第9話 1円銀貨

叔父サンチョンと歩きながら駅を目指す。


父と母は、また2人で、出掛けてしまった。

車を出してもらえない叔父サンチョンは、1人電車で、空港に向かうことになった。

昨日は、叔父サンチョンが落ちた場所から岩屋の出口まで3時間も洞窟内を歩いた。

神社に戻って来て、2人ともすぐに死んだように寝てしまった。

まだ、色々、叔父サンチョンと話をしたい私は、用事がないのに、あるように振る舞い叔父サンチョンに寄生している。


叔父サンチョン、あと2分で、電車来るよ。

改札口で、チャージしている叔父サンチョンを急かす。


電車に乗り込む。

この時間は、空いてるらしい。

叔父サンチョン、座ろ。」

2人並んで座る。

波木ハキ、もしかしたら俺達、大正時代に行ってたのかも?」

私が、目をまん丸にしているとジーパンのポケットから何かを出して、私に手渡した。

渡されたものを見る。

「わぁー、綺麗。」

「綺麗な、一円銀貨じゃん。」

「この一円銀貨が、どうしたの?」

叔父サンチョンに質問する。


「昨日、岩屋の洞窟でミカンを食べていた時、ライトの光に反射するものを見て、最初は、水滴か、鉱石かなと思ったけど、なんか気になって。」

「それで、確かめに行ったら、その一円銀貨が落ちていた。」


「え!昨日の洞窟で拾ったの。」


「そう。ちょうど落とし穴の真上だ。」


「落とし穴の真上…もしかして、罠?」


「俺も、罠か!と思ったけど…」

波木ハキが、穴の上から飛び降りて、俺にキックを炸裂させ、俺を倒して俺の上に着地した時、俺は、仰向け状態で波木ハキのパンツと波木ハキの頭上の穴がよく見えた。」


「殴っていい?」

グーパンチを叔父サンチョンの頬にグリグリする。

叔父サンチョンは、私の攻撃を気にしないで話を進める。

波木ハキが、俺の上から、なかなか退かないから見ていたら…波木ハキの頭上の穴が塞がり始めた。そして、消えた。」

そんな事が、起きてたの…

「どうして、その時、私にも教えてくれなかったの?」


「多分…疲れてて、思考低下してたんじゃないのかな。」

「朝、起きてから、昨日の出来事を理解しようと脳が動き出した感じだ。」

叔父サンチョンの言葉に納得する。

洞窟内8時間、穴に落ちてから更に3時間歩き続けていた。

戻って来た時は、すでに2人とも顔がキョンシー状態だった。

叔父サンチョンは、話を進める。

「で、よく考えた。」

「そしたら、こう思った。」

「俺は、この一週間、波木ハキと一緒に行った洞窟は、全て初めて行った洞窟だった。それも、洞窟自体が大きく平坦で歩き易かった。」

「俺の知っている岩屋の洞窟とは、明らかに違う洞窟に思えた。」

「そして、その一円銀貨を拾った。」

「洞窟で、硬貨を見つけるとき、埋まっていたり、すごい汚れていて、いかにも昔の硬貨だと言った感じだ。」

「でも、その一円銀貨は、綺麗で、ただ落ちていた。ついさっき、通りすがりに誰かが落としたかの様に。」

「俺の知らない洞窟、波木ハキと一緒じゃないと行けない洞窟、一円銀貨を落とす人がいる洞窟。」

叔父サンチョンの話を聞いて叔父サンチョンが言った大正時代かもそれない意味がわかった。

叔父サンチョンの話から察するとあの洞窟は、大正時代の洞窟だった。」

「でも、私達は、あの洞窟は、岩屋の洞窟だと勝手に思い込み岩屋の出口を探していたから時間がかかった。」

「もし、もしあの洞窟が大正時代の洞窟だとわかっていたら私達は、明治町に出られる出口を探していたかもしれない。そして、その方が、早く出口に出れていたかもしれない。」


「流石、波木ハキ。」

「俺の言う事は、もうない。」

叔父サンチョンの話が正しければ、私達は、大正時代に行ってたんだ。

一円銀貨を見つめる。大正3年と製造年が刻印されてる。

「大正3年か。」

なんて間抜けなことをしていたんだ。

大正時代に居たのに…

むむむ…


私の落胆した顔を見て、思い出したように、新たな話を始めだす叔父サンチョン


波木ハキ。」


「ん?」


波木ハキが、大正時代で化物ケムルと戦った時に使った剣て、日本刀?」


なんの話だ?


「うんん。ツルギだよ。」

カタナは、片刀でしょう。逆側は、ムネで斬れないタイプ。」

「私が使っていたブレイドは、両刃だよ。」

私の返事に、何か考えている叔父サンチョン

波木ハキが使った剣、何か特徴あった?」

特徴…思いあたらない。

なので、必殺 鸚鵡返し。

「特徴?」


「そう、特徴。」

ムム、鸚鵡返し返しじゃん。

特徴…

なげやりに言う。

「例えば?」


「例えば…、文字が刻まれていたとか。」

叔父サンチョンの言葉に最後の斬撃の時の記憶が、蘇る。

前回転…1回転半の渾身の斬撃を放った時…

剣が、光った様に思えた。

剣を見るとブレイドに文字が刻まれていた。

文字が光っていた…

「えー!」

「なんで、叔父サンチョン、知ってるの!」

「ブレイドに文字刻まれてたこと。」

「私の記憶見た?」

私からの回答を聞いた叔父サンチョンの顔は、驚いていた。

「文字が刻まれてたか。」

四寅剣サインコムか。」

サインコム?何だろう?

聞いてみよう。

「サインコムて、なあに?」


四寅剣サインコムは、漢字で、よん、とら、けん、と書く。寅のトキが4つ重なる時に玉鋼を精錬して創る事に由来されてるけど。」


四寅剣サインコムのサインは、韓国語では、契約書に書くサインと言う文字が、使われている。」「大体、剣身に神に対する願いが刻まれている。」

「大地の神よ、風の神よ…力を与えて下さい。みたいな感じ。」


「ふーん。」

わかったような。わからんような。

「神様の力を借りる呪文が刻まれてるの?」


「お!それ、いいね。そんな感じ。」


「ふーん。」

あのツルギには、神の力が秘められてた…

でも、あのツルギ…鼓動を打ったよね。


叔父サンチョンが、真面目な顔になった。

多分…くだらない事でも思い付いたのか…

波木ハキ神社ウチにも、剣があるの知ってた?」

え?

なに?

今、剣て言ったよね。

「知らない。初めて聞いた。」

神社ウチにある、剣てなに?何処にあるの?」

叔父サンチョンの上衣の袖を掴み顔を近付け言い寄る。


叔父サンチョンは、自分の顔から私の顔を遠ざけ話し出す。

「神殿の祭壇に供えてある。」

「御霊が中央にあって、その一段下の祭壇に三種の神器がある。その三種の神器の一つに剣がある。1mぐらいの木箱に入っている。」

「一度だけ見たことがあるけど、剣身に文字が刻まれていた。」


神殿か…


私が知らない事に納得した。

神殿は、遠目で見たことは、あるが入ったことがない。と言うか、入れてもらえないのだ。

神殿は、父以外入れないのだ。

父は、宮司である。

神社の代表である。

母は、権宮司である。

神社の副代表である。

禰宜と言う宮司の補佐役の神職があるが、うちは、空席である。

代々神社ウチは、代表者だけが神殿祭壇内部に入れるのだ。

だから私は、神殿祭壇に何があるか知らない。

…でも、お父さんが宮司で代表なのだから、叔父サンチョンは、内部に入れないはず。

叔父サンチョン…勝手に侵入しているな。


あ…

今なら、神社ウチには、誰もいない。

チャンスだ。

叔父サンチョンが、ここで無事に過ごしているという事は、神殿祭壇内部に入ってもばれなければOKと言うことか。

電車が、最寄りの駅に到着した。

私は、叔父サンチョンと話がしたくてついてきたが…

今は、居ても立っても居られない。

叔父サンチョン、私、この駅に用事があるから、ここで降りるね。」

「色々ありがとう。また、すぐ来てね。」

そう言って電車を飛び降りた。

私は、そのまま駆け出し隣のホームに向かった。

私が、ホームに着くと電車もホームに入ってきた。

この駅は、上がり電車と下り電車が時間差でくるのを覚えていた。

自動ドアが開いた。

車内に乗り込み、座席に座る。

何か言いたそうな叔父サンチョンの顔が脳裏に浮かぶ。

いきなり降りちゃったから驚いていたみたい。

ゴメンね。叔父サンチョン

でも、早く見たい叔父サンチョンが教えてくれた剣を。


駅に、着いて私は、走り出した。

なんで、こんなに急いでいるのか、自分でもわからない。

でも、私の直感なのか、胸騒ぎなのか、1分でも1秒でも早く剣を確認したかった。

玄関で、靴を脱ぎ捨て、渡り廊下を駆ける。

靴下のせいで脚が滑り曲がり角でオーバーランをしてしまう。

私は、靴下を脱ぎ捨て神殿に向かう。


神殿の入口に着いた。

焦る気持ちが、一旦鎮まった。

玄関に靴を脱ぎ捨て、廊下に靴下を脱ぎ捨て、親が見たら叱られるだろう。

でも、叱られるぐらいなら受け入れよう。


神殿ココからは、痕跡を残しては、いけない。

直感的に思う。

ゆっくりと扉を開き神殿に入る。

祭壇の正面に進む。

「わっ!」

踏み込んだ足を引っ込める。

祭壇の床の板張が、冷たい。

私を拒んでいるかのように痛いくらい冷たい。

再度、祭壇の正面の床に足を入れる。

痛い。

痛いくらい冷たい。

なんで、さっき靴下を脱ぎ捨ててしまったのだろう。

うぅ…後悔。


ビック…

視線を感じて身体が反応して動いた。

誰?

辺りを見回す。

お父さん?

お母さん?


誰もいない…

漆黒と朱色の祭壇に灯りが…

御霊ミタマから灯りが?

祭壇の御霊ミタマを中心に祭壇が明るく照らしだされた。

御霊ミタマの下の祭壇に細長い木箱が、映し出された。


これだ。

私は、すでに、木箱の蓋を開けていた。

木箱の中から布袋を取り出す。

古く変色している。

でも、この織りは…見覚えのある布袋だった。

紐をほどき布袋からツルギを取り出す。


カッチッ


鯉口を切った。

鞘からツルギを抜く。

ブレイドが光を帯びている。


あれ?

自分の動作に違和感を感じた。

今、私、鯉口を切ったよね。

鯉口なんて言葉や動作どこで習った?

そんな事を考えていたらブレイドの光が私を包み込んだ。


え!え、え、え…

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