探す祈り

 言いたいことなんて一つもなかったんだ。もう何年も、人生の半分以上をそれに費やして分かったことは、表現するために書いているのではなく、祈る為に書いているということだった。

 私には会いたい人がいた。未だ会えていない彼は、生きているかどうかも怪しい。髪の毛よりも細い、けれど鋼鉄よりも強い繋がりを持つ彼がは今何をしているだろうか。一緒に食べに行くと約束したその店は、もう潰れてしまったが、どこで会おうか。私はもうお酒が飲めるから、あなたの好きだったワインのお店でもいいかな。あるいは、あなたに影響されて私もペットを飼い始めました。あなたは猫が好きだったみたいだけど、私も当時はそうだったけれど、飼ってみると犬派になった私と、犬猫それぞれの良さを語りあってみたいな。……色んなことを考えた。考えを逃したくなくて、キャンパスノートの端に書き留めた。やがて、考えることが増えて、キャンバスノートの端から中央に移動して、原稿用紙に移って、今じゃネットの海で考えている。こうも考えれば、あなたに会える気がした。あと、あなたに会った時に、少しいい顔したかったのあるかも。何にせよ、全部、あなたのため。全部、全部、あなたのため。

 気がつけばこんな場所に来てしまった。夢は形だけ叶ったけれど、一緒に祝ってくれるはずのあなたにはついぞ会えなかった。一体、いつになったらあなたに会えるのかな。

 書けなくなることは、もう、怖くないよ。若い頃はいくらでも書けたし、それがなくなるのが恐ろしかった。けれど、今は、永遠にあなたに会えないことの方が恐ろしい。

 私は、書くことが、あなたに会うことと地続きだと思ってるから、祈るように願うように書くんだよ。

 だから、いつかひょっこり、連絡をください。待ってますから。

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