第14話 夢.

うーーぅん。

布団の中で背伸びをする。

もう一度、布団の中で背伸びをする。

ふぁーーーーぁ、うぅぅーーぅ。

眠い…

柔らかい布団が再度、夢うつつの世界に誘い込む。

ふむぅ。

眠りかけたときに視界の端に 叔父 サンチョンを捉えた。

叔父 サンチョンだ。」


叔父 サンチョン、私、ホウキで空を飛んでる夢を見てたの。」布団にくるまりながら話す。


ホウキで空を飛ぶなんて魔女みたいだよね。」

布団を引き寄せ冬眠体制に入る。


「箒………神………存………」

叔父 サンチョンが何か言っているがよく聞こえない。

布団の中で小声で訴える?

叔父 サンチョン、何?聞こえない。」

夢心地で話しかける。

叔父 サンチョン、私の夢の話、聞いてくれる?」


………………………………

まだ、着かないのかな?


どのぐらい飛んで来たのだろう?


辺りを見回す。


向こう側に陸地が見える。


「陸地で少し休むか。」

誰に言うでもなく声を出す。


砂浜か、砂の上より陸地を踏みたいな。


「あ!」

思わず声をあげた。


砂浜の近くに小島がある。

神社ウチのある島のミニチュアみたいな小さな小さな島が浜のすぐ近くある。

私はその小さな小さな島に向かう。


「到着。」

「すごく小さい島だね。」

「森もあっていい感じ。」

でも、腰を下ろす場所がないな。


少しホウキで上空に上がり上から島を見下ろす。

「あの辺かな神社ウチがあるの。」


帰り道や、また来たときの道標に小さい神社ウチを創りましょう。

私は、ホウキからほうき草をむしり取り、鳥居の形にして息を吹き掛ける。

細いほうき草は、立派な丸太の鳥居になった。

続いて私は、ほうき草を織り込み壁と屋根を造り壁を四方に建ててその上に2枚の屋根を乗せ息を吹き掛ける。

小さいけれど立派な社になった。

中に入ってる見る。

私、1人寝れるスペースがある。

「ふふふふっ」

いいものを創ってしまった。

此所で少し寝るのもいいね。

深紫色の肩掛けカバンの中を見る。

「やった。さすが、 叔父 サンチョン。」

カバンの中に折り畳んであるブランケットを発見。

私が、入れた覚えがないから 叔父 サンチョンの仕業でしょう。

早速、ブランケットにくるまりお休み体制に入る。


しばらくすると。


………?


「………神の命かみのみこと

…………

「矢乃波波木神の命かみのみこと

誰かが、私を呼んでいる…


眠気マナコでブランケットにくるまりながら社の戸を少し開ける。

隙から声がした方を伺う。

「あ!」

「お兄さん、おはよう。」

砂浜に鬼堂のイケメンお兄さんを発見。


「これは、これは、おはようございます。」

「矢乃波波木神の命かみのみこと。」


「ん?」

神の命かみのみこと?」

変なお兄さんだ。

敬語だし。

「いつも通り波木ハキで、いいですよ。」


「なるほど。」

「では、波木ハキ殿、長旅御苦労様。」

「伊勢の国から、遥々、この地まで。」


「私は、杵築大社キズキタイシャアルジ大国 主 大神オオクニ ムネ オオガミと申す者です。」


大国 主 大神オオクニ ムネ オオガミなにかすごい名前だ。

あれ?鬼堂のお兄さんじゃないのかな?

すごく似てるけど、確かお兄さんは、ジンと呼ばれていたなぁ。


てか、今、杵築大社キズキタイシャと言った?


「此所から杵築大社キズキタイシャまで、近いですか?」

私のお使いの行先だ。


「そうですね。此所からですと13町ぐらいの距離ですね。」


13町?

13個の町を越えると言うこと?

あれ…町て、単位の事かな?


もっと分かりやすく聞こう。

「何分ぐらいですか?」


波木ハキ殿は、時間軸を移動されるのですね。」

「遥か来世の単位で説明しますと21分ぐらいの道のりです。」

遥か来世…

ここは、大正時代じゃないんだ。

もっと昔の時代…

てか、時間軸てなんの話?


「此所からは、私が、ご案内いたします。」

不意に有難いご提案が飛んできた。

ラッキー。

て、杵築大社キズキタイシャアルジて言ってたよね。

ヤバい。

私が、お使いを頼まれた社の主て、事だよね。

「えーと、なんとお呼びすればいいですか?」

ムネが、ファーストネームかな?

「ムネさん?オオガミさん?」


ムネでいいですよ。」


「じゃー、私も波木ハキだけでいいです。」

「殿は、いらないです。」


「では、波木ハキ、準備は、よいですか?」


もぅ、行くんだ。

「ちょっと待ってくださいね。」

社の戸を締めブランケットを畳む。

あ!

寝起きだから髪の毛ボサボサかな?

鏡、ないのかな?

肩掛けカバンにブランケットをしまいながらカバンの中を漁る。

この風呂敷は?

ピンクと白色の綺麗な風呂敷に何かが包まれている。

風呂敷を開けてみる。

銀細工の枠に面長の鏡が嵌め込まれている。

銀細工は、炎のような太陽のようなメラメラしている感じだ。

銀細工を見ていると炎のように揺れ動いている。

生きてる?

鏡の中を覗く。

髪の毛がボサボサの自分の顔を探す。


色白の睫毛が長い顔の小さい女の人がいる。

瞼を閉じている。


綺麗な顔。

綺麗な顔って、ずーと観ていられる。


波木ハキ。」

外でムネが呼んでいる。


鏡を風呂敷で包みカバンに入れる。


社の戸を開ける。

島から砂浜のムネの前まで箒で移動する。

ムネの目の前に着地する。

「お待たせしました。」

そう言って敬礼する。

敬礼と言っても帽子を被ってないので脱帽時の45度お辞儀。

叔父 サンチョンに教えてもらったヤツ。


「では、まいりましょう。」

ムネがそう言って歩き出すとムネの周りだけ明るくなった。

月明かりがムネの足元を照らしてるようだ。

「待ってください。」

ムネの足元の砂が月明かりを浴びて蒼く光っている。

私は、ムネの足元にしゃがんでカバンの中からジップロックを探す。

確か、 叔父 サンチョンが、バンドエイド等をまとめてジップロックに入れてカバンに入れてくれてたはず。


あった。


私は、ジップロックの中のモノをカバンに移し、換わりにジップロックにムネの足元の砂を一掴み入れた。

立ち上がりジップロックを月明かりに照らす。

ジップロックの中の砂が月明かりを浴びて蒼く光る。

叔父サンチョンへのお土産ができた。


「綺麗。」

そう言ってムネを見る。

ムネは、ジップロックの中の蒼く光る砂と私の顔を交互に見て微笑む。


「お待たせしました。行きましょう。」

私が出発の合図を出した。



私が、小さい小さい島を見つけた時には、まだおひさまが上がっていたが、今、空には、まん丸のお月さまが上がっている。

私は、何時間、お昼寝をしてしまったのだろう。


ムネの進む道は、砂浜から畦道に変わった。

畦道の両側には叢が広がっている。

稲かな?


長閑だ。


しばらくすると昔話に出てきそうな茅葺き屋根の家々が、現れる。


「長閑で良いところですね。」

ムネの隣を歩き話しかける。


ムネは、私の言葉に微笑みで返答した。


茅葺き屋根の家々が通り過ぎ、松林が現れた。


この松林の中に行くのかな?

薄暗く、視界が悪い。

この先に家があるようには、到底思えない。

私の不安な顔を見たムネは、松林に向かって二拍手した。

ザッザザザザザーーーー

ムネの合図で松林が動いた。

十戒のように松林が左右に動いてムネの前を開ける。

その開けた畦道に道標のように地面から石畳が現れ道を創る。

ムネが石畳の上を歩く。


ムネの歩幅にあわせて左右に松明が燃ゆる。


松明は、一定の距離で燃ゆる。


なんか、神秘的な場所だな。

そう思っていると大きな社が姿を現し出した。

「わぁーーーー大きいお社。」

「彫りものもすごい。」

あの彫りものは、ゾウかな?

それとも貘かな?


波木ハキ、此方へ。」

キョロキョロしながら進んでいたらムネに急かされた。

「すごい立派な社ですね。」

ムネは、微笑む。


波木ハキが持ってきた神鏡を此方へ。」

ムネに言われて肩掛けカバンから風呂敷を取り出す。


ムネに近寄り小声で話す。

「ムネさん、この鏡には、綺麗な女の人が住み着いているみたい。眠り姫のように綺麗な寝顔が見れますよ。」

「ほう、それは、楽しみですね。」

もっと驚くと思っていたが、案外、普通の反応だ。

もしかして、「ムネさんは、鏡の女の人の事をご存知で。」

「アマテラスの事ですか。」

アマテラスと言うんだ。

私は、頷く。

「知ってはいますが、まだ、お逢いはしていません。」

なるほど。知ってたんだ。

ムネは、そう言って風呂敷のまま神鏡を祭壇に祀った。

「風呂敷のままでよいのですか?」

ムネに思った事を聞いてみた。

「まだ、色々手順が済んでいないので、今は、このままで。」

そう言って社を出た。

社を出たところでムネに提案する。

「あの女の人は、まだ、起こさないのですね。」


「今は、そうですね。」

ムネの返答に言う。

「ならば、眠りの邪魔をさせない様に結界を張りましょうか?」


「結界とは、面白い事を思いつきますね。」

ムネは、私の顔を見て笑う。

「では、どのように結界を張るにです。」


「ジャジャン!」

ムネに向かって箒を突き出す。

「この箒からほうき草をむしり取って、3本を合わせて1本にして、それを3本作って、その3本を撚ります。」

掌サイズの小さな注連縄ができた。

ムネにも見せる。

それを社の柱の間の地面に置く。

「注連縄さん、注連縄さん、大きく大きくなってください。」

そう言って注連縄を指で1回突っついた。

注連縄は、大きく大きくなっていく。

「注連縄さん、今度は、自分で柱をよじのぼり上部で固定してください。」

私の言葉に注連縄の両端から手が生えてきた。

そして、中央辺りからニョキニョキ足が生えてきた。

両端の手は、大きく大きくなり、社の大きな柱を掴んで登りだした。

「その辺でいいよ。」

私の言葉に注連縄の足は、消え去り、手は、結び目に替わった。

「これだけ大きい社なので結界の注連縄も大きくなってしまいました。」

注連縄をみながらムネに言う。

「いえ、いえ、これだけ立派な注連縄を創って頂き有難い。」

ムネにお礼を言われてしまった。

なんか、嬉しい。

でも、先ほどからこれだけ大きい社なのに人が、私とムネしかいない?

