葵 日向,
体を優しく包み込む…………温かい日差しと心地良い春の匂い。
笑顔を見せる人に、不安そうな顔を覗かせる人。
そんな人達が入り混じり、桜の花びらの中を歩き進むこの日。俺は晴れて高校生になったのだと実感する。
もちろん俺もそんな1人だった。その理由は県内屈指の強豪と呼ばれる仙宗高野で、大好きなサッカーがしたかったから。だから2.1倍の倍率を突破して、入学が決まった時はやっぱり嬉しかった。それに、
「よっ、
「おはよう、
「あっ、日向くーん! おはよう」
「おはよう、
「何言ってんだよ。こいつが勝手に……」
「有り得ないよ。こいつが私に……」
「「はぁ!?」」
同じ中学校だった奴も多くて、入学早々孤立って事もなさそうだ。
特に
今思うと、俺達1年4組には多くのコミュ力抜群の奴らが集まったんだろう。扉を開けた瞬間の、まるで社交パーティーでもやっているかのような光景は未だ鮮明に覚えてる。殆どの奴らが話してて、少し後退りしたよ。
そんな中、自分の席に座ると早速海斗が俺のところに来たっけ。知らない顔を引き連れて。
「日向! なんか顔見た事あるなって思ったらさ、こいつ三中でサッカー部だったって。高校でも続けるみたいだし、仲間だ!」
「よっ! 俺は
「葵鍔コンビ?」
「知らないのか? お前ら両サイドに居て、えげつない事するからそう呼ばれてたぞ?」
「そうなのか? 海斗」
「俺も初めて聞いた。でもなんか格好良くないか?」
「てか県予選準決勝まで行ったら、同世代で知らない奴はいないと思うけど……それにしたって、そんな2人とサッカー出来るのは嬉しい限りだ! よろしくな」
「あぁ、よろし……」
「あっ、夏希! こいつ三中でサッカー部だったって! ……えっ? 隣の子、サッカー部のマネージャーだった?」
そんな感じで、どんどん知らない人との会話が始まる。自分でもそこまで人付き合いが苦手って訳じゃなかったけど、トントン拍子に進んで行く状況に馴染むのには少し時間が必要だった。けど、彼らはそんなのお構いなし。通過儀礼と言っても良いホームルームでの各々の自己紹介は、もはや異例の盛り上がりだった。
「えっと、
「おぉ!」
「なんだイケメンか?」
おいおい、普通自己紹介の時は黙って聞いてるもんだろ。俺の前の
「あいつサッカー上手いんすよ」
しかもそこ、それは俺が話す事だろうが。三中の岡部だっけ? 話したのはさっきが初めてだぞ。
「サッカー上手いんだってぇ」
「凄いねぇ」
うっ、女子達も何でそんなにノリノリ……
「なるほど。葵! お前彼女は居るのか?」
「はっ?」
「彼女だよ。居るの? 居ないの?」
って、間違いない。この人のせいだ。1年4組担任の
自分が女だからって、いきなり女子生徒達に好きなタイプ聞いたりするか? しかもその流れでこれだよ……絶対居ないの分かってて言ってるだろ。ったく、このクラスにこの担任……組み合わせちゃいけないタイプじゃないか。
「いっ……居ません」
「おぉ、聞いたか女子達! 爽やかサッカー少年は今狙い放題だぞ」
「フリーって事?」
「これは……」
なっ! 待て! 一気にザワザワし始めたんですけど? たっ、助けろ海斗! 須賀さん! ……何ニヤニヤしてんだ2人共!
その瞬間は、顔から火が出る位恥ずかしかったよ。まさか彼女が居ない事や、その反応までイジられるとは思わなかったんだ。まぁ、おかげでその後更に色々と話し掛けられるようになったけどさ……
なんて、初日から何とも言えない疲れに襲われたものの、授業が終わる頃には綺麗に消えていた。それもそのはず、待ちに待ったサッカーが出来るんだから。
放課後、足早にサッカー部の部室へと向かった俺、海斗と岡部の3人。マネージャーらしき人に事前に渡されていた入部届を渡し、部室に案内された時にはウズウズして仕方がなかった。そして……
「じゃあ自己紹介してもらおうかな?」
先輩達を目の前にした嬉しさは……忘れられない。
座っていても分かる、中学生とは違う体格。全てを見透かされているような視線。プレーしていなくてもヒシヒシと伝わる雰囲気。
そんな人達とサッカーが出来る。こんな人達とならもっとサッカーが上手くなれる。そう思うだけで、体が震えて、心臓が飛び出る位に鼓動が波打つ。
「じゃあ次!」
「はい。仙宗第一中学校から来ました葵日向です。ポジションはサイドバック……ですが、どこでもプレー出来る選手目指してます」
「ほぉ……」
「面白いな」
「来たな……葵」
「精一杯頑張りますので、宜しくお願いします!」
パチパチパチ
こうして、俺は一癖も二癖もあるクラスと担任。想像以上のサッカー部。そんな新しい環境に足を踏み入れた。
そう、充実した毎日が……スタートしたんだ。
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