第6話 ビュガリゼム洞窟~ピクティル召喚

ギルドの報告が終わった翌日の事。


僕とプチはまたダンジョンに来ていた。


炎嵐にくっついて来ていた時は知らなかったけれどこのダンジョンには特異な点があるみたいだった。それはアレックスが意図的に教えなかっただけなのだが本来知らずに入る事は死を意味していた。


ビュガリゼム洞窟。別名…還らずの洞窟


頻繁に上層部に現れる強い魔物。そしてスタンピードが最も起こりやすいとされる特Aランク指定のダンジョンだったのだ。下手をするとSランクダンジョンよりも危険度の高い特Aランクは基本的にSランク以上のパーティ以外入ることは無い。寧ろ敬遠され目撃情報すら重宝され高額で取引される。


踏破した者もおらずまた挑戦者も少ない……別の見方をすれば目撃者の少ないダンジョン。


自らは危険を犯すことなく囮を見捨て蹂躙される様を傍観するには最も適した場所。それがビュガリゼム洞窟なのだ。


「僕は囮にされるべくして仲間に入れてもらってたんだね……つくづく呆れるよ彼らには。」


「きゅーーー!きゅっきゅー!」


「はは!そうだね?でもそのお陰でプチと出会えたんだ!寧ろラッキーだったのかもなー。プチありがとね?」


「きゅー!」


トンっと胸を短い手で叩くと自慢げに宙返りをした。


「来たよ!牛の魔物だ!」


エデンは何故か斥候としての才能に長け、竜種の索敵能力の更に上をいっていた。これはプチを仲間にした事で更に上昇した能力であったがステータスにあらわれない為にちょっと鼻が利くな位にしか本人は感じていない。


ごぉぉぉぉお!


プチがプチファイア──もとい高圧縮のメガフレアを放つ。炎属性に耐久のあるミノタウロスだが太陽すら凌駕するメガフレアの核に触れた瞬間に消し炭となり胸にある魔石をコロンと落とした。


「うぉぉぉ!やった!初ドロップだ!それも高純度の魔石?いぇーーーい!」


ぴょんぴょんと飛び回るエデンに嬉しくなったのかプチもクルクル回り始める。


その時だ。エデンに悲劇が起こる。


バゴーーーーーーン!


洞窟の壁の中からエデンの足目掛けて何かが飛び出してきた。


歓喜に湧いていた2人は索敵の精彩に欠け、壁からの攻撃に気づかなかった。それ故の失態。エデンの右足は膝から下が無惨にも食いちぎられた。


「ぎゃぁぁぁああ!痛い!痛いよプチ!」


右足が無くなった痛みとバランスを失い倒れたことから地面を転がり回るエデン。それを見たプチは今までにないほどの怒りを露わにする。


──貴様……よくも我が主を!!!


消し飛ぶがいい!究極焔獄アルティメットフレア!!!


今までのメガフレアとは明らかに異なる光り輝く純白の閃光弾。音速を超えた速さで壁から出てきた岩男の様な魔物に当たると岩男の体内で急停止。刹那─岩男の体が宙を舞い八方に白く閃光する。


ピュン……


小さな音とともに岩男の存在自体が無かったかのように消滅した。


「きゅーーーーー!きゅきゅきゅー!!!きゅーーー!きゅきゅーー!」


「痛たたた、、、痛いよぉ……僕死んじゃうのかな……」


「きゅっきゅー!きゅーーー!」


「え……?スキル?スキルを使えって言うの?」


「きゅー!!!」


「はは……うん。いいよ。どうせこのままじゃ死ぬのを待つだけなんだし……」


「じゃあいく……いてて……。産卵S+発動!」


次の瞬間。僕の掌にはプチが出てきたよりも少しだけ大きな卵の残像のような影が現れた。前回の時は発動の時に実物が現れたのに今回は違った。


「ん?ちょっと大きくなった…?いや……ただの見間違いだろう。血を流しすぎたせいかな?もう目もおかしくなってきたみたいだ……。ははは。ごめんね。ダメな主人で。」


「きゅーーー!きゅきゅきゅー!」


───スキル《産卵S》を使用しますか?YES/NO


うん。YES。


──スキル《産卵S》を発動します。


種族をお選びください。


竜種/亜人/人族/妖精


ん?妖精って前はなかったはず。じゃあ妖精さんにするか……。


妖精で!


タイプをお選びください。


攻撃/補助/回復


え?回復?もしかしたら今の僕の足も……いやいや。欠損が治せる魔法なんて眉唾物の古の魔術だし……でも回復してくれたら少しは楽になれるかもしれないな。よし!回復……!ふぅ……


足からの出血が止まらず貧血になりかけているエデン。もはや顔面蒼白で意識も朦朧としてきていた。


回復で!!