聞いてみよう。

「ここの社は、大きいのにムネさんしか居ないのですか?」


「今、他の者は、皆、お使いに出ています。」

波木ハキのように。」


「なるほど。」

言われてみれば、私も、伊勢の社を出て今日で、何日目だろう?

お使いといっても、何日もかかるもんね。


辺りを見回す。

ムネしかいないせいか、社の箇所箇所が、埃ぽい。


「では、私が来たついでにお掃除を致しましょう。」

驚いた顔でムネが私をみる。

「この大きな社を波木ハキ1人とで掃除をすると。」


「フフフフフフッ。」

私は、箒からほうき草を大量にむしり取り、1列に並べる。

そして端から順に息を吹きかける。

私から息を吹きかけられたほうき草は、私の分身へと変わっていく。


「ジャジャン!」

波木ハキ、掃除隊です。」

大勢の波木ハキをムネに紹介する。


「では。」

「煤払い、厄払い、大掃除波木ハキ隊、出動。」

私の掛け声で、たくさんの波木ハキが一斉に散らばり掃除を始める。


よく見ると、ほうき草が短かったのか、小さい波木ハキもいる。

小さくてもちゃんと掃除をしている。


散らばった波木ハキ達は、自分の持ち場の掃除が完了すると私の元に来て報告して消えていく。

最後の1人が今、報告して消えた。

あとは、私だけだ。

神棚を拭きあげれば完了だ。


……終わった。

意外と疲れましたわ。

ムネに報告に行こう。

確か、住居区にいたような…

迷路のような、渡り廊下を彼方此方を歩き周り住居区を目指す。

多分、此処だな。

「ムネさん、掃除完了しました。」

声をかけながら戸を開ける。

ムネは、晩御飯の支度をしていた。

味噌汁の良い匂いがお腹を刺激する。


"ギュル ギュル"

思わず、お腹を押さえる。

「これは、これは、よほど疲れて、お腹が空いているようですね。」

ムネに苦笑いで答える。

「でも、波木ハキは、たくさん煤払いをしたみたいですね。」

ん?

どう言う意味だ?

きょとんとしていると、ムネは、手に持ってる包丁を私に見せた。

包丁を見るとブレイド部分は銀色に輝いている。

まるで銀で、できた鏡のようだ。

ブレイドに自分の顔がハッキリと映る。

煤だらけの顔があった。

「先にお風呂にしましょうか?」

そう言ってムネは、手に持っている包丁を1回振った。

手品でも見てる感じだった。

ムネが振った包丁が一瞬で杖に変わった。

「わぁ」

思わず声が出た。


ムネが歩き出したので後に続く。

あれ?

ムネの後に続いて歩いていたら社から出て外を歩いている。

不安そうな顔をしているとムネが「波木ハキが創ってくれた結界が強力過ぎて、結界の外に出ないと他の神の力を借りれないもので。」と言った。

他の神の力を借りる?

お風呂に入るだけだよね…

もぅ、3町ぐらい歩いていない?

「この辺なら大丈夫ですね。」

ムネが立ち止まった。

地形的に大きな岩がある場所だ。

此処がお風呂?

ムネは、一番大きな岩の上に飛び乗り、杖を岩の上に立てて「大地の名もなき神よ、そなたの力を少し我に貸したまえ。」と言い杖で一度、大きな岩を小衝く。

閃光が走り大きな岩が砕け飛ぶ。

「わぁぁぁ」

思わず声を上げ、眩しすぎて目を瞑る。


終わった?

目を開けてびっくりする。

ムネを中心に砕け飛んだ岩が瓢箪形のお風呂を造り上げている。

縁の岩は、丸く、床は岩は、石畳のようだ。

ちょっとお洒落な岩場の温泉ぽい。

ただ、今は、瓢箪形の岩だけで肝心の温泉がないけど…


ムネが、瓢箪形のお風呂の中央で石畳に杖を立てた。

「水滸の名もなき神、そなたの力を少し我に貸したまえ。」

杖の先で石畳を小衝く。

すると今度は、杖の先がドリルのようになり、石畳を貫通して、大地に勢いよく突き刺さって行く。


"キュィィィィーーーン"

回転音が響く。


どのくらいの深さまで、突き刺さているのか見当がつかない。


"カッキーン"

甲高い金属音が響いた。


ムネの杖は、動きを止めた。

ムネは、杖先を戻し引き抜く。

開けた穴を上部から見ている。

私もムネに近寄り、一緒に開けたあなたを覗く。

深ーーーーーーく、穴が開いているのは、わかるが底が見えない。

「なんでしょうかね。」

ムネが考えながら言う。


「ちょっと調べて診ますね。」

私は、そう言って箒からほうき草を1本抜く。

「煤払い、厄払い、蛇使い。」

自分で言っていて、自分でなんだこの呪文と思った。

でも、意外にもほうき草は、綺麗な白蛇に代わった。

白蛇が私を見つめる。

私が白蛇に頷くと白蛇も頷き返し、穴に入って行く。


穴から白蛇の尻尾だけが出ている。

あれ?

