後悔と夜

 いつ頃でしょうか、少なくとも私がまだ清廉であった頃でしょう。


 私は毎日夢を見ていました。

 床につき目を閉じると、頭と身体がばらばらになって、思考だけが何処までも羽ばたいたのです。

 その超次元的な空間では、私は真に自由でした。私は、私自身を慰めるために世界を砕くことも、人として地面に据え付けられることすら拒否して、翼もなく空中を泳ぐこともできました。

 そんな優しい夜が幾つ続いたでしょうか。

 私は夢を失ってしまいました。

 現実を蹴飛ばして開放的だった夜は、重力の手に絡めとられ、あげくの果てに手のひら大の二次元にまで封じられました。

 全て、私のせいです。

 私が恐れてしまったせいです。

 現実を超えたものが、現実を差し置いて無限に広がることを、心が、身体をベッドに置いたままワンダーランドに旅立つことを恐れてしまったのです。私の心が余りの孤独に耐えかねて、確かな感触を求めたのです。

 その瞬間、全てに接続してきた緩やかな渦で満たされた小さな部屋は、そのドアを開けて、幽霊を招きいれてしまいました。


 彼らは決して触れません。


 ひどい話ですよね。


 あちらがひどくドアをノックするから、この部屋でお茶会でもしようかと思ったのに、彼らが私をまさぐることはあれど、決して触らせはしないのです。

 この手が彼らの身体と重なる度、感じるのは人肌ではなく、渦でした。ちょうど、私の目の前で漂っているのと同じような。

 そう思ったとき、彼らは弾けました。まるで空気を入れすぎた風船のようにパチンと弾けては、中で渦巻いていたどどめ色の廃水が広がりました。

 この時から、私は、もう清らかでないのです。

 ある種の処女性は失われ、心が何処を旅してもその色を落とすことができなくなりました。

 私の夢は、かの色の付いたものしか立ち現れなくなりました。私はもう何処にも行けないのです。

 だから、有限を紡ぎ合わせて無限のように振る舞うこの世界で、飛ぶことも砕くこともできず生きているのです。


 私は不可逆の旅を続けます。


 未だ無限に揺蕩う者たちよ、どうかあなた方はそのままで。

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