第9話 リミアス家の素性

「……えっと……本当に良いんですか?」


「ああ…構わんよ。寧ろこの目で見たいのだ。」


何故こんな事になってしまったのだろう……。テイムモンスターをこんな豪華な部屋で披露するなんて……本当に大丈夫なんだろうか……。壊したりしないだろうか。まぁプチたちは大人しくしててくれるだろうけど……。


「じゃ…じゃあ……。プチ出ておいで?ピクティルも姿を見せてくれる?」


「うん!いいよーあるじー!」


「了解しました。主様。」


2人のテイムモンスターはそう言うとすぐさま僕の頭上に姿を現した。


「おお……これが……だが…本当にこんな小さな生物が焔龍と大精霊なのか?とてもそんな力がある様には見えんが……。」


「はは…僕もそんなに大層なものでは無いと思うのですがギルドカードにはその様に書いてあるのです……。」


エデン少年は自信なさそうにアパネスの父に語りかける。


──失礼な奴だね。滅しちゃおっか?あるじ。


──そうでございますわね。失礼にも程がありますわ。ワタクシの回復Zで過剰回復させてあげましょうかしら…うふふ。


2人の声が僕だけに響く。念話のスキルを持たないアパネスさん達には2人の声は届くことはない。きゅー!や不吉な笑い声が響くのみなのだ。


「ね?お願いだからやめよ?僕、怒っちゃうよ?」


「へ?な、なにを急に!?」

「あ!ごめんなさい。プチとピクティルが暴れそうだったので窘めていたのですが……。」


「焔龍が暴れる……ま、不味い……世界の終わりだ!焔龍様!どうか……どうか……お怒りをお鎮め下さい……」


──ふぅん。ワタクシは暴れても良いんですのね?じゃあ回復Z回復Z回復Z回復Z回復Z……


「うぅ?なんだ?この疲労が無くなっていく感じは……あぁこれが大精霊様の御加護……え?いや……もうこれ以上は……アヒャ……アヒャヒャヒャ……ヒュー……ヒュー……頭が……た、たしゅ……け……て……」


「こら!ピクティル!何してるの!」


「も、申し訳ありません……。この人間風情がワタクシを蔑ろにし、更には主様を疑うような発言……。並びに焔龍さえ鎮れば良いと言う浅はかな判断……。許せなかったのでございます……。」


「でもダメでしょ!危害を加えたら!」


「いえ……決して危害など加えておりません。寧ろ極楽の様な快楽を継続的に与えたのです。」


「……それ続けたらどうなるの?」


「脳細胞が破壊され廃人となります。体のどの部分を動かしても異常なまでの快楽が押し寄せ穴という穴から排泄し続けるようになります。」


──なにそれ怖い……。てかまだ一瞬で死に絶える焔龍のプチファイアの方がマシなのではないだろうか。いや間違いなくそうだ。この妖精さん怒らせたらやべぇやつだったわ。エデンはそう思わずにはいられなかった。


「あは、あははは。でもまだ大丈夫なんだ……よね?」


「はい。勿論にございます。異常回復Z……。これで全ては元通りでございます。」


「あ、もう…少し壊れかけてたわけ?」


「はい。2度がけ以上すれば即座に脳内破壊が起こり始めます。この豚野郎の87%は脳細胞が壊れていた計算です。」


──いやん。ほぼ死んでるやん。でもこの会話誰にも聞こえないのが救いだわ。大丈夫だったとシラを切るしか無い!


「だ、大丈夫でしたか?」


「あひゃ……ん?んん?ゴホン……うむ。大丈夫だ。軽い貧血か何かだったのだろう……。いやそんな気がする……。頭が痛い……痛い……なぜだ?思い出せん……思い出せんのだー!!!」


頭をガンガンとテーブルに叩きつけ喚き始めるアパネスの父。周囲もその変貌ぶりに危険を感じたのか彼の両脇を抱え自室に連れて行ってしまった。


「しょ…少々お待ちくださいまし……。」


メイドの人にビクビクと待つように案内されたがアパネスさんは「ごめんなさい。父が余計なことを言ったのがいけないのよね?」と言ってくれたので「ちょっと妖精さんが怒っちゃったみたいで…でも全部回復したみたいなので直に落ち着くと思います。」と返しておいた。


それから──数分後。


アパネスの父は少し憔悴しきった様子だったがそれ以外は普通と言わんばかりにスタスタと僕らのいた部屋へと戻ってきた。


「ゴホンっ……すまぬな。取り乱してしまった様だ。なぁに直ぐに良くな………ひぃぃぃぃぃ!」


あ。ピクティルがまだ怒ってるのか姿を現し威圧している。


「こら!止めなさい!」


「はい。申し訳ございません。主様。」


「……す、すまぬが見えぬようにして頂けないだろうか…。このままでは話が進まぬゆえ……勝手な申し出誠に申し訳ないのだが……。」


めちゃくちゃ丁寧に回りくどくピクティル怖い!と言ってきたので少しクスリと笑いそうになるもピクティルをポケットの中に入るように念話で指示した。


ポケットにはいった事を確認したアパネスの父は咳払いをすると挨拶からし直した。それはまるで先程までの下りはなかったことにしてくれと言わんばかりだった。


「ゴホンっ。私はリミアス・ディ・アーティ。ご存知かも知れないがここら辺一帯の自治を任されている領主の様な者だ。」


「あ……う……ごめんなさい。ちょっと知らないのですが……。」


「まぁそれも仕方なかろう……な。我が家は王都から追われ辺境伯と成り下がった公爵家……リィミア家なのだから。」


「リィミア家……!?って……あ、あの!?」


「ふふふ……どのように噂されているかは知らぬが……そのリィミア家だろう。リィミアと言えば我が家しかないのでな。」


──マジですか……。あの有名なリィミア家か。王位継承権第2位のシュッテンドル様からの縁談を断った事で有名な公爵家……。それがこんな辺境へ?いや……全く知らなかった。まぁまだ子供の僕にそんなら政治的な言は分からないのだけど……。それでも有名な事件だったのだ。


数年前──


シュッテンドル様のご誕生を祝うパーティーが開かれた。王位継承権第2位ともあって政争に近い思惑も混じり合いそれはゴタゴタしたそうだ。


そんな中ダンスの時間が訪れようとしていた。当時シュッテンドルは13歳。そろそろ婚約者の1人でもと言われていた時期。そんな折見初められたのがリィミア家のご息女……アパルティ様………!?


え?マジか。も、もしかして……アパルティって……?


僕がアパネスさんを見ると不敵な笑みで僕を見返し口パクで「内緒ですよ?」と口を動かした。


──ドクン。僕の心臓はバクバク言い始め止まるかと思ってしまった。


あのギルドの職員がよもや公爵家のご息女とは……。ありえない……ありえない。


僕はこの人達に一体なにをお願いされるのだろう……。怖すぎるよ……。

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