第11話 ボスの間

「参ったな……本当に何の情報もねぇ……。」


ギュスターヴは困っていた。リミアス領のありとあらゆるギルド支部へと足を運び情報を求めるもそれらしき情報は見つからない。


まずい。まずいぞ……このままでは……。


「ここが最後…メイパル…か。…こんな辺鄙な場所に勇者なんて……。」


俺は半信半疑のまま一直線にギルドへと向かった。


「いらっしゃいませ!どんな御用ですか?」


ギルドの受付──今日この時間の担当は……


メリルだった。メリルは地味で目立たないが端正な顔立ちで化粧をすると化ける逸材。しかし本人はガサツですっぴん姿のまま受付にたつことが多く冒険者達ですらその素材の良さを理解していない。


「あぁ。すまぬが少し聞きたいことがあってな。俺はこう言う者だ。」


ギュスターヴは今まで通り王国の紋章が入った封書を見せた。中には王が直々に認めた王命──勇者の捜索といった内容が書かれている。しかし殆どのギルド職員達は王国の紋章を見せるだけで身元の確認を終え情報を開示してくれていた。


「……王国から…。暫くお待ち頂けますか?」


「うむ。分かった。そこのテーブルで待つことにしよう。」


ギュスターヴはギルド内に併設されている立ち飲み様テーブルにもたれ掛かるようにしてギルド職員が呼ぶのを待つことにした。


メリルは不審に思われない様に作り笑いを浮かべそのまま奥のギルマスがいる扉へと入っていった。


──ついに。ついに来たんだわ!これが……シュッテンドル王子の追手ね……。


「ギルマス……来ました。アパネスさんに連絡を!」


「……遂に来たか。分かった。儂に任せとけ!」


ギルマスは小さな水晶を机から取り出して窓から地面に落とし割った。水晶は砕け散り中からは煙が発生。煙は浮き上がるとたちまち空へと昇った。空へと昇った煙は龍を象る。そして一直線にどこかへと向かって行った。


ギルマスは煙の行方を見守ると扉を開けつかつかと直接ギュスターヴの元へと迎えに行った。


「お待たせした。俺がメイパルのギルドマスター…アジールだ。」


「これはこれは。責任者の登場か。ここでは話せぬ内容ゆえ…どこか別の場所でお聞きしたい事があるのだが…。よろしいか?」


「あぁ……そりゃ確かに聞かれちゃ不味いよな。よしっ。分かった。いい場所がある。ついてこい。」


ギルマスはギルドを出るととある場所へと向かうのだった。



──ついに……ついに来てしまったのか。


我が家の中庭には煙で出来た龍がゆらゆらと立ち昇っていた。これはいざと言う時の為にギルマスに連絡用として預けていた魔道具。予め目的や到着場所を決めることで簡易連絡手段として使える便利な物だが……本当に使われる時が来るとは。シュッテンドルめ……許すまじ!


アーティはプンスカ怒りながらアパネスの元へと向かう。


「我が愛しの娘よ…遂に…遂にこの時が来てしまったようだ……。」


「!?」


アパネスもといアパルティは驚愕の表情を浮かべたかと思えば次の瞬間にはとても悲しそうな顔になる。


「──そう。教えてくれてありがとうお父様。私……行くわ。」


「なっ…!?それはならん!ならんのだ!!お前までみすみす王家に殺されるなど……儂には耐えられん!」


「…でもこのままじゃあティレンス兄様が浮かばれませんわ……。」


「それは……しかし……。」


「いいの。私が決めたことだから。お父様はシュッテンドルの失脚と公爵家へ陞爵出来るように頑張って?」


「なぁ…アパルティよ……もう良いのだ。儂は公爵になんぞ未練はない。しかし王家の連中を許す訳にはいかぬ。ティレンスの仇……あの阿婆擦れ女狐の首を取るまでは儂は死ぬに死にきれん!だがその為にアパルティが犠牲になる必要は無いんだ。」


「うん…うん…でもお兄様の仇どうしても討ちたくって…あたし…ごめんなさいお父様…。」


2人は抱き合いティレンスを想って泣いた。それを見ていた1人の影。


「あらあら~父娘が抱き合っちゃってぇ。妬いちゃうわよ?うふふふ。」


アパルティの母レディアだ。美しく長い薄桜色の髪と豊満な乳をたゆたゆと揺らしイヤイヤする女性。とても20歳の娘がいるようには見えない美貌の持ち主で街に出ればナンパの嵐だ。


「ふふ…2人は仲良くここにいてちょうだいね?私は少し買い物に出かけてきますので。」


そう言うとレディアは音もなく部屋を出て行った。こう言う時の母に逆らってはいけないと常々キツく教えられてきたアパルティは昂る気持ちを抑えるとソファーへと深く腰掛けた。


そしてこれからどうするのか。どうなるのか。父娘で話し合うのだった。



さて。この時エデン少年はというと……いつもの還らずの洞窟に居た。何故かと言えば新たなスキル産卵Mを確かめる為である。


何故か街中や宿屋といった場所ではスキルが使えず試すことすら出来ない。面倒ではあるが発動した経験から還らずの洞窟に来るしか無かったのである。


「あ~あぁ~。どうしよっかぁ~プチィ~」


「あるじの思うままでいいと思うよー?」


「そっかぁ~。じゃあピクティルはどう思う?」


「そうですわね……ワタクシは反対で御座います。我が愛しの主様があんな小娘の……あぁ!考えるだけでおぞましいですわ!」


「ふぅん……。そっかぁ~。あー。どうしよう~。こういう時優柔不断なのがボクのダメな所だよなぁ~はぁ~」


エデン少年は悩んでいた。リミアス家からの指名依頼。それを受けるか受けないかを。


そして悩みながら還らずの洞窟を進んだ結果前回休んでいた28階層を突破し30階層にある巨大な扉の前に立っていた。


「あ。あるじー?これボスだよー?」


「ふぇ?ぼ、ぼ、ぼ、ぼぼぼぼ」


「ボスですわ。」


「あ。うん。ボス……だよね?あのダンジョンとかの最奥に居てめっちゃ強いって有名なあのボスだよね?」


「うん。」「です。」


「だぁぁ~。やっぱそのやつだよね~?僕には荷が重いよ……ここで帰ろうかな……」


「なっ!?せっかくここまで来たのです!倒して帰りましょう!倒せばお宝もありますよ?」


「え!?ほ、本当に?お宝?」


「はい!お宝に御座います。」


「じゃ…ちょっとだけ。ちょっとだけ見るだけだよ?それでもいい?」


「「はぁい!(うん!)」」


2人は攻略する気マンマンみたいだ。僕はそんな気サラサラ無いんだけど…でも…気にならないかって言われたら気になる。


だってボスだよ?BOSS……僕の様な底辺の駆け出し冒険者でも夢に見る強者。そして魅惑のお宝……。


気にならないって方がおかしいよ。


「じゃあちょっとだけ……失礼しまーす……」


僕は巨大な扉に手をかけた。


「えっ!?はぁ~~!?」


すると扉は開くことなくスルりと扉をすり抜けてしまった。


「やばっ!ちょ!戻るよ?……」


僕は必死に扉のあった後ろをキョロキョロ見渡しましたが扉はいくら探しても見つかりません。


「ごめんねぇ~あるじ~」


「申し訳ございません。主様。」


──何がゴメンなの!ちゃんと教えて!!


「ボスの間は1度入ると倒すまで出ることは出来ないで御座います。」


──なっ!?嘘でしょ!!!そんな事ギルドでも聞いた事………。あっ!?そっか……僕駆け出し冒険者だから教える必要もなかったんだ……。うわ……やらかした……。


「でもね?あるじ~。安心していいよ?僕たちあんなのには負けないからさ~?」


「無論に御座います。」


あ、あんなの?


僕はプチやピクティルがそう言うので周囲を伺いそして扉から見て正面……そこを見るとボスの部屋の中には1匹の巨大な魔物が豪華な椅子に鎮座していたのだった。

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