みつ

ゆびきりげんまん

 空に暗幕が下り、世界は夜に覆われる。けれど、町の一角に明るみを残す場所があった。多くの赤ちょうちんを屋根に吊るし、そこだけは妖艶な赤い明かりに照らし出されている。路上には男たちが行き交い、店先の女たちを品定めしていた。そう、ここは遊郭である。

 そんな遊郭に美しい琴の音色が響き渡っていた。ピンと張られた弦の震えは空気を震わせ、聴くものの心までも震わせた。その音はある部屋から聴こえてきており、奏でていたのは一人の遊女であった。

 琴が最後の一音を鳴らし余韻を引いていると、演奏していた遊女は琴から手をひいた。しばらく室内を余韻の静寂が満たしたが、それを淡白な拍手の乾いた音が乱す。

「やはり紫苑しおんの琴は素晴らしいな。お主の演奏を聴くためだけにここに通っていると言っても過言ではないぞ」

 男はゆっくりと手を打ち鳴らしながら上機嫌に語った。その顔には満足感が滲み出ており、恍惚といった表情に崩れてしまっている。

 一方、紫苑という遊女は品のよい笑みをひとつ浮かべ、頭をゆっくりと下げて感謝を述べる。

「身に余る御言葉、ありがとうございます。私も御代官様の御前で演奏ができ、この上なく幸せでございます」

「ほっほっほっ、そうかそうか。ならば紫苑、儂の横に来い。お前に酒を注いでもらいたい」

 代官は手に持ったお猪口をひらひらとさせ、紫苑に来るように手招く。紫苑は再び頭を下げて言う。

「御代官様の仰せのままに」

 そして立ち上がり、代官の横に身を置いた。紫苑は日本酒の入った徳利に手を伸ばし、代官の持つお猪口にトクトクと日本酒を注いだ。代官は注がれた酒を一気に喉に流し込み、機嫌よく頬を赤く染め上げていた。



 それから小一時間の後、紫苑たちの部屋に一人の小さな遊女が顔を出した。彼女は座礼をし、用件を述べる。

「紫苑様にお伝えしたいことがあります」

 紫苑はそれを聞き、代官の方に向き直り「少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか」とお伺いを立てる。代官は酔ってこの上なく上機嫌となっており、「おぉ構わんぞ。行ってまいれ」と快諾した。

 紫苑は一礼を残し、そそくさと部屋からその身をひいた。廊下に出て部屋の襖を完全に閉めると、伝えに来た遊女に問う。

「どうしたんだい、志乃しの

 紫苑は部屋の中に届かないように声を殺しながら問いかける。志乃と呼ばれた小さな遊女は少しばかり言うことに躊躇いを見せつつも、最終的には口を開いた。

「それが……、実は柳之臣りゅうのしん様が姉さまを連れて来いと騒ぐもので……」

 志乃がおずおずと言葉を語ると、紫苑は小さく溜め息を漏らした。

「はぁ……それでアンタはのこのこと私のところに来たのかい?」

「いえ、できないと何度も申し上げたのですが、一切聞き入れてもらえず……」

「…………」

 紫苑は「使えない子だね」と言わんばかりに蔑むような瞳で志乃を見つめた。志乃は怒られるのを承知のうえで来たようで、押し黙って紫苑の返事を待っていた。しかし、紫苑は怒ることなく、溜め息をひとつ零して志乃の頭に手を置いた。

「アンタは私に頼るしかなかったんだね、分かったよ。私がアイツのところに行ってあげるわ」

「ほ、本当ですか!? 紫苑姉さま、ありがとうございます!」

 志乃は緊張から解放され、喜びを顔に出しながらも何度も頭を下げた。

「はいはい。分かったから、アンタは先に部屋に帰りな」

 何度も何度も頭を下げる志乃の頭をポンポンと叩き、志乃には帰るように指示をした。志乃はその指示に従い、一礼をしてから廊下を進んでいった。紫苑は代官のいる部屋の襖に向き直り、それに手をかけ開く。代官は音に気付き、紫苑の方に向く。それを見て、紫苑は話し始めた。

