第2話 スキル発動

───スキル《産卵S》を使用しますか?YES/NO


ああ……間違えてスキル発動しちゃったのか。でもまだ生きてる。もしかしたら一瞬で殺されちゃうかも知れないけれど……まだ生きてるんだ。


スキルには発動すると時間停止するものが存在する。僕の《産卵S》は時間停止タイプだったみたいだ。


そして僕が望んで望んでやまなかったスキルを得たのは良いが1度も使うこと無く死ぬことは無くなったわけだ。


まぁ何度かは試して見たよ?でも発動しなかったんだ。だからこれが初めてのスキル使用だった。


それだけでも神様に感謝したい。せめてもの情けなのかもしれないけどそれでも僕は喜ばずにはいられなかった。


──ありがとう。神様。


もしかしたら最初で最後になるかもしれない……スキルを発動するぞ!


YES──!


──スキル《産卵S》を発動します。


種族をお選びください。


竜種/亜人/人族


ええぇ……種族?……でもどうせなら竜種だよね?男の子なら竜に憧れるでしょ!


じゃあ……竜種で!


さぁ……来い!産卵Sって何だか分からないけど……来い!


属性をお選びください。


炎/水/氷/雷/光/闇


ちっ……まだ発動しないのかよ!ドキドキしただけ損した気分だよ!ま、まぁ?まだ生きてるから嬉しいんだけども?でもそろそろ生殺しに近い状態だと思うんだよね。それにしても……属性かぁ……これは悩む。


どの属性にしたってカッコイイはずだ。だってあの竜種だよ?伝説のファイヤードラゴンとか出来きちゃったらどうするよ?まるで御伽噺……ぐふふふ……


はっ!?ヨダレが……出てないか。そうだった。時間停止してるんだったな。


時間停止している時に出来ることは考える事と時間停止する要因となったスキル発動のみだ。


でも……まぁ?ファイヤードラゴンとか出てきちゃったら嬉しいし?ここは炎属性か!


じゃあ炎属性で!


──刹那。


僕の目の前には手のひらに収まるほど小さな卵が発現した。炎のように真っ赤な外殻で脈動するかのように赤黒い線が無数に入っていた。そして中身が若干透けて見える。


ドクンっ!


卵が大きく跳ねる。


その瞬間だ。時間停止の効果が切れ、シルバーゴーレムの拳が僕の前に到達……


することはなかった。僕に当たる直前──炎のように赤い卵が間に割って入り僕を助けてくれた。


そして文字通り──卵の殻にヒビが入り……割れた。


中から覗いたのは赤い鱗を持った小さな翼の生えたトカゲだった。


「!?──可愛い……」


僕はその見た目の愛くるしさに目を奪われた。


しかしその状況を良しとしない存在。シルバーゴーレムだ。


先程攻撃を弾き飛ばされたシルバーゴーレムは憤怒し今度は両手で叩きつける攻撃をしてくる。振り上げられた両手によりゴーレムの体は軽く飛び上がり天井に到達する。そしてそれをものともせずに天井を破壊しながら再度僕に迫ろうとする。


しかしそれは僕の元に届くことは無かった。卵の中から飛び出してきた赤い翼を持ったトカゲが僕の前に来たかと思ったら口からプチファイアを放ったからだ。


プチファイア──それは魔法系のスキルをひとつでも持っていれば扱える超初級の魔法でマッチの炎程の大きさだ。


赤い翼を持ったトカゲはそんなプチファイアをシルバーゴーレムに向かって放ったのだ。


──そんな攻撃じゃシルバーゴーレムには……


と思っていた時が僕にもありました。プチファイアが当たったシルバーゴーレムはジュッと音を立てて液状化したのだ。


ん?シルバーゴーレムってもしかして……弱い?だってプチファイアだよ?僕の出したあんなに小さなトカゲのプチファイアで倒せるなら……。ああ。そうか。炎が弱点だったのか!そうか!……良かった。命拾いした……


この時エデンは盛大に勘違いしていたが気づくことは無い。


なんせ見た目はプチファイア。しかし本当は一国を焦土に変えるほどの威力を誇る超高濃度のメガフレアだ。


魔法とは大きさや見た目の派手さと加え圧縮率や速度何てものも威力に反映される。


メガフレアともなれば小さな太陽の塊のようなものだ。それが大きかろうが小さかろうが1万度を優に超える核に触れれば原型を留める術はない。故にシルバーゴーレムの液状化は必然であった。


「やった!やったよ!!プチ!あ……プチって君の名前なんだけど……ごめん。勝手につけちゃった。プチファイアが得意なトカゲって事でプチ……って安直なんだけど……ダメ…かな?」


「きゅっきゅーーーー!」


赤い翼を持ったトカゲもとい…プチは空中で一回転して喜んだ。そして僕の顔に頬擦りする様にまとわりついてきた。


「あははは!もしかして君もプチって名前気に入った?ふふふ。じゃあさ?じゃあさ?これからも僕の傍にいてくれる?」


「きゅっきゅっきゅーーー!」


とても嬉しそうに飛び回るプチ。それは声を発せないがプチの肯定と受け取るに足るものだった。


「うん!じゃあよろしくね?」


「きゅいーーーー!」


さぁ。ダンジョンから脱出しなくちゃな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る