勇者のたまご
たまごちゃん
第1話 プロローグ
ゴツゴツした岩肌に薄暗い空間。壁には先駆者の冒険者たちが攻略した証にもなる半永久に光り続ける特殊な松明が煌々と辺りを照らす。
そうここはダンジョンだ。ダンジョンとは自然に出来た魔物の巣窟を総称してそう呼んでいるのだが……
そんなダンジョンに僕はたった1人で佇んでいた。
なぜ1人なのかって?それは……少し時を戻そう。
「ま、まってよぉ……」
「おいおい。ただでさえ足でまといのお前を俺たちのパーティに置いてやってるんだぞ?わがまま言うんじゃねえ!」
「そうよそうよ!アレックスの言う通り!早くついてきなさい!ゴミムシ以下なんだから!」
「「あははは。」」
アレックス、レベッカの他に2人のパーティーメンバーの笑い声が響く。ミリアムとジャメだ。
アレックスはサラサラ金髪セミロング風のA級剣士でシルバーメイルを纏い白銀の剣を携えている。その風貌はまさに優メンと言えるがそれは表の顔。裏の顔は残忍で人の皮を被った魔物と言えるほどの悪人。
レベッカはそんなアレックスに好かれようと胸を大きくはだけさせ厭らしく着飾り金魚のフンの様に付き纏うB級魔術師。しかし純粋な好意ではなく金の匂いがするから付き纏っているに過ぎないのだがアレックスはその事に気づく素振りもない。
あとの二人についてはモブみたいなものだから説明は省く。
「……ごめんなさい。走るから置いてかないでぇー」
僕は大きな背嚢を背負い必死に彼らの後ろをついて行った。
彼らのパーティーは炎嵐と言うAランクの冒険者パーティでメイパルのギルドでも一二を争う有名なパーティだ。そんなパーティーメンバーに入れてもらえるだけ幸せなのだ。
しかも僕こと……エデンは冒険者登録したばかりのEランク。駆け出し冒険者であり本来ならパーティーに入れてもらえるだけでも有難いのだ。それなのに何故か炎嵐に入れてもらえることになったのだが……。
その役割と言うのがただの荷物持ち兼斥候だ。まぁ悪くいうならばただの囮だろう。でもAランクのパーティーでの経験が今後に役に立つだろうと煮え湯を飲まされようとも歯を食いしばって耐えているのだ。
「うわっ!」
曲がり角を曲がった瞬間のことだ。僕は突然現れた巨体に驚き大きな声を上げてしまった。
「なんだなんだ?あ、あれは……!?」
「「「シルバーゴーレム!!!」」」
ここから数メートルの場所には体高5mに届こうかと言うほど巨大な鉱物で出来た魔物……ゴーレムがいた。しかも運の悪いことにシルバー系であった。
ゴーレムにはその鉱石の配合具合で強さが決まる。下からソイルゴーレム、ストーンゴーレム、アイアンゴーレム、シルバーゴーレムと言った具合で下から4番目のシルバーゴーレムはA級冒険者が10名がかりで討伐するほどの強敵だ。
そんなシルバーゴーレムを見たアレックスは考えた。
──よし!今日はなんてラッキーなんだ!運良く囮がいる日に限って強敵に出くわすなんて……これはエデンを囮にして俺は助かりなさいって神様の思し召しだな!
そんな神様はいないのであるがアレックスには関係ない。
エデンがシルバーゴーレムに威嚇され目が離せなくなっているのをいい事にアレックスはジリジリとレベッカに近づいて行く。
そしてボソリと耳打ちをする。
──エデンにバインドを使えと。
「!?…分かったわ!どうなっても知らないんだから!……バインド!」
──僕の体は全く動かなくなった。
ここが冒頭の場面だ。さて話を続けよう。
バインドとは自分よりレベルの低い者の体を一時的に拘束するデバフだ。無論レベッカよりもレベルの低い僕しかかからないが囮にするには丁度いいと言う訳だ。
──くそっ!……こんな所で……死にたくない!