刹那──


掌に浮かんでいた卵の残像のような影が深緑に変化する。そして外殻には葉脈の様な線が幾本も現れる。その葉脈に僕の体内から何かが吸われていく様な感覚に陥った。


「うぅ…これって……魔力が吸われているの?どんどん力が抜けていく……」


そしてそれが止まる時には僕の意識は途絶えブラックアウトしてしまった。


──────


「……エ…様?……ン様!」


「……誰?僕を呼んでるのは…?あ!もしかして母さん?父さん?僕さっきの襲撃で死んじゃったのかな……?」


「きゅーーーー!」


今のはプチの声だな?体が少し重たいけど右足にはそれほど痛みも無いから目を開けて……。


「え?ここどこ?」


気づけば僕はどこかの部屋の中にいるようだった。首を傾け左右を見てみるとここはまだダンジョンの中だろうと感じた。


「ここは還らずの洞窟──28階層にございます。」


「…。え!?だ、誰!?」


「この度エデン様に召喚されし妖精にございます。以後お見知りおきを。」


「……。あぁ。そっか。僕が産卵S+を使ってその後……意識が朦朧としたんだった……。プチ!プチは?」


「ここにいるよー!あるじーー!」


「!?」


「えへへへー!驚いた?僕の後輩が出来たことであるじのテイムレベルが上がったんだよー!だから僕とも会話出来るようになったんだ!嬉しい?ねぇ?嬉しイィ?」


「あぁ……ビックリした!でも……嬉しいよ!プチと会話出来るなんて!僕てっきり少ししたらいなくなっちゃうんじゃないかって不安だったんだ……。」


「僕がいなくなる時はね……あるじがこの世からいなくなる時だよ。僕のあるじは1人だけだからね!」


「……う、うん!ありがとうプチ!」


「えへへへへへ…」


照れるようにクルクルと回るプチ。


だがエデンに痛みが走る。そう……右足が千切れた事による痛み……。


え?足が……ある?なんで!?


「……あれ?足……足があるよ?な、なんで?」


「それはワタクシの回復Zによるものでございます。」


「ん?回復……Z?」


「はい。此度の召喚で名も無き状態にありましたが勝手ながら主従契約を結ばせて頂きました。その後プチ殿の要請により回復Zを使用した次第にございます。」


「いや…その回復Zってなんなの?」


「回復Zとは回復の最上位魔法でございまして……体の欠損は勿論のこと、生命が途絶えていても約1日以内であれば蘇生することが可能にございます。」


「ふぁ!?そ、そ、蘇生?」


「はい。蘇生にございます。」


「ぷ、プチ?蘇生って……本当なの?」


「うん!そうだよー!だから僕が産卵で妖精さんを呼ぶように勧めたんだ!エッヘン!」


「はは……そうだったのか……プチ……ありがとう。本当に助かったよ!」


僕はクルクルとドヤ顔しつつ照れながら回転するプチをギュッと抱きしめた。


「あるじーーー!苦しいよ?でも……嬉しいや。」


モゾモゾと動くプチに少しくすぐったくなって僕は手を離した。


刹那─。物凄い視線が僕に突き刺さる。


「主様。ワタクシには名も無き状態。イチャイチャされるのはその後にして頂きたく存じます。」


途轍も無く冷たい目線で見つめる妖精さん。卵から飛び出してきたのだろう。プチと同じサイズ…より少しだけ大きいけど、ピンク色の美しい頭髪を靡かせて優雅に貴族然とした挨拶をする。可愛らしい体に似合わず胸は大きく人間ならば巨乳とされる部類。なのに布面積はとても少なく常にパンツが見えている某アニメのワ〇メちゃんのようだった。


「あ……ごめん。蔑ろにしてる訳じゃないんだけど……僕に好意をよせてくれる人っていなかったから嬉しくってつい……名前……名前かぁ……」


「はい。良き名前をお願い致します。」


「うぅ……プレッシャーが……」


良い名……妖精さんだよね……そして回復が得意……ヒール……ピクシー……ピクティ……


「よし!ピクティルって名前は……どう?」


「ピクティル……ワタクシはピクティル……!良い響きです!ありがとうございます!主様これからも末永くよろしくお願い申し上げます。」


「うん!よろしくね!」


僕はダンジョンの中で2度目となる産卵スキルに成功させた。しかしそれは偶然ではなかったがスキル発動についての謎にエデンが気づくのは少し先の話である。

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