第10話 ギュスターヴ奔走

ここはシボルト王国─


「なぁ?ギュスターヴよ。まだ見つからぬのか?」


「申し訳ございませぬ。色々手を尽くしてはいるのですが…まだ手がかりすらない状態でして……。」


「ちっ……この無能どもめ!」


怒る小太りずるむけハゲおじさんことシボルト王国の宰相リカルドは苛立ちを隠せないでいた。


それもそのはず──王国お抱えの占者ノストラダマスの占いで彼らが現在喉から手が出る程欲しい人材の発現を予言したからである。


魔族の王が人類に宣戦布告してからというもの、魔物達の被害に苦しんでいた。それはシボルト王国も例外ではなく生産性の低下に加え、商業の衰退、人口の減少、やがて王国の財政が傾く事態まで発展していた。


そんな事態の収拾を図るため…シボルト王国が考えた方策こそ《勇者》による魔王討伐であった。


それは正しく他力本願の何のでも無いのだが有象無象の魔物達にすら手こずる王国騎士では魔王に太刀打ち出来ないことは明白で冒険者と言えどAランクやSランクの魔物には手を焼くのだ。


勇者という絶対的強者に頼ってもいいじゃん!という安易な他力本願で勇者という眉唾物の登場を待ち望んでいたのだ。そしてその方向で王国が動けば戦力を魔王討伐に割くことなく防衛に力を注げるのだ。人口の減少が囁かれる中これは寧ろ仕方のないネガティブ思考であった。


しかし──そんな折ノストラダマスによる予言が城内を賑わすことになる。


──勇者のたまごが現れる……南西の方角……辺境伯リミアスの領土付近に……


あぁこれは神が私たちに与えてくれた希望だ。女神テイレシアースの御加護だとシボルト王国は沸き立った。しかし使者を送り調査させ散々待った挙句にひと握りの情報も持ち帰れない。


とうとう業を煮やした国王がギュスターヴ本人に直接命令を下すことになったのだ。


──王国の騎士ギュスターヴよ。我が国の救世主となりえる勇者の捜索を命じる──と。


こうしてギュスターヴは王命を受けリミアス領へと向かう事になったのだった。



───


リミアス領へは馬車を飛ばして約10日かかる。その間に予言の内容について復唱、咀嚼し王命の達成に向けて万全を期すギュスターヴ。


しかしここに来て問題が浮上する。


リミアス家が見つからない?どういう事だ?リミアスと言えば旧リィミア家。王族の手で王都を追われ辺境の地へと左遷されはしたが元公爵家……名家だぞ?


武官だった当主アーティは文武に優れた偉丈夫であったはず。辺境伯へとその地位を落としたもののその権力や財力は健在のはず。そのリミアス家の場所が不明。これは明らかに怪しい。怪しすぎるぞ。


ギュスターヴは王命の勇者捜索と同時にリミアス家の調査を並行して行う事にしたのだ。しかし領内は管理され平和そのもの。辺境の地というのは各国との領土と隣接する位置にある。故に戦争やトラブルも多くその財力や武力への管理監督や指示系統が優れていないと直ぐに他国に出し抜かれてしまう。


──うむ。おかしいな。健全すぎる。


領主が雲隠れしているならば領土内の財政、治安の悪化は免れないはず。しかしリミアス領は違った。いやそもそも前例のない事だった。領主の雲隠れなど聞いた事ない。


寧ろそのような領主に従う領民……。怪しい。怪しすぎる。


なんなんだ?ここは……。ギュスターヴはどんどんリミアス家の謎に深入りするようになっていく。


そしてそれはリミアス家の耳にも入ることとなる。


王国騎士ギュスターヴが領内を嗅ぎ回っていると。


──これはまずいな。領主としての仕事はしているが実務と言えば第三者によるものが大半を締めていた。無論自らが出ていかねばならない時は万全を期して実務を行っていた。だがそれも──そろそろ限界か。


領主の屋敷に隠匿の魔法をかけ結界を張り領民にすら隠れて暮らすのには訳があった。それは……。

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