ強くなれる。そんなの先輩達を見れば明らかだった。

 一緒に乗り切ろう! 同じ1年生同士が励まし合いながら、仲間としての意識が深まった。


 それは言うまでもなく恵まれた環境。そんな中で、もっと上手くなりたいって気持ちに……火が付かない訳がない。


 毎日の練習で欠かさず行われる走り込み。最初のメニューだってのにその距離と時間は、倒れ込みたくなる位の疲労を残す。

 そして数分の休憩をはさんで念入りにアジリティートレーニングを行い、やっとボールを使った練習に移る。

 その時には足には乳酸が溜まり、思うように動かせない。それでも相手に確実に強くパスを出す。細かなステップでドリブル。


 キツイ、辛い、痛い……休みたい気持ちに襲われるけど、必死に堪えながら今度はミニゲーム。

 全身の体力も筋肉も余す事なく使い果たして、やっと練習が終わる。


 その瞬間、何とも言えないに感覚に包まれた。やり切った達成感と、これでまた上手くなれたって充実感。

 でも俺は違った。もっともっと上手くなりたかった。だから、先輩達や皆が帰った後……


「よっし!」


 一人でグラウンドに残るようになった。


 監督にも確認して、用務員の人が部室の戸締りに来る時間までならって了承は貰った。誰かに言われた訳じゃない。自分自身で考えて至った行動。

 だからひたすらに……好きな練習を時間いっぱい繰り返す。


 ドリブルにフリーキックにシュート。さっきまで足が動かなかったはずなのに、その時だけはふっと足が軽くなる。

 そう言えば、その居残り練習を知られてから海斗と須賀さんには心配されたっけ。


『はぁ? お前いっつも最後だから何やってんのかと思ったけど、居残り? しかも毎日? 体壊すぞ』

『そうだよ。私たまたまかと思ったら、次の日も残ってるし……流石にやり過ぎじゃないかな』


 心配してくれてるのは嬉しかった。でも、俺の答えは必ずこうだ。


『全然大丈夫だよ』




 時計を見ると、そろそろタイムリミット。ボールを集めると、部室に戻って着替えをする。


「おっ、いつも凄いなぁ。気を付けてね?」


 すっかり顔馴染みになった用務員の人達との挨拶は、もはや練習の締めと言って良い位だ。


 よっし。今日も最後まで先輩達に付いて行けたし、大分慣れてきたかな? 

 そう思う度に、自分が上手くなれたって感じられる。だからこそ、居残り練習だって全然苦じゃなかった。


 まぁその反動か、


「って、思った瞬間どっと体重くなってきた。サッカーやってる時は良いんだけど」


 帰る途中で今日1日の疲労がどっと現れるのが日課になったけど。


「まっ、これも練習の賜物だよな」


 その状態ですら自分にとっては嬉しいかった。それこそが自分が頑張った証拠でもあったから。

 俺は楽しんでいた。満足していた。充実した、この生活に。



「さって、明日も頑張ろうかな。えっと? 明日は……何曜日だっけ?」



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