「御代官様、誠に申し訳ありませんが、私は私用で外れなければならなくなってしまいました」

「おぉ、そうかそうか。儂は構わんぞ。今宵はもうお前の琴音も聴けたことだしのう」

 そう言って代官は隣に侍らせている別の遊女の胸元を見つめ、鼻を伸ばしていた。紫苑にはもう目もくれておらず、完全に蚊帳の外という感じになってしまっていた。

 紫苑は心の中で舌打ちを鳴らしつつも、代官に頭を下げて謝意を述べる。

「御代官様のお懐の深さに感謝いたします」

 そして紫苑は部屋から去り、廊下を進んで行く。歩いているとき、紫苑の心の中は荒れていた。

 これから向かっている部屋に居るのは柳之臣という男であり、彼は紫苑の間夫(恋人のこと)であった。しかし、それは彼に金を落とさせるための嘘であり、紫苑はまるで本気にしていなかった。ただの客よりも、他の客と違ってあなたのことだけを愛していますと言っていた方が金を落としてくれるから、間夫だとかたっているだけなのであった。しかし、最近は間夫だからと図々しさが増してきている嫌いがあった。今日も代官という上客が来ていることは伝えていたというのに我が儘を通してきていた。紫苑にとっては単なる金づるだというのに、その相手をするせいで上客を他の遊女に取られてしまい、はらわたは煮えくり返っていた。

 しかし、そんな想いを表に出すことはなかった。柳之臣の待つ部屋に着き、その戸を開けるときには、間夫を迎えることを喜ぶ一人の乙女の顔を自らの顔に貼りつけていた。

 襖が開く音に気付き、部屋の中に居た男はそちらに向き、紫苑の姿を捉えた。その瞬間に、彼女に向けて声を掛ける。

「紫苑! 来てくれたのか」

 そう言い男は紫苑の方に歩み寄っていく。近づいて来る男に対し、紫苑は笑顔をもって応える。

「柳之臣さまの御頼みですからね。来ないわけにはいきません」

 紫苑が穏やかな笑みを浮かべて話す姿を見て、柳之臣という男は彼女の言葉を信じ込んでしまう。

「ありがとう、紫苑。心の底から愛しているよ」

 そう言い、柳之臣は紫苑を抱きしめる。紫苑の方も柳之臣を抱き返し、互いの温もりを感じ合う。しかし、心の内は異なっており、紫苑は柳之臣のことを本当に面倒臭い男だと思っていた。だが、その気持ちはおくびにも出さずに彼を抱き返していた。

「私も柳之臣さまを愛しております」

「その言葉が聞けて嬉しいよ。でも、もうそれだけじゃ満足できないんだ……」

「満足……ですか?」

「いや、ちょっと言い方に問題があったかな。つまり俺の言いたいことは、もう君の言葉だけじゃ安心ができないんだよ。本当に君が俺のことを愛してくれているのかどうか」

「私は柳之臣さまのことを本当に愛しております」

 紫苑は演技に熱を入れ、自分の気持ちを信じてもらえない切なさを表すために瞳を軽く濡らす。その様子を見て、柳之臣は少しうろたえる。だが、考えを曲げるまでには至らなかった。

「いや、紫苑の気持ちは信じているよ。でも俺はそのことの具体的な証明が欲しいんだ」

「具体的な証明ですか……」

 遊女の間夫であることの証明。その答えは言わずもがなであった。

「つまり、心中立てということでしょうか?」

「あぁ、そういうことになる」

「分かりました。では今すぐに起誓文をお作りしましょう」

 そして紫苑は一度部屋を去ろうとする。だが、柳之臣は彼女の手を取り、去ろうとするのを止める。

「もう起誓文でも安心ができないんだ。俺は……君に指切りをしてほしい」

「指切りで御座いますか? けれど、そんなことをしてしまったらもう琴が弾くことができなくなってしまいます」

「分かってるよ、でも大丈夫。紫苑の琴が聞けなくなっても、俺の気持ちは変わらないよ」

 その言葉を耳にし、紫苑の心の中では「何を言ってんの?」という思いに満たされていた。柳之臣の言った言葉が本当に理解しきれなくなっていたのだ。

「え……?」と紫苑は訊きかえす。

「だから、俺は紫苑を愛し続けるよ。琴が弾けなくなったってさ」

 紫苑は再び繰り返されたその言葉に返す言葉を失ってしまったが、なんとか口を動かし返答した。

「あ、ありがとうございます。柳之臣さま」

 そうして紫苑は心中立てである指切りをすることを受けてしまった。



 指切りを受けてから数日の時が流れた。部屋の中には紫苑と志乃の二人が居た。

「そうだ、志乃」と紫苑が呼ぶ。

「はい、紫苑姉さま。なんですか?」

「柳之臣に指は渡してくれた?」

「はい、今朝ちゃんと手渡して来ました。随分と喜んでいらっしゃいましたよ」

「そう、ありがとう。……それでその指は一体誰のなの?」

「先日亡くなった別の姉さまのものを使わせていただきました」

「そう。分かったわ」

 紫苑はこれで一応収まりを見せるだろうと考えていたが、事態はそう甘くは進まなかった。

 その夜、柳之臣が店を訪れた。もちろん指名は紫苑。その他の遊女に目もくれず、彼女だけを求めていた。

 紫苑は指名に応じ、柳之臣の待つ部屋に赴く。しかし、この前と違うところがある。それは右手に巻いた包帯だった。切ってないことが知られないようにわざとらしいほど何重にも包帯を巻き、手の形が残っていないほどになっていた。

 柳之臣のいる部屋の前に着き、その襖をゆっくりと開く。襖の擦れる音が聞こえ、部屋の中に居た柳之臣は顔をあげて紫苑を見つめる。

「紫苑……。おかしいんだよ……」

 柳之臣は呻くように言った。紫苑は彼の言葉に引っ掛かりを覚えつつ訊き返す。

「どうなさいました?」

 しかし、柳之臣はまるで聞こえていないかのように繰り返す。

「おかしいんだよ……おかしいんだよ……」

 柳之臣の様子を不審に思い、紫苑は警戒心を抱きつつも彼のもとへと歩み寄っていく。あまり刺激しないようにり足でゆっくりと近づいていく。

 すると、柳之臣が手に持っているものが紫苑の眼に入った。細長い棒のようなもの。紫苑にはまだ何であるか察しがつかなかった。

 だが突然、柳之臣はその細長いものを口に入れ、しゃぶり始めた。そして、そのまま言葉を漏らす。

「おかしいんだよ……紫苑の味がしないんだ……」

 続いて、柳之臣は口からその細長いものを出し、それを鼻の下に押し当てて一気に鼻から息を吸った。細長いものを鼻から吸い込んでしまおうとしているかのように勢いよく。そして、一頻り吸うと再び口から言葉を零す。

「おかしいんだよ……紫苑の匂いがしないんだ……」

 そして、柳之臣は顔を上げて紫苑を見つめつつ、また言葉を発する。まるで嘆願しているような切実な声色で。

「おかしいんだよ……紫苑」

 紫苑は柳之臣の顔を見るとともに、その細長いものにも目がいった。そして、理解する。それが一体なんだったのか、を。

 その細長いものは、指だった。

 指は何度もしゃぶられたのか、溺死した遺体のそれのように表面は白くぶよぶよとしてしまっている。

 紫苑は指だと分かった瞬間、足を止めた。近付くことを止め、柳之臣からは少し離れたところに佇んでいた。

 狂ってる。その言葉が紫苑の頭を満たしていた。だが、そんな状態の紫苑に気付くことなく、柳之臣は自分の想いをぶつけてくる。

「紫苑……これって本当に君の指なのか……? ねぇ……、その包帯を取って見せてくれよ」

 柳之臣は白い指を握りしめ、覚束ないような足取りでゆっくりと紫苑に近づいてきた。紫苑は逃げたい想いに駆られていたが、ある考えがそれを遮った。

 それは、お金に対する執着心だった。彼女の借金はあとわずかになっており、もう少しで年季明けを迎えられるところであった。年季明けを迎えれば今までの遊女として歩んだ人生とは縁を切り、どこか遠い地で新たな人生を始めようと考えていた。だから多くの男と間夫の関係を築き、彼らを金づるとして利用していた。しかし、多くに手を出し過ぎた彼女は信用を失い、ともに多くの客を失っていた。今の彼女に残っていたのは、目の前にいる最後の金づるの柳之臣と、琴のみ。琴の才を認められ、上客の前で演奏をすることは多かったが、それが床に繋がることはわずかであった。そのため、最後の金づるである柳之臣を手放すわけにはいかなかった。

 紫苑は畳の上に座し、左手を右手の包帯へと伸ばした。

「柳之臣さま、正直にお話しします」

 するすると包帯が解かれ、畳の上に積もっていく。

「私は柳之臣さまにいつまでも琴をお聞かせしたく思い、このようなことをしてしまったのです。お許しください。ただ琴の音色をいつまでもお聞かせしたかっただけなのです」

 紫苑は懇願の声色で言葉を綴る。そして、最後に一押しをする。

「これは柳之臣さまへの愛ゆえのこと。お許しいただけないでしょうか?」

 瞳を露で濡らし、柳之臣の顔を見つめた。けれど紫苑の心の中では、これで大丈夫なはずだとわらっている彼女が居た。男なんて単純だ。紫苑はそう考えていたのだ。

 しかし、柳之臣の反応は紫苑の考えに反していた。柳之臣は傍らに置いていた脇差に手を伸ばし、その刃を抜いていた。怪しげな銀色の光を纏った脇差の刃が紫苑に向けられている。

「俺は……俺は紫苑のが欲しいんだよ……」

 柳之臣は脇差の刃をカタカタと震わせながら紫苑の方へと近づく。その様に紫苑は戦慄を覚えた。胸中に抱いていた余裕は消え去り、焦りが湧き起こる。

「柳之臣さま……? ねえ、柳之臣さま……?」

 しかし、紫苑の声は柳之臣の耳には入らない。柳之臣は脇差を握りしめ、「紫苑、紫苑……」と何度も呟いていた。

 まずい、と紫苑は感じた。紫苑は立ち上がり、柳之臣から距離を取ろうと後じさる。

 だが、柳之臣の方が先に動き出した。

「紫苑……お前のが欲しいんだよぉ……」

 柳之臣は駄々をこねる子供のように言いながら、そのまま一気に紫苑のもとに駆け寄った。あまりに急なことに紫苑は驚き、咄嗟に身を退く。しかし、そこで自らの着物の端を踏んでしまい、畳の上に尻餅をついてしまった。柳之臣は転ぶ紫苑を追いかけるように、刃を突き出した。そして、その切っ先が紫苑を突いた。

 脇差の刃は紫苑の右肩を貫き、彼女の服にじわじわと赤い染みを広げた。

「うそ……」

 紫苑は右肩を貫いた刃を見つめ、ぼそりと呟いた。不思議とまだ痛みは感じておらず、目の前の出来事に気が動転してしまっている状態だった。しかし、徐々に右肩が熱くなり疼き始める。そして遂に、激しい痛みが彼女を貫いた。

「ああぁあああぁぁああ」

 紫苑は言葉にならない叫び声を上げ、自由に動く左手で柳之臣の身体を激しく叩く。だが、当の柳之臣は瞳に狂気を浮かべていた。

「紫苑のが……欲しいんだ……」

 次の瞬間、柳之臣は一度刃を紫苑の右肩から抜き、再び振り落した。

 ダンッ、という鈍い音が室内に響く。突然のことに紫苑は言葉を失い、部屋には静けさが舞い降りた。

 だが、紫苑の右肩を激しい痛みが襲い、彼女は金切り声の叫びを上げた。あまりの痛みに頭がおかしくなりそうなのを感じながら、紫苑は自らの右肩に視線を寄せた。しかし、そこに彼女の右腕はもう繋がっていなかった。柳之臣の刀により切断されてしまっていたのだ。

