荷物と髑髏
ある男がいる。それほど背の高くない、ほっそりとした男だ。彼は踞っている。膝を抱えて、枯れ葉のような息を吐いている。彼の背後には、象ほどありそうな巨大なリュックサックが置かれている。いや、よく見ると、そのあまりに小さなベルトには彼の細腕が通されていた。矮小な彼と、雄大な荷物との対比。そして、それらを囲む虚無が満ちた荒野。
彼はどうしたいのか。若さに似合わぬしゃがれた声で言った。
「わかってはいるんだ。こいつを背負うしかないってな。だが、投げ捨てた古新聞や目覚まし時計、食べかけのトーストなんかが、もう無視できないほど膨れ上がって……」
男は、手に持ったライターを見つめた。
「なあ、燃やして進むのが正しいと思うかい。あまりに重い荷物は過ぎたものだと思うかい」
男は目を閉じる。途端に、荷物が騒ぎだす。アラームや、蹴落とした同僚の顔、大切な人が大切だった人になった火、青臭いと知りながらも譲ることでしか守れなかったユニフォーム。
まだ、燻るいつかの後悔。
「これを捨てて行くしかないんだ。でも、そうした瞬間、意味がなくなっちまうんだよ」
ある男がいた。それほど背の高くない、ほっそりした男だった。彼はそこにいた。荷物を失うくらいなら、道を捨てた男がそこにいた。
俺は、彼のために何ができただろうか?
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