穴を覗いて白蛇を確認してみる。

すごい…

白蛇の身体は伸びて底に向かっている。

底まで行けるかな?

しばらくすると白蛇の尻尾が↑印の形になった。

上に引っ張れと言う事かな?

私は、両手で白蛇の尾を掴み力一杯引き抜いた。

"ポッん"

何かが抜ける音がしてゴムのように勢いよく白蛇の身体が抜け出て来た。

出てきた白蛇は、口に何かを咥えている。


"ゴゴゴゴゴゴォォォォ"


地響きが轟く。


波木ハキ、危ない。」

ムネは、私を抱きかかえ後方に飛んだ。

ムネは、瓢箪形の岩の外側に着地した。


"プシューーーーー"

勢いよく穴から水が涌き出た。

いや、湯気を纏っている。

「わぁ、温泉だ。」

はしゃぐ私をムネは、楽しそうに見る。


「おや?」

ムネが、何かに気付く。

白蛇の頭を持ち上げて、白蛇が咥えているモノを視ている。

「なるほど。」

「これが、栓になっていたのですね。」

「私の杖でも砕けないとは、良いものを見つけましたね。」

ムネにそう言われて白蛇の咥えているモノを見る。

透明な球体、中に金色の針みたいなモノがたくさん入っている。

「水晶ですね。」

ムネが言う。


「白蛇さん、ご苦労様でした。」

私の言葉に白蛇は、消え去り、私の手に水晶が残る。


「はい。」

その水晶をムネに渡す。


「この水晶は、波木ハキに拾われました。なので、波木ハキのモノです。大丈夫になさい。」

そう言って私の手に水晶を戻した。

「ほんと、ありがとう。」

珍しい水晶をゲットして嬉しい。


「お風呂は、完成したようですね。」

ムネの言葉に瓢箪形の岩風呂を見る。

温泉水が縁の岩すれすれまで貯まっている

「ゆっくり、お湯に浸かってください。」

「私は、一足先に社に戻っていますね。」


そう言ってムネは、歩き出そうとした。


「ムネさんが、戻ったら、私1人に…」


ムネは、出し掛けた足を戻し考える。

「私は、ここで、ずっと波木ハキを見守っていても良いものかな?」


ムネの言葉の言い回しに気付く。

ここにムネが居たら、私の裸が見られてしまうと言う事だ。

えーーーー、でも1人は、不安だなぁ。

辺りは、真っ暗だし。

「ちょっと待ってくださいね。」

ムネは、何か思いついたみたいだ。


月読アルテミスミコト波木ハキが怖がらないように、そなたの灯りを照らしていただけないかな。」

空に向かってムネが話した。

雲に隠れていた月が現れ蒼白く黄色く輝いて瓢箪風呂を照らしだした。

「すごい!」

私の言葉に微笑むムネ。

でも、ムネには、まだ何か考えがあるみたいだ。


sānzúwū サンズゥウー、八咫の烏のsānzúwū サンズゥウーは、此処に参れ。」

sānzúwū サンズゥウー

八咫烏ヤタカラス


ムネの言葉に遠く広がる暗闇から暗闇が伸びて出てきた。

そしてムネの足元に着地した。

「お呼びでしょうか、ムネ様。」

暗闇の塊から女性の声が発せられた。

八咫烏ヤタカラスsānzúwū サンズゥウーよ、今よりそなたに矢乃波波木のミコトの護衛を命ず。」


「承知いたしました。」


暗闇の塊が振り返った。


「矢乃波波木のミコト、よろしくお願いいたします。」


まん丸おめめに黒色嘴…

「可愛い!」

「カラスだ。カラスが喋った。」


思わず私は、両手でカラスを捕まえていた。

ムネにカラスを見せながら話す。

「ねぇ、ねぇ、ムネさん、このカラスすごい、言葉を喋ったよ。」


「これ、これ、波木ハキ、サンズゥウーは、カラスでは、ない。我らに仕える者だ。」


うぅ…

はしゃぎ過ぎた。

サンズゥウーを温泉の縁の岩に降ろす。

「ごめんなさい。サンズゥウー。」

頭をナデナデする。

気持ち良さそうな顔になった。


「では、もう大丈夫ですね。」

私とサンズゥウーを見てムネが言った。


「ありがとうございます。」

私は、ムネにお辞儀をした。

サンズゥウーもムネにお辞儀をしている。


「では、私は、先に戻って晩御飯の支度の続きをします。」

そう言ってムネは、歩き出した。


「ふーう。」

気持ちいい。

でも、この温泉すごい透明度。

普通に湯船に浸かっている身体がハッキリ見える。

逆によく見ないとお湯と外気の境界線が曖昧に思える。

温泉の中との屈折もないし、本当に透明の温泉に入ってるみたい。

この透明に見える現象は、月の光も関係するのかな?

ここの瓢箪風呂だけが、暗闇から切り離されたように明るい。


すぐそばの縁の岩の上には、背を向けた烏が辺りを警戒している。

ひとりぼっちではなくて、良かったと思う。

烏でも言葉が喋れるので、なぜか安心する。


烏て、温泉に入るのかな?

烏の行水と言う諺は、入浴時間が短いことだけど…

元来、綺麗好きの烏が、羽や嘴を綺麗に洗っていたことに由来してるよね。

聞いてみよう。


「ねぇ、ねぇ、カラスさん。」

カラスの背に声をかける。


「波木様、私は、烏では、ありません。」

「八咫の烏です。また、烏と呼ばれるのは、人間に対して人間と呼んでいるのと同じ事ですよ。」


ははは…

諭されてしまった。

「えーと、」

名前が出てこない。


「サンズゥウーです。」

そうだった。

「サンズゥウーさんも、温泉に入らない?」

私の誘いになにやら考えている。

「温泉には、入ってみたいのですが、水より温泉の方が羽の油分が落ちてしまいそうで…」

「羽の油分が落ちたら羽が濡れてしまい、乾くまで飛ぶ事が出来なくなってしまうので。」


「なるほど…」

入りたいけど羽が濡れちゃうから入れないのね。


フフフフフ…

いいこと思いついた。

サンズゥウーは、また、私に背中を見せて警戒している。

箒からほうき草を1本抜く。

サンズゥウーの背後に近寄り、サンズゥウーの頭の上でほうき草を指で磨り潰しサンズゥウーの頭にほうき草の粉末をかける。


「何を…」サンズゥウーが気が付いて振り返る。

私は、急いで呪文を唱えた。

「煤払い、厄払い、烏払い。」


何か言いかけたサンズゥウーが黒色羽の渦に歠まれる。

黒色羽の渦は、高速で回転してサンズゥウーが見えない。

サンズゥウーは渦の中心部にいるみたいだ。

"パッン"

甲高い破裂音と共に黒色羽の渦が弾け飛んだ。


縁の岩の上に女の子が座っている。

両手で顔を防いでいる。

サンズゥウーが居た場所だ。

私と背丈は、かわらないようだ。

女の子が両手をほどき振り返る。


「えーーーーー!」


サンズゥウーの声は、落ち着いていて、少し掠れていたので、烏でも、私より年上だと思っていた。

でも、目の前にいる大きな黒色の瞳に、漆黒の艶やかなロングヘアーの女の子は、どう見ても幼い感じがする。

まぁ、私もひとのことは、言えないけど。

同い年ぐらいかな?


「これは…」

サンズゥウーが、自分の姿に驚いている。

自分で自分の身体を色々な角度から見ている。

私からも、お尻や胸などがよく見えた。


「えーーーーー!」

サンズゥウーに近づく。

「サンズゥウー、私と同い年ぽいのに、なにその大きな胸は。」

「それに、小さいのに丸いお尻。」

「黒色烏だったのに、肌は、真っ白じゃん。」

肌の白さは、自信があったのに…

透き通るような白い肌とは、サンズゥウーの肌の事だろう…。


私以上にサンズゥウーは、驚いているようだ。


「これは…」

自分の身体を見ながらサンズゥウーが言葉を詰まらせている。>

「サンズゥウーが、羽が濡れちゃうから温泉に入れないみたいだったから、お呪いで烏払いしたら人間になっちゃった。」


「波木様の仕業なのですね…」


「そうだね。」

「はははぁ…」


「ありがとうございます。」

サンズゥウーは、そう言って抱きついてきた。


先程までとは、表情が違うサンズゥウー。


折角、温泉に入れるようになったのに辺りの警戒をしようとしているので、「命令です。私の近くで温泉に入りなさい。」と言ったら目をうるうるさせて「はい。」と言って私の側にきて一緒に月を見ながら温泉に浸かっている。

