第15話 黒いお茶会

「どうした?寝れないのか?」

アンナさんが、不意に声をかけてきた。

私は、寝台の上で寝転びながら水晶玉を月明かりに翳して見ていた。

「うんん。」

曖昧な返事を返す。


アンナさんの手が私の身体に伸びてきた。

引き寄せられ抱きしめられた。

アンナロックだ。

アンナさんのいい匂いと柔らかい胸と人肌の温もりがいい。

アンナさんは、私が、寝付けない時にロックオンしてくれる。

私の手の中には、瓢箪風呂を創った時に温泉の源泉の詮になっていた水晶玉がある。

これを見た時は、困惑したけど、これが存在すると言う事は、ムネやサンズゥウーが存在すると言う事だ。

また、何処かで会えるのかなぁ…

ムネが創ると言った新しい社に行きたいな。

そんな事を考え出すとこの水晶が此処にあって嬉しい気分になった。

それに、アンナさんの胸は、気持ちがいい。

寝てしまおう。



「おはよう。」

「よく眠れたか?」


もぅ、朝だ。

寝台の上で伸びをする。

「ふーぅっ」

ん?

何か手に握っている。

手を開いて見てみる。

水晶玉だ。

金色の針が入っている。

不思議だ。

これは、どうなっているのだろう?


「お、 ルチルクォーツか。」

アンナさんが水晶玉を見て言う。


「ルチルクォーツ?」

アンナさんの言葉に鸚鵡返しした。


「違うのか?」

アンナさんだは、水晶玉を私の手から取り間近で確認する。

「水晶ができる過程でまれにルチルができる。」

「ルチルは、針状の物質の事ね。」

「ラテン語でルチルとは、黄金色に輝くと言う意味を持つ。そこからきてルチルクォーツだ。」


「その金色の針は、自然が創り出したモノなんですね。すごい。」

「てか、アンナさんて、物知りですね。」


「いや、そんな事より、私は、これを波木が持ってる事に驚いている。」


「これも叔父さんからか?一体どんだけ金持持ちなんだ?」


「いえ、それは、別の身分の高い方から。」

ムネの身分て、なんだろう?

どうして、そう思ったのかな?

「ふーん、大切にしないとね。」

アンナさんは、そう言って私の手に水晶玉を戻した。


波木ハキは、朝ごはん、何、食べる?」

アンナさんの質問に即答する、

「アンナスペシャル。」

アンナさんが怪訝な顔をする。

波木ハキ、あなたは、もうチョコレート持ってないでしょ。」

アンナスペシャルは、アンナさんが作る海鮮純豆腐鍋の事だ。

チョコレートを食べたいアンナさんが、前に交渉してきた食事だ。

海老、烏賊、浅利、榎茸、卵が入っている豆腐鍋だ。

私は、アンナさんの目の前に、新しいチョコレートボトルを差し出す。

アンナさんは、チョコレートボトルを受け取りボトルを振る。

波木ハキ、これは…」


叔父 サンチョンが、新しいチョコレート持ってきてくれたみたい。」

私の言葉に笑顔で答えるアンナさん。

「私の朝食は、このチョコレートと波木の淹れた珈琲だ。」

「私は、波木の海鮮純豆腐鍋を作るから、波木は、私の珈琲を淹れてね。」

2人ともルンルン気分で台所に向かうため部屋の扉を開けた。

「あ…」

台所に行くには、客間を通り抜けないといけない。

客間には、ジンさんと恐そうな顔つきの男性が2人、何やら話をしている。

後ろからアンナさんが気にしないで行けと言う顔をする。

ジンさんたちを横目に台所に向かう。


「お客さんですかね?」

珈琲豆を曳きながらアンナさんに聞く。

「あんな、悪人面のお客さんは、いないだろう。」

「軍警察だ。」

「軍警察?」

わからないことは、必殺鸚鵡返し。

「知らないのか?」

「今も、大日本帝国軍は、どこかで戦いを起こしている。以前は、警察機関があったが、戦闘が激戦になるにつれ国内ではなく戦地に戦力が必要になり警察機関は、解体、現在治安は、軍の管轄になっている。」

