第7話 初手伝い
スーリヤ…
確かに、目の前にいるモデルの様に背が高く手足が長いお姉さんは、私の顔を見て、そう言った。
そして、そっと頬に触れた。
「似ているな。」
お姉さんの顔が私の顔に寄り添う。
長い睫に大きい瞳。
黒色瞳が、印象的だ。
ところで、私は、誰に似ているのだろう?
私が物思いに更けているとお姉さんは、1人でテキパキと動き回っている。
「よし。忘れ物は、ないよね。」
「あなたは、これを持って。」
織り込みの高価そうな布袋に入っている1m位の棒状の物を2本渡された。
私は、それを大事そうに両手で抱えてお姉さんの後に続いた。
外に出るとすでに、2台の車が、停まってる。
前には、先ほどの婦人と運転席に使用人と思った男性が座っている。
黒光りしている車体が如何にも高価であると言わんばかりだ。
その後ろにお世辞でも高そうと言えない車が、1台、運転席には、イケメンのお兄さんが座っている。
お姉さんは、前の席に乗ったので、私は、必然的に荷物と一緒に後部座席に乗った。
私達が、車に乗り込むとそれを待っていたかの様に婦人の乗った車が動き出した。
その車の後に続き私達が、乗った車も動き出した。
車が、動き出し、お兄さんとお姉さんの会話が、始まった。
「奴等ですか?」
お姉さんがお兄さんに問いかける。
「多分な。」
「1体ですか?」
「話を聴いたかぎり1体だ。でも、もしかしたら乗り移られてる可能性が、高い。」
「憑依ですか。厄介ですね。」
「そうだ。厄介だ。1人で出きるか?」
「今の段階だと殺ってみますとしか言いようがないですね。」
「そうだよな。」
2人の会話が終わった。
無言のまま、車は、走り続ける。
舗装がされていない道は、車の乗り心地がわるい。
ぼんやりと窓ガラス越しに外の景色を眺める。
大通りに出たのかな?
大正時代でも大きい建物があったんだね。
今よりお洒落な造りの建物が、多い。
車は、今度は、狭い山道を上がって行く。
明治町は、
前に、
交差点から見える山の上に建つN.ソウルタワーの写真。
車が、止まった。
お兄さん達が車から降りた。
お姉さんが、後部座席の荷物を私に催促する。
お姉さんに荷物を渡して、私も降りる。
降りるとまた、棒状の物が入った布袋を渡された。
使用人の運転手を先頭に屋敷に入る。
平屋造りだが大きい、いかにもお金持ちと言った家だ。
玄関が広い。
上がり框が、1枚板で側面は、木の側面をそのまま使っている。
木材は、
靴を脱ぎ廊下を進み、応接間に通されたが、そのまま通り過ぎ縁側に出る。
縁側は、すでに雨戸で閉ざされている。
裸電球が、等間隔で天井に吊らされている。
縁側の一番端までたどり着いた。
洋風の扉がある。
「この部屋です。」
婦人は、そう言うと頭をさげ「お願いします。」と言い、踵を返した。
その後に使用人が続く。
「さてと。」
「まだ、名前を聞いていなかったね。」
イケメンのお兄さんは、横に屈んで私の顔を覗き込み言った。
「
「おや、日本人かぁ。」
そう言ってお兄さんは、何か考えている感じだ。
韓国人だと思っていたのかな?
この時代は、教育でも日本語が使われている。
名前も、漢字を宛がう様に大日本帝国軍に言われている。
「怖いもの嫌い?」
お兄さんがまた、私の顔を覗き込み聞く。
お兄さんからの意外な質問に驚く。
「大丈夫だと思いますが…」
咄嗟にそう、口から出た。
私の回答にお兄さんの顔が微笑んだ。
「そうか。それは、よかった。」
「では、入ろう。」
お兄さんは、ドアノブを握り、ドアを開けて中に入る。
お姉さんが、続いて入って行く。
私もお姉さんの後に続く。
「臭うな。」
お兄さんが、言うなり鼻と口を布で覆う。
お姉さんも布で鼻と口を覆い頭の後ろで結わいている。
ムッムッ…
確かに、なんだこの悪臭。
獣臭?
それに混じって血の臭い?
お姉さんは、私の怪訝な顔に気付き、私にも布を手渡してくれた。
2人と同じ様に布鼻と口を覆う。
顔に布を纏っているお兄さんとお姉さんは、2人とも切れ長の目だけがギラッと光っている。
まるで、忍者か刺客のようだ。
カッコいい。
薄暗い中、お兄さんが、何かを探している。
「これだな。」
お兄さんの声と共に部屋の灯りが点いた。
「キャーッ!」
思わず叫んでしまった。
そして、その場にしゃがみ込む。
壁が、傷だらけの血だらけだ。
床には、黒色鳥の羽根やら、鼠や猫の死骸…
よく見ると食い散らかされている。
ポッた。
頬に何かが落ちて来た。
指で拭う。
指が深紅色になる。
血だ。
天井を見上げる。
「キャーーーー」
悲鳴をあげ、しゃがんだまま異常な速さで後方に下がる。
ドン!
壁にあたり身体が止まる。
震えが全身を覆う。
天井に血だらけの女性が張り付いている。
天井一杯に魔方陣みたいなモノが血で書かれている。
その中央に血だらけの女性が張り付いている。
口は大きく裂け、目は、つり上がり此方を見て不気味に笑っている。
骨格は、人だが、明らかに違う生き物に見える。
不意に、私がしがみついている棒状の布袋を引っ張られる。
思わず、取られない様に、強くしがみつく。
「放しなさい。」
お姉さんが、私を睨み言い放った。
慌てて、棒状の布袋を放す。
お姉さんは、そのうちの1本を取り上げ紐をほどいて布袋を開けた。
刀?剣!
お姉さんは、剣を鞘から抜いた。
そして、地を這うように斬撃を纏い剣が床から天井に向けて走った。
ズッバ!
ドッスン!
音を発てて天井から女性が落ちて来た。
剣が、当たったのでは、ない。
剣から放たれた
落ちた女性が立ち上がりお姉さんを睨みつけている。
ヒッ…
女性の額の上の方から角が生えてきてる。
「お…鬼?」
その時、お兄さんのお店の看板を思い出した。
斫·鬼堂…
鬼を退治するお店?
「鬼じゃないよ。」
耳元で声がした。
横を見る。
お兄さんが、私の横に、しゃがんで私の隣にいる。
「あれは、
「
「そう。」
そう、言ってお兄さんは、
刃物のように鋭く鈍く光る。
その爪でお姉さんに襲いかかる。
お姉さんは、その攻撃をダンスでも踊っているかのように軽やかにかわす。
お姉さんの動きを目で追っていると舞っているのがわかった。
そのリズミカルでテンポが速い舞は…なんだろう…
右舞だ。右舞のリズムだ。
私は、右舞のテンポを刻む。
知っている…私は、あの舞を知っている。
誰の手だろう?
細く長く色白の均等のとれた指が、私の手を操る。
衣擦れの音が耳元でする。
綺麗な巫女装束を着た女性の手が私を操り続ける。
私の小さい手、小さい体。
子供の時の記憶だ。
巫女装束じゃない。
あの装束は…
私が、教えられている舞は…
「巫女の憑依儀式の舞。」
「それすなわち、
誰かが頭の中で言った。
神楽の1つに巫女神楽がある。
確かあと出雲流と伊勢流、獅子舞神楽があった。
でも、今、目の前でお姉さんが、舞っているのは、神楽では、ない。
朝鮮から伝わった高麗楽だ。
でも、お姉さんの高麗楽に違和感を感じる。
不意に、顔に何かが飛びかかった。
血だ。
お姉さんの胸から流血した血だ。
いつの間にか、
優勢だったお姉さんが、圧されている。
お兄さんとお姉さんの会話が途切れ途切れ甦る。
「憑依ですか。」
あの女性は、
そして、今、
お姉さんの肩に
ヒッ!
思わず声にならない声をあげる。
お姉さんが、殺されちゃう。
「1人で出きるか?」確かに、お兄さんは、そう言ってた。
1人で出きるかと言うことは、本来は…
私がしがみついているもう1つの布袋を見る。
本来は2人…
ドックン
わっ!
布袋が鼓動を打った?
次の瞬間、私は、無意識に布袋の紐をほどいて剣を取り出し鞘から抜いた。
高麗楽…
私に高麗楽を教えてくれたのは、誰だろう?
母では、ない。
お姉さんの動きを見て舞の節を確認する。
ここか。
お姉さんとの右舞がシンクロして、
お姉さんの高麗楽の違和感が、何だか解った。
鏡合わせだ。
同じ高麗楽を舞っていれば、同じ位置に斬撃は、飛ばない。舞っている位置で斬撃の位置が、変わる。
また、お互いを干渉する可能性がある。
でも、お姉さんの高麗楽は、私の鏡合わ。
左右対称に舞っている。
私が右手に剣を持っているなら、お姉さんは、左手に持っている。
だから同じ位置に2本の剣先が向かう。
私とお姉さんの斬撃が、確実に
高麗楽も、もう終盤だ。
次の一撃で
お姉さんも私の殺気を感じ取ったのか、私を見て頷いた。
頭の中で大太鼓と大鉦鼓の音が響く。
2人とも大きく踏み込み高く舞う。
身体をひねり斬撃の威力を増す。
2人の剣先が、
決まった。
そう、思った次の瞬間…
その力は凄まじく、私達は、剣ごと壁まで弾き飛ばされた。
ドン!ドッスン!
壁に背中を強打して、顔面から床に落ちる。
痛…い…
息がる詰まる。
ゴボッ
息と共に血溜まりを吐いた。
お姉さんを見る。
動かない…
どうする?
頭の中に締太鼓の音が、響く。
身体がその音に反応する。
身体が記憶している。
子供の時、習った舞を。
子供の時の記憶。
高麗楽を舞終わり、一拍置いて、次の舞が、始まる。
私は、一日中舞続けていた。
高麗楽の次の舞は…
私は、舞ながら
そして、斬撃を放つ。
巫女舞…
神道の舞は、
天地東西南北に祈りを捧げる。四方拝。
魔除の剣の舞。
無病息災を祈る。湯立て神楽。
今、私が、舞っているのは、正しく魔除。
剣の舞だ。1本剣の舞。
子供の時は、短刀で舞っていた。
また、ウチの巫女の舞は、早い。
子供の時は、そんな事に気付きはしなかった。
中学生時代にYouTubeで、初めて、他の神社の巫女舞を見て、唖然とした。
こんなに緩やかな動きで舞なのかと。
ウチの神社の巫女舞は、高麗楽に近い。
リズミカルでテンポが、速い。
剣の舞は、その名の如く、
そろそろ1回目の大舞がくる。
私は、舞ながら後退する。
壁際まで追い詰められた。
私は、その場でジャンプして、打ち出されたコークスクリュー・ブローの腕を踏み台にした。
脚を大きく踏み上げて剣を正面に構え前回転する。
前回転始まりに切先を
唐竹が炸裂する。
剣先が、勢いよく
前回転している自分の頭が真下をに向いたとき
「気を抜くな残心だ。」頭の中で声が響いた。
1回転し、そのままの勢いで、剣を斜めに構え
袈裟斬り。
次の瞬間。
私は、その爆風で壁に叩きつけられた。
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