気持ちよさそうな顔をしている。


今は、自分の腕を何度も何度も眺めている。

私の視線に気付いて嬉しそうに言う。

「主様や波木様と同じ姿に成れる日が来るとは、思いもしませんでした。」


「まだ、変な感じですが、すごく嬉しです。」

「それに、こんなに綺麗な身体をくださって。」


「それは、私のお呪いの力じゃないよ。」

「元々、サンズゥウーが綺麗だっただけだよ。」


私の言葉にまた、嬉しそうに自分の身体を確認している。


可愛い。


不意にサンズゥウーは、立ち上がり舞を始める。


「サンズゥウー、裸で、舞ったら風邪ひいちゃうよ。」


舞を止めて「そうですね。」と残念そうだ。


サンズゥウーがまた、湯船に浸かるのを見て隣に移動する。

「今の舞は、なんの舞なの?」


「私もよくは、知らないのですが、以前、お仕えした方が舞られていました。」


「その舞う姿が綺麗でいつも見とれていたんです。」


「自分が人の姿になれたので、舞ってみたくなったのです。」

サンズゥウーの言葉に幼い時の自分が重なる。


私も舞を始めたのは、女の人が綺麗に優雅に、そして気品高く、舞っているのを見て私も舞いたいと思った。

「そうだ。」

私は、明るい声をあげた。

「名もなき大地の神様、私にも力を貸してください。」

そう言って私は、湯船の底の石畳を箒の柄で小突く。


「わぁぁぁぁ」

サンズゥウーが声を上げて溺れかける。


「サンズゥウー、立って。」

溺れかけるサンズゥウーに声をかける。


「波木様…これは?」


「湯船の深さを深くしてみました。」

湯船は、私達が立って、丁度肩が出るぐらいの深さになった。


「これなら、湯冷めしないで舞ができるよ。」

「湯船なら浮力の働きで関節への負荷軽減もあるし、湯の抵抗で負荷量も調整できるよ。」

「それに、ムネが創ったこの瓢箪風呂は、透明度が高く、視覚屈折もないから動きがよく見れるし。」


「さぁ、サンズゥウーが舞いたい舞を見せて。」

サンズゥウーは、なんの躊躇いもなく舞を始めた。


温泉の中でのサンズゥウーの舞は、まるで人魚が楽しそうに踊っている様に見えた。

私の知らない舞だ。

「サンズゥウー、私にもその舞を教えて。」


サンズゥウーも私も時間を忘れて舞うことに夢中になった。

私達が舞っている場所だけ湯けむりが立つ。

「この舞は、どこのなんて言う舞なのかな?」

「でも、宛ら湯立ての舞みたいな感じになってるね。」

サンズゥウーは、笑顔で私の話を聞いてくれている。

「そろそろ、社に戻ろうか。」


「はい。」

サンズゥウーの返事に湯船から上がり服を着る。


サンズゥウーも、湯船から上がり私をじーと見ている。

「サンズゥウーも服を…」


「あ!」

「ごめん、ごめんね。」

「サンズゥウー、ちょっと湯船にもう一度浸かってて。」

私は、慌てて、箒からほうき草をむしり取り、織り込んで小さな洋服と小さな草鞋を織った。

「サンズゥウー、上がって。」

私の言葉に湯船から出てくる。

背丈は、私と変わらない、でも、ツンと上を向いた胸に、細いウエスト、小さいけど丸いお尻。

もう、羨ましい。

思わず抱きついていた。

サンズゥウーを見る。

普通に此方を見返された。

意外とされるがままなのね。

サンズゥウーから離れ、サンズゥウーの手を取り、手の上に先程織った小さい洋服と小さい草鞋を置く。

サンズゥウーの手を持ったまま、手の上の小さい洋服と小さい草鞋に息を吹きかける。

小さい洋服は、勢いよく舞い上がり、サンズゥウーの頭上で回転を始めサンズゥウーの身体を覆い隠す。


1、2、3。

回転が終わった。

サンズゥウーが驚く。

「わぁー、サンズゥウー可愛い。」

「やっぱ、サンズゥウーに服を作ると自然と黒色になっちゃうのかな?」

「あら…急いで織ったから少し丈が足りなかったかな…」

サンズゥウーは、コスプレイヤーが好みそうな黒色のミニ着物ドレス姿だ。

草鞋は、可愛らしいヒールのある下駄に。


ミニ丈の着物がすごく似合っていて可愛い。

「いえ、いえ、このくらいの丈の方が動きやすいです。」

サンズゥウーも気に入ってるみたいだ。


ふと思う。

私は、ワンピースを意識して、ほうき草を織ったはずだが…


「波木様、どうして、私が着たい着物がわかったんですか?」


「サンズゥウーが着たい着物…」


「はい。私は、以前から丈の短い着物で動きやすいものがあればいいと思っていました。」

「でも

「それと女の子だから可愛いらしさもあったらいいなと。でも、八咫烏ヤタカラスの私が着ることは、出来ないなぁと考えていましたが。」

サンズゥウーの思考が私の思いよりも強く、イメージが完成されてたのだろう。

私が、思っていたワンピースより可愛いしいいじゃん。


サンズゥウーと社に向かって歩く。

サンズゥウーは、私の周りをあちらこちら見ながら歩く。

「サンズゥウー、もしかして楽しいの?」

落ち着きのないサンズゥウーの行動がそう見えた。

「はい。」

「飛ばないで、地面を歩くのは、初めてです。」

「視界も違うので新鮮です。」

そう笑顔で言う。

「それは、良かった。」

サンズゥウーが楽しそうにしてる姿を見るのは、こちらも何か楽しい。


「サンズゥウー、すごく美味しそうな匂いしない?」


「そうですか?」

サンズゥウーは、そう言って目を瞑り嗅覚に集中する。

「本当ですね。美味しそうな薫りが漂ってきます。」

「社の方から。」