やっと……やっと僕にもスキルが発現したんだ!……まぁ内容はよく分からない変なスキルだけど……
僕の発現したスキルは《産卵S》だった。
当時の僕は……
「は?産卵?散乱?どういうスキルですか?教えてください!」
「えっと……そう言われましても……」
数日前。僕がギルドへ登録した時のことだ。満10歳になったばかりの僕はスキルもジョブも無くレベルも1。所謂雑魚だ。そこらにいる農奴や家畜にだって負ける。それほどまでに弱いのだ。そんな僕にもスキルが発現した。ジョブは無かったけれど……それでもスキルだ!いつも夢見ていたドラゴンを討伐する冒険噺でも度々出てくるスキル。無論勇者や賢者などのレアジョブのスキルは凄まじくカッコイイけれど僕にだってスキルが発現したんだ。
けれど……《産卵S》
なにそれ。美味しいの?だ。
剣豪とか……もっとさ?極大魔術とか……カッコイイのが良かったよ。
《産卵S》
何を産むの?僕は男だよ?お尻の穴から……うん……しかもエス?なに?大きさ?強さ?もう何が何だか……
ふぅ……考えれば考えるだけ辛くなる。だからこのパーティーメンバーにも内緒にしてあった。
だって《産卵S》なんてスキル見せる訳にもいかないし……でも僕は冒険者に憧れて生きてきたんだ。だから炎嵐とかっていう優男が気持ち悪い笑顔を振りまくパーティに入ったんだ。
最初はさ?胡散臭いから辞めようと思ったよ?でも炎嵐が僕を誘ってきてからは誰も僕のことをパーティに入れてくれそうもなかったんだ。どうもアレックスが根回ししてどうしても僕を手に入れようとしていたみたいだった。
だから仕方なく入ったんだよ。
──その結果がこれなんだけどね。目の前で猛々しく威嚇しているシルバーゴーレム。
僕はバインドのせいで動けないけれどシルバーゴーレムも僕の出方を見ているようだった。
そして──バインドが解けたと同時。
シルバーゴーレムが襲いかかってきた。シルバーに輝く右腕をダンジョンの天井に届きそうなほど振り上げ僕を狙い力を溜めている様だ。
──そんな溜めないでも……僕なんて一撃で死んじゃうよ?……そんな全力攻撃じゃあ僕の体なんて肉片すら残らないじゃん!
でも死にたくない!死にたくないんだ!
僕は必死にシルバーゴーレムの攻撃に備えた。どんな攻撃が来ても避けられるように。
振り上げられたシルバーゴーレムの手がフッと力を抜いた気がした。次の瞬間。空気を切り裂く轟音と共に僕の頭目掛けて振り下ろしてきた。
ゴゴゴゴゴゴゴォォォォー
これはヤバイ……やっぱちょっとでも当たればグチャっと音を立てて死ぬ。
どうにかして逃げなければ……。
ゴーレムの右手は左側に向かって抜けると予想し、右側に横っ飛びして回避を試みた。
だがその動きは読まれていたのだった。ゴーレムの拳は軌道を変えもう目の前まで来ていた。
──あ。死んだ。
僕はそう思ってギュッと目をつぶった。
それから数秒経った。
……ん?痛くないぞ?痛みを感じないほどの衝撃だったのか?いや……そんなはずは……
不思議に思い僕は瞑った目をゆっくりと開き斜め上を見上げた。
するとどうだろう。シルバーゴーレムの動きが目の前で止まってるではないか。なにこれ?バインド?いやいや。メイパルのギルドに所属している冒険者でシルバーゴーレムのレベル相当……50を超えている者は居ないはずだ。
ではなぜ?
そこで僕は気づいたんだ。僕の視界の斜め右下にスキル使用のウィンドウが開いている事に。
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