これが愛だ


 彼女にお別れを告げなければいけないと思った。彼女は、俺ではない誰かを愛することを決めたのだ。彼女はそこにいれど、もうここにはいないのだ。


 俺は彼女の全てになりたかった。無垢で潔癖性な俺は、彼女が俺以外の誰かに満たされること、すなわち犯されることを何よりも嫌った。俺は彼女の、過去も現在も未来も全て、自分で満たしたかった。


 でも、そんなこと出来やしないんだ。なんてったって、そうだ、彼女は彼女で満たされていた。それだけのことだった。俺の人生にどうしようもなく俺が充満しているように、彼女の人生を満たすのは、他の男でも、俺でもなく、彼女だったのだ。はなから、つけ入る隙なんてなかったのだ。


 俺らはこの広い海を、それぞれの船に乗って航海をする。緩やかな生から死へのベクトルがある他は何もない海だ。あんたはあんたの航路を行けばいい。俺は俺の航路を行く。例え路が同じでも、船は別。寂しくなったら思いだそう。流れ次第では見えるかもしれない。それなら最高だ。時折触れて、また進んでいく。そこには、流れと各人自らの意思しかない。他人なんて、どうすることもできないんだ。だから、願おう。あなたの成功を。だから、祈ろう。あなたの幸運を。そして、自らの路を進もう。


 これが愛だ。

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