良い夜

 腐った。掌サイズの堅牢に守られた城が、腐った海と化したのを実感した。

 そこには昔、裁判所があったという。いや、万年筆だったかもしれない。それらは、はじめは外より来た台風にひどく痛め付けられた。倒壊寸前であったが、柱はまだ残っていた。

 けれど、ここの主は愚かであった。あまりに臆病であったともいえる。

 外より来るものを恐れて、全ての門を閉ざしたのだ。さらに門番を増やし、やがて彼はそこからでなくなった。

「こうすればここが壊されることはもうない。愛おしいこの場所が……」

 閉じた空間に訪れるのは緩やかな腐敗。全ての全てであった聖地は、彼の咳より現れた胞子に呑み込まれ、そして腐った海となった。

 それを認めた彼は一つ満足そうに頷くと、拳大の粘菌をとり食した。

 その城に朝はまだ来ない。

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