サンズゥウーと顔を見合せ、走り出す。


「ただいま。」

サンズゥウーと一緒に居住区の台所に走り込む。

「おや、おや、そんなに急いで、どうしたんですか?」

「食事は、逃げたりしませんよ。」


「ははははぁ…」

「すごーーーく、美味しそうな匂いに釣られてしまいました。」


「それは、ありがたい。」

笑顔でムネは、そう言った。

「ところで、波木、隣の女の子は、どこで見つけてきたのです。」

そう言うとムネは、サンズゥウーを一瞥して、驚いた。


「おや、おや、誰かと思ったらサンズゥウーでしたか。」

「それも波木よりも美しくなってしまって。」


やっぱり…私よりサンズゥウーの方が綺麗だよね。

わかっていたけど目の前で言われると。

「やっぱり、サンズゥウ可愛い!」

気持ちが抑えきれず、また抱きつく。

肌がツルツルでいい匂いがする。


「波木、サンズゥウーが困っていますよ。」

ムネに諭されてサンズゥウーから離れる。


「では、3人で食事にしましょう。」


「私もよろしいのですか?」

サンズゥウーがムネに聞く。

「波木に言われて一緒にお風呂にも入ってきたのでしょう。」


「はい。」


「それなら、自分の分を半分づつにしてもサンズゥウーと食事をすると波木は、言い出すと思いますよ。」


サンズゥウーが私の顔を見る。

「早く、ごはん食べよう。」

私は、サンズゥウーを見て微笑む。



ふわぁー…

良く寝れた。

昨日の晩ごはんは、美味しかったな。

サンズゥウーも、ずーと、美味しい美味しい言って食べてたもんね。

美味しすぎて泣いてたよね。


温泉に晩ごはん、ムネには、何かお礼しないとなぁ。

それに、昨日は、もう遅いから今日は、泊まっていきなさいと泊めてくれたし。


でも、何もあげるモノもないしなぁ。

何か創る?

ほうき草で創れるモノは、何があるかな…

あ!

いいこと思いついた。

カバンから稲穂の先の砂浜から持ってきた蒼く光る砂が入っているジップロックを取り出し、ムネが居そうな住居区の居間に向かう。


居た。

ムネ発見。

ムネが私に気付く。

「波木、おはようございます。」


「おはようございます。」

「ムネさん、早速ですが、あまり使わないお皿ありませんか?」


「お皿ですか。」


「はい。」


「ちょっと待っててくださいね。」

そう言って台所の方に消えるムネ。


「これは、どうでしょう?」

ムネは、私に、小さめの少し深さのある黒色の焼き物のお皿を差し出す。

「いいですね。お洒落です。」

私は、ムネからお皿を受け取り、テーブルの上に置いて、お皿の中に蒼く光る砂を入れる。

そして、箒からほうき草を1本抜き取り蒼く光る砂の上に指で揉んで粉末にしてかける。

「煤払い、厄払い、夜九ツ、昼九ツ。」

また、自分でもわからないお呪いを唱える。


えーと、辺りを見回す。

丁度よさげな高さの棚が目にとまった。

棚の空いてるスペースにお皿を置く。

「ねぇ、ねぇ、ムネさん、見て。」

ムネを棚の方に誘導する。

「この砂は、時を報せる砂です。」

「実際に夜九ツ、昼九ツになるとお知らせしますします。」

「どんな感じか今、試しに、お見せしますね。」


「夜九ツ、子ノ刻です。」

私の言葉にお皿の中の砂が動き出す。

そして私の顔の形になり「おやすみなさい。」と口を動かして砂に戻る。


「昼九ツ、午ノ刻です。」

お皿の中の砂が動き出し今度は、小さい私の人形になった。

そして舞いを始めた。

約10秒、舞って、最後に手を振って砂に戻る。


我ながら良いものを創ったと思うけど…


ムネの反応を見る。

「これは、これは、毎日、波木の顔と舞が観れるのは、とても楽しいですね。」

やった!

ムネが気に入ってくれた。

「これは、半永久に動くのかな?」

ムネの質問に答えを考える。

「多分、私のお呪いだから1年ぐらいで普通の砂に戻ってしまうと思います。」

「でも、また、此処にお使いに来た時は、稲穂の先の砂浜で砂を掬ってから来ます。そして、新しい時を報せる砂を創って、この砂と交換します。」

交換した砂は、叔父 サンチョンのお土産にすればいいし、元々そのつもりだったしね。


「なるほど。」

「では、波木が此処にまた、お使いに来る日が楽しみですね。」

そう言ってムネは、ふっ、と考え込んだ。

そして、ムネの考えを話出した。

「此処は、普段、松林に隠されています。」

「波木も近くまでは、来れましたが私が居なければ社への道は、わからないままでした。」


「波木にも此処の場所がすぐわかるように、私に波木が沖の小さな島の社に来たのがすぐわかるように、此処をもっと高い位置に建て直しましょう。」

「高い位置なら他の者も、簡単には入れまい。」

ムネの提案にワクワクが止まらない。


「それならムネさん、外に出て確かめましょう。」

私は、ムネさんの手を引っ張り外に向かう。


この辺でいいかな。

私は、箒を横にして、空中に停止させた。

「ムネさんは、柄の方に座って、私は、穗の方に座るから。」

ムネが箒に座るのを確認する。

バランスがいい。

柄の上に上手く座っている。

「行きますね。」

ムネに声をかける。


「上にあがれ。」

私の言葉に箒は、一定距離上昇して止まる。

目の前には、まだ松林が映っている。

「ははは、全然低いですね。」

「連続であがりますね。」

私は、そう言ってあがれ、あがれ、を連行した。

何回連行したのだろう?

