怒りと正義
ごめん、少し遅れた。いや、委員会のほうが延びてね。
全く、変えたがりには困るよ。変える手間とリスク、それによって得られるメリットの勘定を忘れてる。変わらない美学というものをだね……とキミに話してもしょうがないか。馬鹿には耳がないからね。
言いすぎたな。
口が汚れる。
さて、なんの話だっけ?
ああ、それだ。感情についての話だったね。
キミはどの感情が最も尊いと思う? へぇ、まぁキミはそういう人だもんね。王道の答えはないと思ってたよ。
まぁ、私は感情に貴賤はつけないタイプだけどね。ずるくなんかない。キミが全部と言えば済んだ話だ。
じゃあ、次の質問。最も主体的でない感情はなんだと思う? 受動的と言い換えてもいい。諦め、憧れ? 私はね、怒りだと思うんだ。人は、怒った瞬間から朽ちていくんだ。人は色んな感情をもってるけれど、最も大きなエネルギーを使うのは怒りだよ。怒るたびに、大量のエネルギーが奪われ、他の感情を抱けなくなる。
しかも、たちが悪いことに、怒りの対象は決まって他者だ。いや、デフォルメされ個人の精神に収容された他者というべきかな。本当に外にあるものならいいんだ。それは変化するから、当然こちらの反応も変わる。だけれど、一度内包されてしまうと、それは化石よろしく、変わらずにいつまでもそこにいるようになる。怒りを引き起こす対象が、結婚指輪のようにいつも目につくんだ。
全く、最高だな! すまない、少し機嫌が悪くてね。大丈夫だ、怒ってない。イライラはしてるけど、対象はきちんと外部に置いてある。
さて、一度怒ったらそのことを自覚しない限り、その芽が永遠と栄養を奪うわけだ。
そこで怖いのが正義だ。
自分が正しいというのは、言い換えれば自分は変わらなくていい、相手が変わるべきだということだろ? すると当然反省なんかありやしない。怒りと正義のコンビは最強の寄生虫さ。人間の、人間らしさを徹底的に吸い付くす。
かくいう私も、そいつに寄生されている。幸い、正義が瓦解する瞬間を見ているから、脳みそまではやられなかったけど、気を抜けば心臓くらいは食われるだろうね。
だが、さっきも言ったように、怒りは莫大なパワーを持つ。そして、正義はそれを永遠にする。つまり、こいつらはとんでもないエネルギーを持ってるんだ。
世界はいつも、怒りと正義で変わってきた。肯定はしないよ。ただの事実だ。ただの、ね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます