第7話 アレックスの怒り

「おい!どういう事だよ!シルバーゴーレムの目撃情報がたったこれっぽっちだぁー?危険度Bランクだぜ?おいおい。乳に栄養持っていかれすぎて頭おかしくなったか?あぁん?」


「いえ。これで満額です。これでも少し色をつけさせて頂いてます。」


アパネスが目を細め淡々と答える。受付にはアレックス対策として結界が張られ接触を事実上不可能にしていた。その上でアパネスは蔑んだ目でアレックスを見やり淡々と続ける。


「……あと。誤報もありました。エデンさんはご健在でございます。こちらは当日ご本人様と直接接触致しましたので情報料はお支払いできかねます。」


「は!?う、嘘つけ!エデンはあの時俺たちの為に囮になったんだぞ?」


「いえ。本当です。ご本人の意向でパーティは脱退となっていますがご健在でございます。更にシルバーゴーレムはエデン様が討伐されています。従ってアレックスさんの目撃情報は既に有用ではなく当日討伐された事前報告という形に収まります。よって此度の報酬は銀貨5枚でございます。」


「……ちっ!くそが!!!あのガキ……ゆるさねぇ……!」


「アレックスさん?ギルドの規則をお忘れですか?もしも万が一エデン様に手出しなさるようなら冒険者資格の剥奪。王都へ強制送還後裁定にかけられ良くて島流し、ほとんどの場合が極刑です。お分かりですか?貴方の悪行は既に王都にすら届いております。くれぐれもお忘れなきようお願いしますね?」


アパネスはこの場でアレックスを睨み殺す程怨念かがった眼で睨みつけ最後に一切目が笑ってない笑顔でニコリと頭を下げた。


「わわ、分かってるよ!ふん!じゃあな。また来るわ!」


「次のご利用お待ちして……」


アパネスが最後まで言う前にアレックスはギルドを後にした。


「クソ外道が……二度と来るんじゃない!べーーーだ!」


ギルドにいた冒険者達も鼻につく態度のアレックスに業を煮やし「そうだそうだ!二度と来るな!」と声を上げていた。


──それから約4時間後。


「たっだいまー!アパネスさんいるかなぁ……。あ!いた!おーーーい!」


エデンは帰り支度をしていたのか私服姿のアパネスに声を掛けた。


「あ!エデンさん。お疲れ様です。どうなさいましたか?」


「えへへへ。また仲間が出来たんでステータスの確認に来たんです!」


「え?またお仲間が?えっとどちらにいらっしゃるのですか?」


……え?もしかして見えてないの?


「主様。ワタクシ達妖精族は隠遁的いんとんてき存在。故に主様のご命令無い間は見えぬ仕組みなのでございます。」


ああ。そうなんだ。そうなると……内緒にしてた方が良いかもだなぁ……。トラブルに巻き込まれそうな気がするし……。


「……えへへ。仲間……いなくなっちゃったみたい。逃げられちゃったのかも。あはははは。」


軽く惚けてアパネスに返答した。しかしどうやら僕の嘘はお見通しの様で……


「……はい。分かりました。ではこちらにおいでください。」


「え?仕事終わっちゃったんでしょ?いいの?」


「はい。お仲間に逃げられたのですよね?それなら……私が適任なのでは?」


「……あはは。アパネスさんには敵わないや…。じゃあお願いします。」


僕は嘘を見抜かれ何とも情けなかった。頭をポリポリとかき照れ隠しをした。


「じゃあ始めますね。こちらに手をお出しください。」


──いつものステータス確認が始まった。


名前 エデン

種族 人間

ジョブ テイマー

スキル 産卵S++・産卵M・念話

レベル 3

体力 16

力 12

耐久 8

素早さ 19

知力 22

運 25


テイムモンスター : プチ(焔龍) : ピクティル(大精霊)


「………!?!?」


「だ…だいせい……ぐむっ!」


これダメなやつよ!言っちゃダメ!大精霊なんて何千年も前に絶滅した世界の起源に関わる種族じゃない!妖精族って纏めちゃダメなやつ!焔龍もそう!伝説級の龍……。神々と戦ったとされる厄災級の龍……。これがもしエラーじゃないとしたら……この子とんでもない逸材を仲間にしてる……。こんなの誰にも知られちゃダメよ!私……私が守ってあげなくちゃ!


「エデン様。ちょっとこちらに……」


僕はステータス確認を済ませる前にアパネスさんに連れられてギルドを後にした。


──そしてギルドから出るとアパネスさんに言われるまま街の路地を通り……小汚い小屋の前に着いた。


とても人が住んでいそうでは無い場所。近くには物乞いやボロボロの服を着た子供。ここは間違いなくスラムだ。アパネスさんこんな場所に連れてきて僕ってば騙されてるのかな?


当初僕はそう思っていた。しかし彼女は物乞いをしているおじさんや身寄りのなさそうな子供達と気さくに挨拶していた。


「エデン君?君一人でここに来ちゃダメよ?もし……守らなかったら何されても文句は言えないからね?」


「う、うん。分かったよ。」


「じゃ。入ろっか。コンコン……私。アパネスよ。」


ぎぃぃぃ……


「良く来たね。さぁお入りよ。」


中からは顔が皺くちゃで白髪を一つ結びにした老婆が出てきた。僕が中に入ることを躊躇っていると老婆が僕に話しかけてきた。


「さぁ。君も遠慮無くお入り。アパネスが連れてきたんだ。客人として迎えようじゃないか。」


「……お、お邪魔します……。」


「いーっひっひっひっひっ……」


「ひぃぃ……」


僕は途轍も無く恐ろしい笑い声を聞き声にならぬ悲鳴を上げた。


「もう……おばぁ!その笑い怖いから辞めなって何度も言ってるでしょ!」


「ひっひっひっ。まぁそう言いなさんな。おばぁの口癖みたいなもんじゃで。許してやっておくれ。」


「もーぅ……。」


僕は何とも恐ろしい笑い方をする老婆の住処に上がり込んでしまったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る