第34話 本当は怖い童話物語
宗太君と似てるかと思ったら、すぐ頭に血が上って。彩香ちゃんって言ったっけ?彩香ちゃんったら、また馬鹿の一つ覚えに走り回ってるんだろうな~
ま、別にいいけど。
これからは私が新しい妹になるのだから。
年齢や血縁なんて関係ない。そんな自由さが通用しちゃうのが宗太君の魅力だからね。
みーちゃんも何を血迷ったんだろうね。大人しくメイドごっこを続けていれば、もっと宗太君と一緒に居れたのにね~
「バッカみたい」
私は実妹の馬鹿さ加減を吐き捨てるように、走行中の車の窓からタバコを放り投げた。
普段ならそんなエチケットに反する行為を公然とするようなタイプじゃない。
それどころか、タバコも長らく吸っていない。
「すべてみーちゃんのせいだよ」
法定速度ギリギリの中で窓を開けていたおかげか、タバコの煙はすぐに目に見えなくなっていった。
それでも車内には、ニコチンやタールよりもドロッとしたような嫌な空気感が、むせ返るほどに充満していた。
……発生源は私なのかしら。
辺りに鈍く響くモーター音は、まるで獲物を探す猟犬の唸り声のようでもあり、バイオレンスさな物体が、こうも堂々と街を行き交うとは何とも怖ろしい時代になってものだわ、などと知らぬ昔に浸ってみても、ちっとも気分転換にはならない。
「………これだから運転は嫌なの」
私がわざわざ車を運転するのはいつだっていい状況とは言えない時だった。
そうそう、彩香ちゃんには悪いけど、ほんの少し、心理トリックを刷り込ませてもらった。
『私も今から近くにあるネットカフェとかを覗きに行くつもりなんだけど』
そう言ってすぐ通話が切れちゃったから、実際に効果があるかは分かんないけど。
あの娘は冷静さを欠いているから気づいてないでしょうけど、大声を出しても助けが来ない場所に宗太君が居るのを前提に探すなら、ネットカフェなんて除外するに決まってる。
あの娘は使ったこと無いのかしら。
あんな壁の薄い場所、少しでも暴れられたら計画が台無し。
みーちゃんだってそこまで知恵足らずの能無しではないでしょ。たぶん。
だから私は、近くにあるホテルから探すことにした。彩香ちゃんよりも早く。
彩香ちゃんは私のシナリオの中では脇役も同然。せいぜい緊迫さのシンボルとして駆け回ってなさい。
すべて私が解決してあげるから。
そして宗太君は私のお兄ちゃん、お兄様の方がそれっぽいかな?
私のお兄様として、小説を書く私を、誰よりも愛し、誰よりもファンでいてもらうの。
そうやって彼の一番の関心の的である読書を、私の力でラブ&ピースな活字自給自足生活をおくるの。
ただ宗太君の為に書いて、ただ私の為に本を読む。
ああ、なんて完成された愛の形なのかしら。宗太君だって、こんなにロマンティックでメルヘンチックなお話読んだこと無いだろうなぁ~
「さ~て、お兄様を誘拐した魔女がいるのはここかしら?」
さっさとイベントを終わらせて、愛のパートに映らないと、宗太君読むの辞めちゃうかもしれないもんね、実の妹だからって、シナリオこそが正義という物語の世界の法則には従ってもらわないと。
ヒロインであり、作者でもある私には、年下の男の子であっても、お兄様にとして愛を育むことが可能。
「待っててね、お兄様。アハハハハ」
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