「ムネさん、沖の小島が見えましたよ。」

私は、興奮して隣のムネの腕を叩いて呼びかけた。


「もう少しあがれますか?」

不意にムネが声をだす。

「もぅ、少しですね。」

私は、微調整に入れる。

「このぐらい?」


「まだです。少しずつあげてみてください。」

難しい注文だぁ。

でも、ムネのお願いだ頑張ろう。

私は、箒に集中して少しずつ上昇する。

「此処で止めて。」

ムネの言葉にすぐに上昇を止める。

「1度、確認しますね。」


「確認?」

ムネの言葉に鸚鵡返しする。

「そうです。あそこの小島の社に波木が居ると思って観てみます。」

ムネの言葉に私も小島の社を見る。


あれ?今、誰かと視線が合った。

「この高さで大丈夫ですね。」

ムネの言葉に反応する。

「今、誰かと視線が合った感じがしたけど…」


「波木も私が見えたのですね。」

「イメージと現実が調和していましたから。」


「すごーい。」

イメージ空間で、ムネと視線が合ったんだ。


「ちょっと待って下さいね。」

「ここまでの高さを図ります。」


「はい。」

ムネを見ると、ムネは、真下を覗き込んでいる。


「大社の切妻屋根の棟までで1町がいいですね。」

そう言って私に微笑むムネ。



………あれ?

叔父 サンチョン、ちゃんと聞いてる?

私の夢の話。

すごい楽しかったの。


「……………」


「なに?叔父 サンチョン、よく聞こえない。」


「あっ!それと私の深紫色の肩掛けカバンにチョコレートのボトル入れてくれたの叔父 サンチョンでしょう。」

「あのチョコレート、すごーーーく、助かったよ。」

叔父 サンチョンは、非常食のつもりで入れてくれたと思うけど、まだ、あの時代は、チョコレートが高価な品物だったから。」

「あと残り1粒だったけ?」

「あれ?もう、なくなった?」


「……………」


「違う、違う、催促じゃなくて、本当にありがとうね。本当に助かったのあのチョコレートのおかげで。」


「ありがとう。叔父 サンチョン。」


「ありがと…」

自分の声に気付いて起きる。


私…寝言を言っていた。


辺りを見回す。

月明かりでうっすら部屋の中がわかる。

椅子の上に私の深紫色の肩掛けカバンが置いてある。

私が、帰ってきて椅子の上に置いた。

特に物のない部屋。


手が何かに触れた。

触れた者を見る。

アンナさんだ。

アンナさん、寝顔も美人だなぁ。

あれ?

アンナさんに近付き匂いを嗅ぐ。

サンズゥウーの匂いだ。

それとも、アンナさんのいい匂いが夢の中でサンズゥウーの匂いになったのかな?

此処は、アンナさんの部屋だ。

そして、チョコレートで手に入れたアンナさんのベッド半分。

アンナさんといつも1つのベッドで寝ている。


でも、私は、夢の中で夢を見ていたの?


そうだよね。叔父 サンチョンは、コロナの影響で韓国に帰っちゃたはず。

日本にいないもんね。


でも、初めての経験だ。

夢の中で別の夢を見るなんて。

それに、まだ近くに叔父 サンチョンやサンズゥウーが居るような気がする。


自分の言葉に自分で警戒する。

なんか?

おかしくない?

再度、辺りを見回す。

なにもない部屋だ。

いつもと変わらない。


ふと、ある1点に目が釘付けになる。

私は、ベッドから起き上がり深紫色の肩掛けカバンの

前に立つ。

カバンがパンパンに膨れている。

中に入っていたのは、叔父 サンチョンが入れてくれた包帯や液バンだけだ。

カバンは、ペッタンコだった。

カバンの表面を触る。

円筒の形が手に伝わる。


これは、もしや?

カバンを抱えて開ける。

カバンの中には、ギュウギュウ詰めにたくさんのチョコレートボトルが入っている。

叔父 サンチョン…」

私は、辺りを見回し叔父 サンチョンの姿を探した。


叔父 サンチョンは、居なかった。

部屋から出て台所まで探してみた。


結論から言うと叔父 サンチョンとの会話は、夢では、なかったと言う事なのかな?

私は、令和時代に戻り、夢を見た。

そして、その夢を本当に叔父 サンチョンに話していた。

でも、いつの間に令和時代に戻り、いつの間にまた、大正時代に来たのだろう?


てか、叔父 サンチョンは、幾つチョコレートボトルをカバンに詰め込んだ?

今にもはち切れそうなカバンを見て思う。

カバンが裂けそう。

カバンの中から慎重にチョコレートボトルを取り出す。

1、2、………3、4、5………6、7、8。

8個もよく詰め込んだね。

でも、何か大金持ちになった気分。

チョコレートボトルを出し切ってまた、ペッタンコのカバンに戻った。

ん?

カバンの表面の底の方に小さい丸い形が浮き上がっている。

叔父 サンチョン、チョコレートボトルを入れる時にチョコレート食べながら入れてて1粒入っちゃった?

カバンの中に手を入れ手探りで1粒のチョコを探す。

あった。

これだ。


カバンから取り出し見てみる。


透明の球体…中には、金色の針みたいなモノがたくさん入っている。

この水晶は…

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