甘い香りのしている頃

 昔は、自分の才能が恐ろしかったもんだ。一つ指を振るえば人が産まれ、二つ振るえば世界ができた。三つ振るえば、声が響いた。本当に、世界を再構築するのは、他のだれでもない自分で、世界征服は八百屋になるのと同じくらいなものだった。

 けれど、年くってわかったよ。俺のは才能なんかじゃない。ただの感受性だったんだ。才能はむしろ不足していた。

 感受性が入り口で、才能が出口だ。優れた感性を持つ奴は多くのものを取り入れられる。ここは間違いない。俺はエロ本に個人の不可侵性を見出だす男だ。

 だが、問題は才能だ。才能があれば、溜まった諸々で作品を作れる。デカイ才能があれば、でかいものが作れただろうな。

 じゃあ、なかったら?

 感性ばかり大きくて、才能がなかったから?

 答えは簡単。窒息だ。見出だした世界やイデアの飢え繋がりに雁字搦めにされて、最後には口まで覆われて、声もでなくなって死ぬんだ。

 結局、全てはバランスなんだ。


 今じゃあ、蜘蛛の糸さえ腐ってきて、甘い香りを放つようになった。あるいは、得てきた全てを腐らせて捨て去れば生き残れるのかもしれない。

 空っぽで生きるか、溺れて死ぬか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る