第2話

「んはあっ」


「どんな起き方だよ」


「おはよう、ゲマくん」


「おはようございますメイちゃんさん」


「顔洗ってくる」


「どうぞ」


「ん?」


「あ、おはよう、ございます」


「会ったような会わないような、ちょっと待ってね、名前思い出すから」


「認知してるはずですよ」


「認知?」


「いや、覚えてないならいいです」


「あっそうだ。紅ちゃん。紅ちゃんよね?」


「そうすね。認知は覚えてないのに名前は覚えてるんだ。すげえな」


「えっ待って紅ちゃんなんで泣くの。泣かないで」


「こっち見ないでください。おれぜんぜん何も知らないす」


「ちょっとまず顔洗ってくるから。ね。待ってて。泣かないで泣かないで。社長は?」


「トイレですね。慣れないエナジードリンクをがぶ飲みしたのが原因じゃないすか?」


ひとり出ていって。すぐに戻ってくる。


「顔洗ってきました。よっし。メイクキメるかあ」


「どうぞどうぞ」


「あ、せっかくだから、メイクしながらあなたのことを教えて。紅ちゃん」


「はい」


「え、まだ泣いてんすか」


「ほかのひとに、覚えられた、のが。うれしくて」


「友達少ないタイプね」


「友達少ないタイプだな」


「友達少なかったですう」


「泣くな泣くな。まずええと、どこから聞こうかな。社長の恋人?」


「いや恋人でしょ。朝帰りで女連れ込んできてるんすよ。まず間違いない」


「恋人、というか。友達?」


「友達おるやん」


「友達おるやん」


「いや、ええと、まだ、友達?」


「恋人予定なのね」


「社長もついに身を固めるのか。なんか感動」


「何から話せばいいのか」


「あ、じゃあ、さっきの、ええとなんだっけ、行動変容性未来変更能力、だっけか。それからおねがいします」


「なにそれ。ゲームの必殺技?」


「私の体質、みたいなもので。会った人の、心を大きく変えてしまうんです」


「すげえアーティストのすげえ歌みたいな?」


「そんな感じです。良いことをすると良いひとに、わるいことをすると、わるい人に」


「へえ。じゃあ良いことしないと。はいこれ」


「これは」


「口紅。つけていいわよ」


「物で釣ったなあ」


「ええと」


「あ、え、うそ。もしかして、口紅、つけたことないの?」


「メイクをしたことがなくて」


「うっっそでしょあなた。メイクしたことないとか、うそ。まじで?」


「メイクアップのメイちゃんがばぐった」


「いや、ばぐるよ。だってメイクしたことないのよ?」


「いいんじゃないすか別に。俺もメイクなんてアイブラックぐらいしかしないし」


「おいでおいで。口紅つけてあげる」


「ありがとう、ございます」


「ないたらあかんよ。あかん。きれいな顔が台無しだから。あれ、うそ。泣いてるのに目が荒れてない」


「見せてください」


「もしかして」


「いい目持ってますね。視力は?」


「計ったことない、です」


「俺と同じ目っす。いくら見ても視力が落ちず、光の変化にも強い。涙でもまけたり赤くなったりしない」


「そうなんですか?」


「うらやましいわあ」


「あ、口紅塗ってる間しゃべれなくないすか?」


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