「そうなんですね。」

「でも、軍警察がジンさんに何の用なんでしょう?」

アンナさんは、私の質問に即答する。

「仕事依頼だ。」

アンナさんの言葉に驚く。

「仕事依頼ですか?」


「驚いたか?」

私は、頷いた。

「軍警察も人手不足で、きな臭い事件では、捨て駒を使う。」


「捨て駒…」

私の言葉にアンナさんが言葉を続ける。

「大丈夫だ。軍警察は、捨て駒のつもりだが、ジンは、そんなつもりは、ない。逆に大金を吹っ掛けているけどな。」


「きな臭い事件て、どんな事件なんでしょう?」


ジンのとこにくる軍警察の依頼は、大体が悪魔デーモン関連だな。」


悪魔デーモン

この前の化物が脳裏に蘇る。

神さんは、あんな化物といつも戦っているのだろうか。

悪魔デーモンて、なに?」

素朴な質問をアンナさんに投げかける。

悪魔デーモンは、悪魔デーモンだろ。」

なるほど…

悪魔デーモンは、どんな悪さをするの?」

視点を変えて質問してみる。


波木ハキは、魔女を知ってる?」


「箒に乗って空を飛ぶ女性ですか?」

自分の言葉に夢の中の自分を思い出す。


「空も飛べるのか?初耳だな。」

「魔女は、悪魔デーモンと契約を交わさないとなれない。」

「また、契約を交わしたとしても、その女性に魔女になるための素質がないと逆に悪魔デーモンに取り込まれてしまう。」

悪魔デーモンに取り込まれる。

その言葉にインナさんと戦った悪魔デーモンを思い出す。

インナさんは、悪魔デーモンの中から女性を助け出した。

「取り込まれた女性は、どうなってしまうのですか?」

もしも、あの時、助け出せなかったら…

悪魔デーモンの養分にされてしまうらしいぞ。」


悪魔デーモンは、そんなに危険な生き物なんですね。」


「危険なのは、人間の女性の方だ。」

悪魔デーモンからは、人間の女性を魔女には、できない。」

「人間の女性から魔女になりたいと持ち掛けられ、契約を悪魔デーモンが提案する。」

「そして、女がその契約を悪魔デーモンと結んで初めて魔女になる事ができる。」

「魔女になれば、悪魔デーモンの力の一部と悪魔デーモンの創った薬を貰える。」

力と薬を貰って何をするのかな?

「女性達は、その力と薬を手に入れて何をしたいのでしょう?」


「多分、復讐じゃないか。」

「復讐ですか…」

ん…考え深い…


「でも、そんなに簡単に悪魔デーモンに逢えるものなのですか?」

悪魔デーモンなんて、令和にいません。


「お茶会があるらしい。」


「お茶会ですか?」


「うん。」

「昔は、週末の宴や黒ミサと呼ばれていたらしいが。」

悪魔デーモンからお茶会が想像つかない。

「恐そうですね。」


「でも、悪魔デーモンも、元はカミだ。」

「波木のカミに対するイメージは、どんな感じ?」


「慈悲深く、平等で、美しくふくよかな女性。」


波木ハキがそう感じるのならカミは、慈悲深く、平等で、ふくよかな女性だ。」


悪魔デーモンは、カミの考えに異議を唱えたカミが、カミで在ることを拒絶した結路ケツロだ。」


悪魔デーモンは、カミを拒絶して慈悲深くなく、平等でなく、ふくよかでなく、美しい男女だ。」


悪魔デーモンが、美しい?」


「違うのか?」

波木ハキが、見た悪魔デーモンは、どんな姿だった?顔は?」


私の見た悪魔デーモンは…

インナさんと共に闘った悪魔デーモンとの死闘を思い出す。

悪魔デーモンは、頭に2本の角が生えてて、爪は、鎌の様に長く鋭く、肌の色は、青い人肌色、身体はボディービルダーの様にムキムキで戦闘中に角が生え出した。」

「顔は、」脳裏に悪魔デーモンの顔が再生された。

「切れ長で鋭い視線の目に、鼻筋が通った高い鼻、ニヒルな唇に牙が、穿いていた。」

…アンナさんの言う通りだ。

よく思い出してみるとイケメンじゃん。

カミは、元々尊い存在だとわかり安い様に美しい顔立ちや端整な顔立ちをしている。」

悪魔デーモンは、カミの考えに異議を唱えたとしても、自分の姿までには、異議を唱えたりは、しなかった。」

「そして、在る意味、人間と接する時は、その姿が有効的であることを知っていた。」

「先入観ですね。」

「人間を取り込んだところを見てしまい悪魔デーモンは、残酷で恐いモノと勝手に解釈した。」


「そういう事だね。」

でも、それなら悪魔デーモンと普通に会話できるのかな?

あれ?

でも、なんで取り込まれちゃうのだろう?

波木ハキ、今、なんで取り込まれちゃうのと思ってたでしょ。」

「うん。」

波木ハキの顔に書いてある。」

「えーー、どこどこ?」

自分の顔を手で擦る。


悪魔デーモンが、人間を取り込むのは、魔女になれなかった人間が、理性を失くし狂暴化するの防ぐ手段らしい。契約にもその旨は、書かれているらしい。」


アンナさんの言葉に屋敷での出来事をよく考えてみる。

悪魔デーモンの相談に来たのは、女性のお母さん。女性の部屋に入った時、女性は、天井に張り付いていた。

あれは、魔女になるのに失敗して理性を失くした姿…

自業自得…

でも、母親は、そんな事情は、知らない、ただ娘を助けたかった。

理性を失くした彼女の元に悪魔デーモンが現れ彼女を取り込み始めた。

契約に書かれている内容に従い。

その悪魔デーモンを私達は、消し去った。

助け出した彼女も、魔女になるのに失敗した時は、悪魔デーモンに取り込まれるのに承知していた。

なんか、私達は、悪さをしていない悪魔デーモンを殺した事になる。

んー…

「腑に落ちない顔をしているな。」

悪魔デーモンを消し去った事に理由を求めては、駄目だ。」

悪魔デーモンと我等は、相反する関係だ。」

悪魔デーモンを消し去るのは、我等の仕事だ。」


「相反する関係?」

私の鸚鵡返しに怪訝な顔をするアンナさん。

波木ハキは、何も知らないで此処に来たのか?」


「はい。」


「マジか。」

「ここの名前は、鬼堂だ。」

「鬼は、韓国語で2種類の言葉がある。1つは、トケビこちらは、悪戯好きの愛嬌タイプ。もう1つはキシンこちらは、鬼神オニガミだ。」

「そして、堂は、接客、礼式に用いた建物。神仏を祭る建物。多くの人々が集う建物の意味がある。」

「すなわち此処は、鬼神を祭る、あるいは、鬼神が集場所だ。」

「我等は、神側の者だ。」

「諸説あるが鬼神は、悪魔デーモンに対抗して戦闘に特化した神の姿だ。」

「神の考えに異議を唱えた悪魔デーモンは、消し去る。遥か太古より続く慣わしだ。」

神の考えに異議を唱えた者を消し去る。

それは、正解なのだろうか?

あれ?

なんだっけ?

昔にもこれと同じ事、人間は、行っていた。

なんだっけ?

「あ!魔女狩りだ。」

「宗教信者の中に教えに異論を唱えた者…異端児が現れ、それを魔女として消し去った。」

アンナさんが哀しそうな目をした。

そして、言った。

「魔女狩りは、神の真似事が大好きな人間が、始めた戯れ事だ。神が悪魔デーモンを消し去るのと次元が違う。」

「そもそも宗教自体人間が造り出したものに過ぎない。神を崇拝する事は、間違えでは、ない。」

「日本では、宗教は、神の教えを説いた人間によって創られた。ただそれ自体が過ちなのだ。」

「神の考えに人間が触れる事は、有り得ないのだ。」

「神と人間では、それほど次元の違う存在。神とただの生き物なのだ。」

アンナさんの話は、一見、何を言っているのだろうと思うが、自然と理解した。

日本では、神の教えを説いて悟りを開き自ら神になる。

そして、その人間を尊い者として崇める。

神を崇めなくては、意味が無いのに、いつの間にか人間にすり替えられている。

太古より太陽神を崇めているなら、それは、神を尊い存在としていることだ。

それが正解なのだ。


「それは、そうと波木ハキ出来たぞ。」

波木ハキが食べたいアンナスペシャルが。」

テーブルの上に陶器の鍋が置かれる。

グツグツ煮えた赤いスープがマグマの様だ。


「私の珈琲は?」

アンナさんに催促される。

アンナさんの話に気を取られて珈琲を淹れてなかった。

「すぐに淹れる。」

砕いた豆をペーパーフィルターに入れ、少量のお湯を回して滴し豆を蒸らす。

1、2、3、4…9、10。

ポットからお湯を細くして回しながら豆に滴す。

1杯分のお湯を淹れたら後は、すべてのお湯がフィルターからなくなるまで待つ。


出来た。

「お待たせしました。」

アンナさんの前に珈琲を差し出す。

そして、チョコレートボトルからチョコレートを2粒を小皿に取り出す。

「1個は、今日の分で、もう1個は、先払い分です。」


「気が早いな。でも、そう言うの嫌いではない。」

「食べたくなったらいつでも言ってくれ。」

「チョコレート2粒かぁ。豪華な朝ごはんだ。」

ニコニコしながらアンナさんは言った。


「旨そうだな。」

頭の上から声がした。


上を見上げる。

ジンさんが、上から私の海鮮純豆腐鍋を覗いている。

「一口、食べます?」

軽い気持ちで言ってみる。

「全部なら食べるけど。」

既にスプーンを構えている。

「駄目です。」

両腕で鍋を囲う。


ジン、仕事か?」

アンナさんがさっきの男の人達との会話を確かめる。


「そう、仕事です。」

波木ハキ。」

そう言って背後から私の両腕を掴んだ。

何か捕まった感じだ。


て、私に仕事?

恐る恐る聞く。

「仕事て、何ですか?」


「黒いお茶会潜入大作戦だ。」

ジンさんの口元が笑っている。

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