第8話 リミアス家へご招待

ボロボロの掘っ建て小屋の様な家の中は驚くべき事に綺麗に装飾された貴族の邸宅の様であった。天井には美しく光を魅力的に散乱させるシャンデリア。テーブルや椅子に至ってもとても品があり老婆が使うにしては洒落すぎていた。


「ようこそ─我がリミアス家へ。」


老婆が優雅に挨拶をするとしゅるしゅるっと音を立てて衣服やその容姿すら変貌を遂げる。


──言葉にならない。


先程までの決して綺麗とは言えない老婆が制服を纏った美しい妙齢の女性……所謂メイドへと変貌したのだ。


「お帰りなさいませ。お嬢様。」


「うん。ただいまダリア。お父様は?」


「まだご帰宅されておりません。…でそちらご客人は?」


「あぁ……この子は……我が家の救世主となるかもしれない子よ。丁寧におもてなししてくれる?」


「はい。分かりましたお嬢様。ご客人様こちらへどうぞ。」


僕は美しい妙齢の女性メイド…ダリアに引き連れられ衣装室の様な場所へと連れてこられた。そしてブツブツ言う彼女にあっという間に下着姿にされると着せ替え人形のようにあーでもない。こーでもないと言いながら何着も着替えさせられた。


そしてスラッとした真っ黒のタキシードを着せられた僕にうっとりとした視線を向けると「よしっ!」と声を出して僕は開放されたのだった。


──僕は着せ替え人形にされたこの瞬間をもって、この人に逆らうのはやめようと心に誓った。


「お嬢様。ご準備が整いました。」


いつの間にかセットされた頭髪に高額そうな装飾品の数々。いつの間にやったんだよ……と謎だがダリアの仕業に間違いはなくエデンに追及する勇気はなかった。


「まぁ!矢張り思っていた通りですね。カッコイイですよ?エデン君。」


パチッとウィンクしたアパネスさんも既にドレスに着替えていてとてもじゃないがギルド職員に見えない……って!トレードマークの眼鏡をかけていない。そして眼鏡をとった姿が想像を絶するほど妖艶で美しく僕は目が釘付けになってしまった。


「うふふふ。そんなに見つめられると照れちゃいます。」


「あっ!ご、ごめん……。でもアパネスさんが綺麗すぎて……」


「あら?ありがとうございます。エデン君に褒められると私も嬉しいです。」


少しだけ頬を赤らめ両手を頬にポンポンと当て照れるような仕草をするアパネスさんが綺麗なのに可愛くて僕はまた見とれてしまう。


「もぅ……。そんなに見つめちゃ嫌ですわ。」


くるりと後ろを向いたアパネスさんに僕は更に目を奪われてしまった。


ドレスの背中部分は大きく開きお尻の割れ目が見えるか見えないかという布面積。僕は見てはいけないものを見た気がして視線を下に下げてしまう。


「あっ!お父様。お帰りなさいませ。」


──どうやらアパネスさんのお父さんが帰ってきたようだ。


「うむ。ただいま。……ん?こちらは?」


僕の方を見ると軽く会釈された後にそう言われた。それにしても明らかに年下……いや、子供に対する礼儀と言うかもっとぞんざいに扱われるはず年齢に対して紳士的に接する男性に僕は好感を持たずにはいられなかった。


「は、はい。僕はエデン。つい先日冒険者となった駆け出しの冒険者です。本日は娘さんのアパネスさんに連れられてここに来ました。」


「ほほぅ……これはこれは。これが噂の娘がよく話題に出すエデン少年か。ほぅほぅ…ううん。中々よく出来た少年の様だ。」


「いえ……滅相もございません。まだまだ子供故失礼をはたらくかも知れません。何卒ご容赦願います……。」


少年ながら今までの経験からか世渡り上手なエデンだったが本人はその自覚は全くもってない。


「うむ……。アパネスよ。私は少し休むが話は夕食の後で良いか?」


「はい。お父様。エデン君もお時間大丈夫?」


「あ。はい。特に用事も無いので……ただプチがちょっと窮屈そうなのでどこか広い場所があれば出して上げたいのですが……。」


「うん。分かったわ。中庭に案内するわね?」


「はい。よろしくお願いします。」


僕は夕飯までの間プチとピクティルを自由にさせてあげるために中庭へと向かった。


中庭はとてもスラムの一角とは思えぬほど広く何か特殊な効果なのか採光され明るく穏やかな天候で地面には美しい花々が咲き誇っていた。


「うふふ。ビックリしたでしょう?ここは我が屋敷自慢の場所なの。私が一番好きな場所でもあるのよ。」


「はい。素晴らしいです!じゃあちょっと失礼して……プチ?出てきていいよ?ピクティルも姿を現して?」


「やったー!」


「了解しました。主様。」


2人のテイムモンスターが現れるとアパネスさんは少しビクッとしたけど直ぐに慣れて少しの間中庭で戯れた。


「──お嬢様。アパネスお嬢様。そろそろ夕食の準備が整います。」


パタパタと侍女らしきメイド服の女性が来てアパネスさんに声を掛けた。


「はーい!分かったわ!じゃあエデン君行こっか?」


「はいっ!プチ、ピクティルごめんけど服の中に隠れててくれる?」


──僕達は夕飯の会場へと向かうのだった。そこではとんでもない話をされる事になるのだが……この時のエデン少年は知る由もなかった。

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