第13話 貯古齢糖
「
アンナさんのちんぷんかんぷんな質問が、飛ぶ。
「俺が拾って来たんじゃない。自分から身売りしてきたんだ。」
えーと、お兄さん、私…身売りした覚えはない。
「えー、
アンナさんの質問に私は、大きく首を振る。
「いや、いや、
「
アンナさんが、お兄さんを睨み付ける。
「はははは…そうだった。」
でも、お兄さんは、私が、話した叔父の話は、嘘だと思っていたのだろうか?
「それは、そうと今回の報酬だ。」
そう言うとお兄さんは、お姉さんの手を取り1円銀貨3枚を渡した。
そして、私の目の前のテーブルの上に1円銀貨1枚を置いた。
「
「1円だと少なくない?」
お姉さんが、テーブルの上の1円玉を見て言う。
「俺も最初は、2円にしようと思っていたけど、1日半ずーと寝ていて、インナは、やっと傷口が塞がり始めたが、
「本当なの?」
お姉さんは、そう言うと私の身体を調べ始めた。
腕を掴まれ右に左に、表裏と傷口を探している。
続いて脚もベットの上に上げられ、裸にされそうな勢いで調べられた。
「治ってる。」
「だろ。」
お兄さんがお姉さんの言葉に応対する。
"ガッタッ"
アンナさんが、突然、席を立ち身構える。
「
えーーーーー!
なんでそうなるの?
「違う、違う。」
私は、慌てて大きく手を振って言った。
「魔女て、あの魔法を使う人の事でしょう?」
「魔法?」
「なにを言っている?」
「
「魔女は、
「契約により
「
「じゃー、あの女の人も…」
「彼女は、魔女ではない。」
お兄さんが、話に参加してきた。
「違うの?」
私は、尋ねた。
「多分、彼女は、魔女になりたかったんだろ。」
「でも、なれなかった。そして、
「誰でも魔女になれる訳ではない。」
「
お兄さんの言葉に…絶句。
「昔、本当に魔女て、存在したんだ。」
私の思っている事が、言葉で出てしまった。
その言葉にアンナさんは、席に着いた。
「なんだ。
「てか、昔て、なんだ?昔て、」
苦笑いをする私…
なんて答えていいやら。
「そう言えば、このカバン、
そう言って深紫色の肩掛けカバンを私に見せる。
「あ!私のカバンだ。」
そう言ってカバンをお兄さんから受け取る。
「でも、確か、
そうだ。
初めて
でも、私は、1週間の間、令和に戻っていた。
てか、私、神殿に行った時、カバン持ってたけ?
記憶が曖昧だ。
視線を感じる。
お兄さんの視線が痛い。
いつリュックがカバンに化けたか聞きたいみたい。
…どうしよう。
肩掛けカバンを膝の上に抱える。
!!
なんか、カバンがゴツゴツしている。
カバンの中を見る。
これは…どんな傷にも効くおばあちゃんの秘密兵器、タイガーバーム軟膏だ。
それと、液バンと綿棒、キズパワーパッドが出てきた。
それらをテーブルの上に並べた。
そして、チョコレートのボトルと
"
お兄さんやお姉さんが、
「
アンナさんがまた、立ち上がり構える。
「お前、それ、
私は、うっすら笑みを浮かべる。
「これで、お姉さんの傷口も早く直せる。」
「お兄さん、手伝って。」
お姉さんの包帯を取り、軟膏を綿棒で傷口に合わせ塗っていく。
鋭い切傷なら軟膏プラス液バンだよね。
ギズパワーパッドは…
キズパワーパッドの取り扱い説明書を見る。
ふーん、見て良かった。
すでに、キズパワーパッドに薬品が着いているのね。
だから、傷口をきれいにして貼ればいいのね。
お姉さんの傷口を見ながらキズパワーパッドの方がよさそうなところはキズパワーパッドを貼っていく。
「
「臭いがヤバいぞ。」
アンナさんが、お姉さんの顔を見ながら言う。
「それに
あたりに接着剤の臭いが漂う。
多分、液バンが滲みて傷口が痛いはず。
私は、大暴れしたもんね。
「お姉さん、ごめんなさい。」
「この液バン、滲みるでしょう。」
私の言葉にお姉さんが、私を睨む。
うぅ……そんなに睨まないで。
そうだ。
大正3年だとまだ、チョコレートは、高価品だよね。
大正7年に一貫製造設備が作られたはず。
チョコレートボトルから卵形のチョコレートを1粒取り出す。
「お姉さん、あーん、して。」
「あーん。」
私の言葉に素直にあーんをしてくれるお姉さん。
お姉さんの口の中にチョコレートを入れようとした瞬間、アンナさんに腕を掴まれる。
「
「見るからに焦げ茶色で不気味だぞ。」
「それにその形…なんの卵だ?」
アンナさんが、またまた邪魔をする。
「卵じゃなくて、これは、チョコレート。」
「カカオが原料でこんな色になってるの。」
「
お兄さんが、聞き返す。
「そう、チョコレートです。」
再度言う。
「
アンナさんが風評を唱え出す。
うぅ。
困り果てた顔をしているとお兄さんが、「本物の
私は、頷く。
頷いた私を見てお兄さんが、「インナ、食べてみろ。貯古齢糖(ちょこれいと)なら、その1粒で10銭だぞ。」と言ってくれた。
私の腕を掴んでいたアンナさんも唖然として私の腕を話した。
「一気に食べるなよ。味わって食え。」
お兄さんの言葉に頷くお姉さん。
私は、お姉さんの口の中にチョコレートを入れた。
お姉さんの口の動きを見る。
噛もうとして止めた。
舐めてる?
