第12話 レ・ビュガリゼム

「えっ……エデン君が見つからないって?まぁこんな急に事が起こるとは予想してなかったからなぁ……。ところでレディアは?」


「そ、それが……どこにも居ないの……。」


「まさか……誘拐……では無いか。流石にそれは無い……よな?」


「いやぁ…分からないわよ?あのみんなにモテモテの母さんよ?買い物中に攫われたなんて事も……」


「よ、よしてくれ……レディアにもしものことがあったら父さんは……。」


アーティとアパルティは困っていた。先日から突然レディアがいなくなってしまったのだ。買い物に出かけてくると言い残したまま。目撃情報も無い。手がかりもない。2人はただ右往左往するしか無かった。


隠れ蓑として働いていたギルドは伝書鳩を飛ばし当面の間、休みを要請した。


さてその頃──ギュスターヴはと言うと……


「うむ……。ここはどこだ?」


ギュスターヴは目を覚ますと真っ暗な空間に居た。


「ん……手足も縛られている……か。これは誘拐と言うやつか?」


えっと……昨日?ギルドへ行きギルマスのアジールと出かけた。そして隠れ家的な食事処に入り……熟成された美味い肉……葡萄酒……。


あぁそうか。あのギルマスに嵌められたのか。くそっ!俺はなにをしてるんだ……。騎士ともあろう者が……一般人に拘束されるなんてな……。


しかし──騎士を誘拐するとは何とも豪胆な奴だな。俺が姿を消せば騎士団が躍起になるというのに……。それでも俺を消したかったと言う事なのか?


──勇者のたまごとは……一体なんなのだ?そんなに秘匿せねばならぬ事なのか?シボルト国王が魔王と呼ばれる化け物に太刀打ち出来ないから藁にでもすがる気持ちで探す存在……それが勇者だろ?一般的に知れ渡っている事なのか?謎すぎる……。


ギュスターヴは考えていた。ギルドの秘匿する意味。自分がうむを言わさず拘束された意味。そして─拘束に留まっている意味だ。


なぜ誘拐犯は俺を殺さぬのだ?騎士の身代金など二束三文にもならぬ事など周知の事実だろうに……


騎士とは王国の盾。従って盾に払う賠償金や身代金など皆無。騎士団長ですら使い捨ての駒に過ぎないのだ。


……さてこれからどうしたものか。ギュスターヴは暗黒の中思慮に耽る事とした。


────


エデンは困惑していた。目の前の巨大な魔物に。しかし何ともマヌケだな。体に椅子の大きさがまるであっていない。


ちょこんと腰掛ける……骸骨の化け物。あの状態で臀は痛くないのか?何とも不思議で恐ろしさが半減してしまった。


「あれがこの還らずの洞窟──ビュガリゼム洞窟の王。レ・ビュガリゼムで御座います。」


「レ・ビュガリゼム?」


「はい。まぁこんなしょぼくれた洞窟の王ですから雑魚ですよ。雑魚。エデン様の足元にも及びません。」


「そうだよー!僕たちにちょちょいっと命令してくれたら消し炭すら遺さずに消し去っちゃうよー!」


……ははは。本当に?あの魔物結構強そうじゃん……。The魔王みたいな風貌してるよ?マントとかボロボロだけどさ?手をついているあの禍々しい剣。あれに触れたら死ぬ!ってくらいヤバいオーラが出てるんですけど……。


レ・ビュガリゼムが持つ剣──魔剣ヒキューズド。敵対する全てを氷結させる魔紋を埋め込む。しかし使用者の魔力を枯渇するまで吸収し続けるという代償を伴う。半無限にある魔王だからこそ使える魔剣として有名な逸品だ。


ちょっと怖いけどプチ達が出来るって言うから任せてみよっと……。


「じゃあ……プチ…ピクティル?よ、よろしくね?」


「はーい!じゃいくよ!僕からねー!超高圧縮アルティメットフレア!」


白銀に輝く小さな球体がギューンと言う音を置き去りにして超高速で椅子に鎮座する骸骨の頭部目掛けて飛んでいく。


当たった!──と思った瞬間。鎮座する椅子が爆ぜり骸骨は空中に飛んでいた。しかしそれは予想していた出来事の様でつかさずピクティルの追撃が及ぶ。


「回復Z回復Z回復Z回復Z…………」


グウァァアアアアアアアアアアアアゴェエエエェェェエ


浄化の光が八方から骸骨に向けて矢となり串刺しにする。それをウザそうに毟りとる骸骨。毟り取ろうとする手も浄化されるのかジュウジュウと焼ける音と臭いがする。


オォォォオオオオノノノノノノレレレェェェエエイイイユユユユユルサヌヌヌヌヌヌヌヌゾォォォォオヒキョウモノノノノノガガガガガカカカアアアアア


あ。骸骨さん。怒っちゃった。しかも卑怯者ってキレてる。そりゃそーだよね。まだ相対してもない死角からの全力攻撃。僕でも怒るわ。うん。ごめん。


「ふん!そんなの知ったこっちゃないよーだ。じゃあるじの為に死んで貰うよー!アナイアレイション!」


ちょっと!主のためって!僕はここに入るのさえ躊躇ったのに……。酷いよプチ。


プチから放たれたのは渦を巻く黒炎を中心に取り巻くように煌々と光る7色の光。その全てが揺らめき煌めき黒炎に干渉する。内部で無限に行われる核融合。その核融合の爆発で得たエネルギーをさらに圧縮し続ける。その威力たるや太陽を2つ同時にぶつけ爆発した熱量。


刹那──骸骨の化け物に当たる瞬間。避けようとする化け物の動きすら阻害し蜃気楼が起こる。


その時レ・ビュガリゼムみた映像とは──


伝説の焔龍と古の大精霊の巨大な虚像が自分を見下ろしている映像。


──あ。死ぬわ。これ。


レ・ビュガリゼムは悟った。我は死ぬのだと。悠久の時を我が身の休養に過ごした日々。それは無駄に終わるのだと。もう一度魔王として復活するはずだった。それなのに……小さなニンゲンとトカゲと妖精。そんな巫山戯た奴らにやられるとは夢にも思わなかった。


あぁ無情……。究極大魔王様……我が身朽ちることお許しくださ……


魔王レ・ビュガリゼムはけたたましい爆音と共にその身を焦がした。否。爆散し炭すら残らなかった。


こうして帰らずの洞窟─未踏のビュガリゼム洞窟はエデンによって踏破されてしまうこととなったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る