第14話 今も絶えざる大奥の影
現実とは、物語と全く異なった世界だ。
古来より『事実は小説よりも奇なり』といった言葉もあるが、その反面、起承転結も構成も平々凡々なシナリオである事も珍しくないどころか、それが世の常だ。
だからこそ……思えば、自殺の話を聞いたあの時からずっと、僕は油断しきっていたのだ。何も問題はないと。
「はい、あ~ん」
「あ、あの」
「食べて」
今朝から椅子に拘束され、気づけばもう窓の外は真っ暗。これがいつ終わるのか全く見当がつかない今は、大人しくいただく他に道はない。
人によってはトラウマにもなりかねない、非常に
この時ほど、自分が執筆業に就いていなかった事を惜しく思ったことはない。
ある種のドキュメンタリー精神とでも言おうか、これから先、自分がどういった運命を辿るのかを
もしかするとそんなたいそれたものではなく、単なる現実逃避だったかもしれないけどな。
とにもかくにも、僕は彼女に自由を奪われ、受動的に読書を行い、そしてまたそれは、恒久的に持続するかのように、長く続くであろう事が予測されたのだった。
美味しいであろうシチューの味も、何だか重たいスープでしかないように思われた。
深雪さんにとってはこの上もない不名誉なレビューがつけられた丁度その時であった。
【ピンポーン】
僕がこの家に来て初めてのインターホン。
天涯孤独なのか、彼女を訪ねる者は滅多に現れない。僕が言えることではないが。
言うまでもないが、僕は身動きが取れないので彼女が対応する。
数秒間、謎の喧騒が聞こえたかと思うと、再び世界は静寂に包まれた。
「お兄ちゃん、ホントに大丈夫?」
「う、うん」
僕は彩香に保護もとい誘拐されようとしている。
大空を体感出来てはいないが、それでも座り続ける苦痛が幕を閉じたのは嬉しい。
さりとて、妹がスタンガンで深雪さんを気絶させたのは無視できない。
「一体なぜ……」
「でも実際、こうでもしなきゃお兄ちゃんはずっと監禁されてたんだよ!?」
彩香の言いたい事は分からなくもないが、それは結果論で、スタンガンを入手し、使用した時、その事実は知らなかったはずだ。
であるならば、事態は穏やかでない。
僕を連れて帰ろうとする彩香を、何とかなだめる。
法律には詳しくないが、少なくとも僕の良心は、気絶した彼女を放って帰ることを許しはしない。
だが、彩香を帰らすのもしっくりこないので、折衷案として、僕は深雪さんを背負って、彩香と共に帰ることにした。
椅子に縛られつつ感じる、窓から入る風とは違い、ほのかに香る深雪さんの甘い香りと素肌を沿う秋の夜風は、心地よい冷たさだった。
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