第5話 明治町
扉を開けると強烈な陽射しが視界を奪う。
緑色と黒色の世界が、視界に膜を張る。
暗闇から突然、太陽光の下に出たせいで、視覚がおかしい。
黒色と緑色しか見えない…
徐々に景色がハッキリとしてくる。
「此処は…」
歩き出そうとして、てを引っ張られた。
「え?」
振り返り自分の左手を見る。
「わっ!」
手首から先だけしか見えない。
私が、出てきた扉の向こう側には、漆黒がひろがっている。
右手も
動かない。
なにこれ?
どうしよう…
「あ!」
街には、
扉が開いた暗闇の中に右手を突っ込む。
暗闇の中で右手を動かす。
右手が宙を舞っている。
右手を一度戻し、今度は、
このまま行けば。
肘があった。
ならばこのまま横移動すれば。
手が何かに触れた。
触りまくる。
正解だ。
私の身体も闇夜の中に入ったが、全く何もみえない。
暗闇だけがひろがっている。
「う~ぅ」
「うぅーーーー。」
少しずつ私の体が、太陽の下に戻ってきた。
頑張れ、私。
「うぅぅーーーーー。」
ポッん!
音と共に
「痛い!」
「ごめん、ごめん。」
謝りながら
先程の私と同じ様に、薄暗い場所から太陽光の下に出て、視界を奪われたのだろう。
私も立ち上がり、服に着いた土を払い落とす。
舗装されていない道。
畦道?
でも、わりと広い。
人も大勢いる。
左右にお店が建ち並ぶ。
「街だ!」
「
通行してる人々が、私達の事を何事かと見ながら歩いて行く。
「
私の言葉に、私から離れ、辺りを見回す。
でも、田舎?
目の前の道を車が通る。
黒色のその車は、映画の中でしか見たことのない昔の車だ。
そう言えば、道を行き交う女性達は、綿の花柄のパンツを履いている。
なんだっけ、あのパンツ。
「
左手で、右手を隠して、
「もんぺ」
すぐに、答えがかえってきた。
そうだ。
確かそんな名前だった。
「
街並みや行き交う人々を見てそう思う。
「いや…」
そう言って、
商店街なんだ。
色々な店が、ある。
お店を覗きたいのに
お店の軒先を眺めながら歩いていたら
真剣に地図を見ている。
地図の中心に明治町と書かれている。
地域案内図なのかな?
中区明治町一~二丁目、今いるところが明治町ぽい。
黄金町と本町が、隣接している。
中区に明治町なんかあったけ?
てか、どこの中区?
「ん?」
店先の話声が聞こえてきた。
でも、日本語と韓国語だ。
本当にここは、どこだ?
「
まだ、地図とにらめっこしている
「ん?ここか」
「ここは、多分、京城府、中区、明治町。」
あっさり回答が、返ってくる。
「すごい!
「てか、京城府なんかあったけ?」
正直、
「大韓帝国が大日本帝国領朝鮮のときの地域の呼び名だ。」
「え?」
大韓帝国?
大日本帝国領朝鮮?
大日本帝国て、戦争時代の日本だよね。
アメリカ兵からcrazy yello wmonkeyと呼ばれた時代の日本人。
「
「そう、て、よくcrazy yellow monkeyなんて言葉知っているね。」
ヤバい。
都内にある靖國神社の博物館みたいなところに
なぜ、
これから戦場に向かう兵士の家族に宛てた手紙や、自分達の子供の無事を祈って腹巻きに小銭を縫込んで作ってある防護用具等、見てるだけで悲しくなったのを今も覚えている。
でも、もっと印象が強かったのは、人間魚雷だった。小さな潜水艦に1人で乗り、船体の先端に付けられた起爆装置を敵戦艦に当て自爆する。
その説明を
ありえない。
あんな窮屈なところに1人で乗り込み暗い海をさ迷い、敵艦めがけ特攻する。
自ら爆発する。
「そんなことして、誰が喜ぶの?」
「誰のために特攻するの?」
泣きながら
狂っている。
だから当時、アメリカ兵から大日本帝国人は、yellow crazy monkeyと呼ばれていたと教えてくれた。
そんな時代の韓国に今、いるの。
「えーーーーー。」
なんだか急に恐くなってきた。
「大丈夫。」
「ここは、多分1914年頃の世界だ。大正3年だね。」
「第二次世界対戦が始まるのは1939年だ。」
「でも、大日本帝国は、軍事国家だから気を付けないとね。侵略も進行しいるかも。」
そう言ってまた地図を見出した。
「京城府は、今の韓国のソウル。」
「そして明治町は、今の
そう言うと
たまに綺麗な服装の人がいる。
多分、お金持ちの日本人なんだろうな。
でも、蔵の隠し階段を下りて来ただけなのに。
時空間移動したの?
私が見た、霧の中の街も、昔の何処かの国だったのかな?
そんなことを考えていた時、目の前を1人の女性が通り過ぎた。
「あの人…」
誰だっけ?
私、知っている。
そう、思ったときには、すでに
女の人の後を追う。
何分ぐらい後を追ったのだろう?
女の人が曲がった曲がり角の道に入った時、何かを感じた。
女の人が、見当たらない。
何処かの店に入ったのだろうか?
あれ?
人通りがない。
曲がり角を曲がる前までは、あんなに人がいたのに。
ふと、足元を見る。
あれ?デジャブ?
自分の足元の畦道を見ている。
見たことがある。
どこでだ?
まさか…
そうだ。
蔵から霧の街に行った時、霧で辺りが見えなかったから足元を見ていた。
足元を見ながら進む。
そして、この辺で、私は、顔を上げ辺りを見回した。
霧の街の時と同じ動作を繰り返す。
彼処だ。
彼処の扉が開いていた。
霧の街で見た建物に近付く。
ここだ。
今は、扉は、閉まっている。
扉を開け中に入ってみる。
わぁ、アンティークの応接セットが目の前にある。
焦げ茶色の革張りで高そうなソファーだ。
アンティークじゃないか…
この世界では、最先端なのかもしれない。
ここは、私が生まれた時代よりも100年も前の世界だ。
応接セットの向かいに大きな木の机がある。
近付いてみる。
深い色合いで木目が綺麗な渦を巻いている。
この机も高そうな。
机の上には、日本語、英語、韓国語の本が整然と並んでいる。
「いらっしゃいませ。」
突然、後ろから声をかけられた。
振り返る。
わぁ、イケメンだ。
黒髪で、切れ長の二重瞼。
背も高い。
180cmは、越えているだろう。
「今日は、どのようなご用件で、御来店ですか?」
対応が、丁寧だ。
ここは、お店なのかな?
お客さんと間違えられた?
「えーと、」
何のお店かな?
「あのー、ごめんなさい。」
「知っている家だと思って入ってみたら、違いました。」
素直に本当の事を言う。
「知っている家?」
「ここが、似てたの?」
声のトーンが一段下がった。
お客さんじゃないとわかって、普段の声になったのだろうか?
こちらの声の方が、低くて落ち着いている。
「そこには、1度しか行った事がなくって、曖昧なので。」
「1人で来たの?」
再度、私を確認するように上から下まで見られた。
「
自分の言葉に、はっとする。
私を探している。
絶対に。
「
「君は、韓国人なの?」
ヤバい。
早く
「ごめんなさい。」
「
「黙って此処に入って、ごめんなさい。」
深々と頭を下げ謝る。
1、2、3、4、5数えて、頭を上げ足早にお店を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます