02. 戻ってきた彼.

「かなしそうな顔してますね」


「あ」


「いや。やっぱり、おかね払わないのはなんか、あれかなと思って」


「いいんです。みんな、明日になれば忘れるから」


「明日に?」


「行動変容性未来変更能力、って、知ってます?」


「行動変容性と未来変更能力はそれぞれ分かりますけど、それをくっつけた言葉ですか?」


「あ、これ、ふたつをくっつけた言葉なんだ。知らなかった」


「行動変容性というのは、まあ、なんというか、物事に興味をもって、やってみようって思うこと、ですかね。たぶんそんな感じの意味かな」


「そうなんだ。なんか水に溶ける何かぐらいに思ってました」


「それは水溶性ですね。確かに語感が似てる」


「未来変更能力は?」


「よく漫画とかアニメに出てくるやつです。未来を変えられる、みたいな」


「そっちはそのまんまなんですね」


「で、行動変容性未来変更能力が、どうかしたのですか?」


「わたし、それなんです」


「それ?」


「行動変容性未来変更能力。会った人の、未来を変えてしまうんです。会った人の、明日以降の、心を」


「へえ」


「信じてないですね」


「信じてますよ」


「うそばっかり」


「いやいや。本当ですって」


「この能力には、デメリットがあって」


「なんか、ほんとにアニメや漫画みたいですね」


「やっぱり信じてないんだ」


「どうぞ。お続けください」


「変化を与えた人のなかで、私の存在が、なくなるんです」


「あ、そっか。大きな刺激だから、それを引き起こすトリガーになった人間を忘れるのか」


「まあ、たぶん、そんな感じです」


「ええと、じゃあ、変化を起こさないように生きれば」


「はい。お医者さんにも言われました。普通に生きてれば、普通に生きられるだろうって」


「じゃあ、なんの問題もないですね」


「でも私、普通に生きられないんです。ついさっきだって、あなたに飲み物をおごって、それで、私のことを、覚えていてって。親切なことをしてしまう。覚えていてほしい、私を見つけてほしいって、思ってしまう」


「普通ですね」


「え?」


「いや、普通じゃないですか。ひとりだと、さびしい。普通です」


「いや、でも、だからって普通でいろって」


「あなたは、普通ですよ?」


「普通じゃないです。行動変容性未来変更能力もあるし、友達も、恋人もいない」


「いるじゃないですか」


「え?」


「ここに。あなたのことを覚えている人が。友達でも恋人でも、どちらでもいいですけど。私は、なんとなくあなたのことを好きになれそうなので、恋人がいいかな」


「いまだけです。明日になれば忘れる」


「じゃあ、明日が来なければいい。今日は徹夜します」


「いや、そういうことじゃ」


「逆なんですよ順序が。友達がほしいから親切にする、じゃなくて。親切にしてたら友達ができる、です。そういうふうに考えましょう」


「そんなわけないじゃないですか。下心がないと人は優しくならない」


「じゃあ僕は、下心があって、徹夜するってことですか?」


「ほんとに徹夜するんですか?」


「たとえ明日が来なくても。今日が続けばそれでいいんですよ」


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