「
お姉さんの顔に笑みがもれる。
お姉さんの機嫌が良くなった。
今のうちに残りの傷口も処理しちゃおう。
傷口を見ながらキズパワーパッドと軟膏を使い分ける。あともう少しだ。
「
そう言って口を大きく開けるお姉さん。
「もう少しだから頑張って下さいね。」
私の言葉に口を開けたままのお姉さん。
ふーう。
はいはい。
チョコレートボトルからチョコレートを取り出す。
それを見て一旦、口を閉じるお姉さん。
「はい。あーん。」
私の言葉に再度、口を開けるお姉さん。
お姉さんの口の中にチョコレートを放り込む。
また、嬉しそうに微笑むお姉さん。
「幸せ。」
お姉さんが、笑顔で言う。
今のうちだ。
お姉さんが、チョコレートを食べ終わる前に終わらす。
「
また、お姉さんに呼ばれる。
「私の
お姉さん…それは、あなたが食べたからです。
前回より食べるスピードが早くない?
また、チョコレートボトルからチョコレートを1粒取り出しお姉さんに与える。
結局、お姉さんに4粒のチョコレートを与え傷口の処理を終えた。
お姉さんは、今、気持ちよさそうに寝ている。
「
「
珈琲を飲みながらお兄さんが言う。
お姉さんが寝てから、私は、お兄さんに頼まれキッチンで珈琲を淹れた。
この前、私が淹れた珈琲が美味しかったらしい。
「今回、
私の言葉にお兄さんが、怪訝な顔をする。
「今回?」
「叔父さんと来たと言ったのは、
あ…
物事、考えないで言ってしまった。
私は、一週間令和に戻っていたが、此方の時代にまた来た時は、一週間後ではなく、前回の時間の継続だった。
私には、此方の時代に来るのが2回目でも、お兄さんが、私と逢うのは、1回目のままだ。
「
なんと返答しようか迷っていたら。
アンナさんがニヤニヤしながら訳のわからない事を言い出した。
「そしたら、
「その間は、私の寝台、半分貸してあげる。」
「本当ですか!」
ナイス。
アンナさん。
ちんぷんかんぷんな提案だけどありがたい。
今、気がついたけど…私…令和への帰り方がわからない。
そんな状況で大正時代の明治町に1人投げ出されても困る。
飢え死にしちゃうかも…
私は、アンナさんの両手を握り手を振りながら頷いた。
アンナさんがまた、ニヤニヤの顔になった。
「それと、
なんと凄く有難い提案。
嬉しくて、隣にいるお兄さんの腕をバンバン手で叩く。
「アンナさんが、ご飯食べさせてくれるって。」
お兄さんに伝える。
早速チョコレートボトルからチョコレートを1粒取り出す。
「アンナさん。あーん。」
アンナは、嬉しそうに口を開けた。
アンナさんもチョコレートを口の中で舐めてるようだ。
アンナさんの顔に笑みがでる。
そして、お兄さんの腕を手でバンバン叩いた。
「
「すごい。甘くて苦くて美味しい。」
両側から腕をバンバン叩かれお兄さんの顔が怪訝な顔になった。
でも、何か考え込んでいる。
「アンナ、そんなに旨いか?それ。」
お兄さんの問に大きく頷くアンナさん。
お兄さんが、私に向き直る。
「
大正時代のお金が手に入る。
そうすれば、前回みたいにお腹が空いたり、喉が渇いたときには、大正時代のお金で物が買える。
私は、お兄さんの手を取り大きく何回も頷いた。
お兄さんの気が変わらないうちに。
「お兄さん、あーん。して。」
素直に、あーんをするお兄さん。
お兄さんの口にチョコレートを入れる。
お兄さんもチョコレートを味わっている。
「旨い!」
お兄さんが、大声をあげた。
アンナさんと私は、びっくりした。
「ごめん、ごめん。」
「いやー、前に1度、
「俺が食べた
「もしかして、この
その言葉にアンナさんも此方を見て何回も頷く。
「どうだろう?」
「大富豪じゃなと思う。でも、最近は、たまにしか逢えないから。」
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