良い夜
腐った。掌サイズの堅牢に守られた城が、腐った海と化したのを実感した。
そこには昔、裁判所があったという。いや、万年筆だったかもしれない。それらは、はじめは外より来た台風にひどく痛め付けられた。倒壊寸前であったが、柱はまだ残っていた。
けれど、ここの主は愚かであった。あまりに臆病であったともいえる。
外より来るものを恐れて、全ての門を閉ざしたのだ。さらに門番を増やし、やがて彼はそこからでなくなった。
「こうすればここが壊されることはもうない。愛おしいこの場所が……」
閉じた空間に訪れるのは緩やかな腐敗。全ての全てであった聖地は、彼の咳より現れた胞子に呑み込まれ、そして腐った海となった。
それを認めた彼は一つ満足そうに頷くと、拳大の粘菌をとり食した。
その城に朝はまだ来ない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます