ナイフと傷
ある老婆は言う。
胸に刺さったナイフを抜けずにいます。
けれど抜いた瞬間、血が吹き出して私は死ぬでしょう。
水分を失った肌に赤黒い蚯蚓が這い、足は三日月のように尖っていました。
それでも、私は十全です。
あなた方のような、若い、乾いていない方々にはわからないでしょう。ナイフがない方がいいでしょう。あなた方はぜひともそうしてください。
けれど、私たちのナイフまで触れないでください。
あなた方の身体のためにナイフを内包させられた私たち。
引き抜けば死ぬというのに、あなた方は嬉々として……いや、逼迫したような顔をしてグリップに手をかけるのです。
もう塞がらない傷を晒すことが、加害者の罰のため被害者が死ぬことが、正義だというのなら、私は小さな庭で独り死んでいきます。痛みも孤独も、胸のナイフも抱き抱えて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます