伽藍堂なカミ
その神話は、彼女のいない場所で歌われる。
いつだって、始まりは当人で、広めるのは他人。彼女は自らの火種が、知らぬ間に世界を飲み込む業火になっていることを知らなかった。
いや、今知った。世の中のムーヴメントが、彼女に否応なく伝えたのだ。お前はすでに神である、と。彼女はただただ驚くことしかできなかった。同時に、これからどうしようと途方に暮れた。彼女は、ただの人間である。何か偉業を成し遂げたわけでもなく、生まれが高貴なものなわけでもない。ただ、そういう季節になったというだけだ。夏が終われば葉が紅く染まるように、彼女は崇められるようになった。
彼女はぎこちない笑みで答えた。数多の野太い祈りと切望とが彼女の鼓膜を叩く。その剥き出しの感情と欲望は何たることか! 彼女は、人間同士では決して見えなかった世界、タグ付けされたアイドルとファンに踏み込んだのだ。
彼女は哀れであろうか。
ある島、あるいは島と呼ぶには大きすぎるかもしれない大地が彼女を救おうとした。あらゆる神話を否定し、信者の声帯を切り取ってしまったのだ。このようにして、世界は静かになり、彼女は安息を得た。彼女はただの人間に戻ることができたのだ。
めでたし めでたし
ところでその神話は誰が作ったんだっけ?
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