この旅路を
春はついに死んでしまった。もう彼女の声すら思い出せない。一時の激情に潰れた彼女の顔をもう一度思い出した。忘れぬように祈る日々は、甘く優しく、そして確かに僕の気道を塞いでいくんだ。いつか死んでしまうかもしれない。殉職者といえば聞こえはいいか。でも、この醜くく、精液の匂いも取れなくなってしまった僕を、清く健やかな彼女への手向けにすることは決して許されないことだ。そんな気がする。
普段は気付かぬこの匂いも夜になれば否応なく気付かされる。彼の体から放たれる白い蜘蛛の糸に絡め取られる僕は、間違いなく彼女の望んだ姿ではないだろう。彼女の隣の僕はどこまでも清廉であった。こんな姿ではなかった。
もう、全部嘘だといってくれよ。俺が見ている景色は全部泡沫で、少女のくしゃみで割れてしまう程度のものなんだろう。こんなはずじゃなかった。感性を媚薬に浸して殺してきたつもりだった。でも、不意にコンドームの影が無限に膨れ上がった俺を飲み込むんだ。冷たい暗闇の中で溺れる俺は、息をしようと必死に過去の優しい思い出に縋るんだ。けれど、学生の終わり頃から、或いは体が汚れた頃から思い出はその仮面を剥がして、膨張して俺の首を絞めるんだ。
ぼんやりとした意識でいつも思う。全部間違いだ。きっと、神様が全部冗談だよと肩を叩いてくれるはずだ。シャワーを浴びて、薬を飲んで、寝て、目が覚めたら彼女が隣にいるはずなんだ。
前に進むには、後悔が多すぎる。後悔をしては、また後悔が増える。逃げても立ち向かっても、全てが手遅れだ。守りたかったものを、守るために手放した俺は、どこまでも救われない。
そうそう、サンタさんにお願いしたんだよ。この悪いジョークに対する答えをくれってさ。そしたら、次の朝、ベッドからスマートフォンが落ちて割れていたんだよ。空を見て割れてないことを確認した俺は意味を理解したんだ。
なんかもう、億劫だ。
こんな文章誰も見ない。掃き溜め。
まあ、いいさ。どちみち気道は今日も塞がれつつある。それだけさ。
救いを神に願っても、現実に探しても、手に入らなかった。
それだけさ。
嘘だ。俺は寂しい。殺そうと薬漬けにした感性が悪魔的進化を遂げて、俺の胸ぐらを掴んでいる。誰か、俺と一緒にコイツを相手してくれないか……
こんな文章を書いてるのも、そのためなんだ。誰か、誰か……
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