静謐に安ずる

 都会の喧騒から離れ、私はようやく一息ついた。いつだかのSF小説で読んだ、静寂こそが最も高価なものという話が思い出される。この散文を読んでいる人ならもう知っていると思うが、私は人工こそが最も純であり、すなわち人間を狂わせるという思想を持っている。確か、「装置」でそんな話をした覚えがある。そこで、人間は計り知れない自然を内包しているという話もしたはずだ。人間こそが自然。だから、その自然に任せて喜びを見出せば良いという話だ。

 さて、色々な事情があって人との交わりを絶っていた。私は素面な人間ではないから、いつも紙、正確に言えば電子機器を前にしこしこしているだけだが、ここ数ヶ月は異常であった。本当に寝床から出ず、頬を湿らせることも、額に筋を立てることもなかった。蜂蜜漬けのようだ。私はここで腐っていくのだろうか。いや、蜂蜜漬けにされたのなら、腐ることすらありえない。絶対的停止。

 しかし、それは私が望んだことだった。世界中、空より滴る蜂蜜によって台無しにされれば良いと本気で思っていた。今も、思っている。痛い日々が続くくらいならば永劫の停滞を。

 しかし、驚くことに世界は停止してみせたが、私は鼓動し続けていた。なぜだ。わからない。だが、理由なんて高尚なものはお偉方に任せておけ。私が確かに認めるべきは、ただ一つ。世界は未だ流れの中にあるということだ。そうだ。私さえ拍動してさえいれば、私の主観において世界は確かに蠢き続けるのだ。それだけのことだ。

 だから、どれほど人が恐ろしかろうと、笑うのだ。私が笑えば、世界が笑う。世界が笑えば、自然も笑う。自然が笑えば、人も笑う。

 そこにある怒りは正しく恐れ、敬いなさい。神を祀るように怒りを丁重にもてなしなさい。そうすれば、それもきっと笑う。

 全ては関係性。始まりはどちらでも良いなら、私が始めよう。

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