第13話 献身的愛情表現
「はい、次はこの本だよ」
いつだったか忘れたが、以前、ひむ……深雪さんは僕に録音した朗読を聞かせるというオーディオブック形式の読書法を行ってくれた事があった。
今もまた、彼女は僕の為に時間を割いてまで、本を読んでくれている。
以前との相違点は次の二つ。
今回は録音ではなく、実際に目の前で朗読をしており、それを中断するのは容易ではないという事。
なぜなら僕は今、指定席、またの名を拘束状態にあるからだ。
『いい本の読み方思いついたんだけど、試してみない?」
笑顔でそう持ちかけられれば、大抵の読書好きはYESと答えるだろう。
その結果、人によっては拷問にもなりかねない方法―手足を肘掛け椅子に括り付け、深雪さんが朗読するのを黙って聞き、半ば強制的に読書に没頭する―という珍妙な読書法が開発・実験されているというのが、苦しいかもしれないが、僕にできる最大の現状説明だ。
この方法には重大な問題がある。手足の他に、口までも制限されている点だ。
【サイコパスが嫌がる被害者に向かって、自己満足的に朗読をしている】
他人から見れば、百人が百人、そう判断するだろう。いわゆる“M”な人であっても怪しいところだ。
僕もはっきり言って、この読み方は好みでない。
だがしかし、読書という極めて孤独な趣味において、他者がいなければ成り立たない側面があるという事実は興味深い。
彼女は今、とても楽しそうに本を読んでいる。それは僕に伝えるという目的があっての行動だが、映画鑑賞がデートになるように、こういう遊びもあっていいのかもしれない。
………もちろん、拘束は無しにして。
「えへへ、どうだったかな?」
「…………」
「うん、喜んでもらえたなら私も嬉しい!」
「…………」
「じゃあ、次はどれにする?これがいいかな?あっ、でもこっちもいいかも!」
深雪さん?いつになったら僕は開放されるのかな?口が塞がれてるから、意思疎通ははかれないはずなのに、彼女には僕本人すら分かりえない、僕からのテレパシーを受信する能力があるようで、ホイホイ話が進んでゆく。
え、僕これからどうなるの?読書好きが読書に殺されるなんて、どの国でもジョークにならない。笑い者にはされるけど。
***
最近、家の近くに不審者がいるって噂だから、何としてでも宗太君を外に出さないようにしなきゃ!
宗太君が一番好きな読書が、今や私無しには出来ないと思うと何だか変な気分に……
あ、ダメダメ。早く読んであげないと、退屈になって、どこかに行っちゃうかもだからね。
宗太君に危害を加えたら絶対に生かしてはおけないけど、ちょっとラッキーかも?
***
「えへへ、読書どくしょ~♡」
まあ、楽しそうだから、もう少しこのままでいるか……
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