詰る、そして泣く

 浅い自分を満たす言葉すら持ち合わせていなかった。いつも渇いていて、必死になって傷口を覆うための言葉を探していた。たくさんの本を読んで、音楽を聴き、時間も空間も超えて駆け回った。

 でも、いつも足りない。

 古今東西、無限の天才たちは俺に合うような言葉を、涙の数だけ残していた。けれど、傷口は完全には覆われず、僅かに見えかくれする血肉がより涙を流すようになった。

 天才どもよ。どうして俺程度の、あんたらがコーヒー飲む間に考えることを、一生かけてまさぐり続ける俺程度を、満たしてくれないんだ。あと少し、ほんのすこしで満たされるのに。

 渇きは癒えず、そして俺は嘘をついた。

 自らの傷を詰って、偉大な言葉どもに合わせたのだ。抉った血肉は、新鮮なのに痛まず、むしろこうすること、こうされることを望んでいたようにすら思われた。

 そして、俺は満たされた。

 大丈夫。もう痛くないはず。

 新たな傷も整形して、古い言葉を当てればいい。

 これからの日々、もう渇きに震えることもない。漠然と煙る不安に奥歯を噛むことも、腐ったテディベアを見て彼女の黒い髪を思い出すことも、もうないのだ。

 もう、ないんだ。

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