 紫苑は右肩から切り離された右腕を見つけ、目を見開いた。自らの瞳に映っているものが信じられず、彼女の黒目は小さく縮こまる。狭まった視界に、畳の上に広がる赤い液体が映った。そして、その広まった液体の表面に柳之臣の狂った笑みが映る。

「紫苑のだ、紫苑のだ……」

 そう言い、柳之臣は切り離した紫苑の腕を拾い上げ、彼女の手の平を顔に押し付けた。はあはあと荒い息遣いを漏らしながら、その手の香りを味わう。彼女の動かなくなった手の平の隙間から、柳之臣の嬉嬉とした表情が垣間見えていた。その狂った笑みを最後に、紫苑の目の前は真っ黒に染まっていった。



 その後、紫苑は応急的な止血処理によりなんとか一命を取り留めた。一方、柳之臣は捕らえられ、何かしらの罰を与えられたそうだ。そのため、その後紫苑の前に柳之臣が姿を現すことはなかった。

 今回の事件により紫苑は右腕を失い、二度と琴を弾けなくなってしまった。加えて、しばらくのあいだ療養生活を送り、それにより彼女の借金は増えてしまっていた。

 片腕のない女を相手にしようなどと思う物好きは居らず、彼女の仕事は表から裏方へと移っていった。他の遊女たちの身の回りの世話をするようになったが、片腕しかない彼女では足手まといになることが多く、遊郭内でも邪魔者扱いを受けることがいくらかあった。もし片腕を失うことがなければ、残り数ヶ月で年季明けを迎えられるほど借金は減っていたというのに、紫苑の生活はあの事件のせいで一変してしまっていた。



 それから数年後、その地域一体で飢饉が発生し、長く続いた。その原因が水神様の崇りであるという噂が広まり、古来に行われた人身御供がある淵でされることとなった。生贄にする者は祈祷師の指示に従い、代官が選び出した。

 それが遊女であった。さらに、その遊女というのも、遊郭内での邪魔者処理を兼ねていた。そのため選ばれた者の中には紫苑も混ざっていた。

 後日、代官を前にし、淵の上に特別に設けられた舞台の上で選ばれた遊女たちは踊りを披露した。代官は隣に上級の遊女を侍らせ、日本酒や豪勢な食事に舌鼓をうちながらその踊りを楽しんだ。そして、一頻り見た後、側近にこう指示を下した。

「やれ」――と。

 その言葉を合図に、舞台を支えていた縄が切られ、舞台は淵のそこに落ちていった。乗っていた数十人の遊女たちとともに。

 落ちている最中、紫苑は死を感じる以上に憎悪を燃えたぎらせていた。

 あの時、右手さえ失っていなければ。あの時、指切りさえしなければ。

 柳之臣への憎悪を燃やし、唇を食いちぎりそうなほど強く噛みながら、紫苑は淵の底にある闇の中に飲まれていった。



 その日を境に、その地域ではときどき男が消えるようになったという。彼らはみな、その淵の近くを通りかかっていたそうだ。そのため、人々は遊女たちの崇りだと思い、石碑を立てて彼女たちの鎮魂を願ったそうだが効果はなく、男が消えるということはなくならなかった。遂には人々はその道の利用を止め、淵に近づくことを禁じた。

 しかし、中には守らない者もおり、面白半分に近づく者も居た。彼らは淵に近づき、その底に宿る深い闇を覗き見た。すると、深い淵の底から女の歌声が聞こえてきた。


   指切りげんまん

   嘘ついたら針千本飲ます

   指切った


 そしてまた、その男たちも姿を消した。

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