第4話 再確認
僕は自分の目を疑った。今日が土曜日のはずがない。今日はあの嫌な体育祭がある金曜日のはずだ。仮に今日が本当に土曜日だとしても、僕は金曜日の記憶がない。体育祭は一体どうなったのだ?
とりあえずテレビを付けて今日が何曜日かを確認してみたが、土曜日の朝の再放送アニメが放映されていた。どうやら今日は本当に土曜日のようだ。何が何だか分からない。ここまで気分が晴れない土曜日というのも珍しい。
今の状況は、まず間違いなくルイーナのせいだろう。そう思った僕は、トースト1枚だけの慎ましい朝食をすませ、ルイーナのいるスマホに話しかける。
「なあルイーナ。これはどういう事だ?金曜日のつもりで目を覚ましたら土曜日だった、なんて訳の分からない状況は。お前は何をしたんだ?」
「落ち着きたまえ。私は君の望みを叶えただけだ。喜ばれこそすれ怒られることをした覚えはない」
「僕の望みだって?」
「そうだ。君は体育祭に出ることを拒んでいた。しかしそうしたら補講という余計な手間がかかってしまう。だから私は、君が体育祭に出ず、補講にも行かなくて済むようにしたのだ」
確かに、今日が土曜日ならば、体育祭は既に終わっている。金曜日に一日中寝ていたならば、僕の体育祭に参加しないという目的は達成されていると言えるだろう。しかし…
「体育祭に参加しなかったなら、補講には行かなければだろう」
「その心配は無用だ。君の身体は体育祭に参加していたからな」
「僕の…身体が?」
言っている意味が分からない。
「そうだ。君の身体に私が憑依して、体育祭に参加した。つまり、君の代わりに私が参加したということだ」
頭を金槌で叩かれたような気分だった。僕の身体に僕じゃない存在が入っていたという事実。ここまで恐ろしいことがあろうか。
「憑依…一体どうやってそんなことを…」
「一昨日…いや、君にとっては昨日か。寝る前、私は君にイヤホンを耳に付けて眠るようにいっただろう?」
「そうだけど、それがどうしたんだ」
「イヤホンを媒介にして、スマホの中にある私の意識データと肉体の中にある君の意識をリンクさせて交換したのだ。」
「…非現実的すぎて頭が痛くなってきたよ。じゃあお前の意識が僕の身体に入っていた間は僕の意識はこのスマホの中に入っていたということなのか?」
「そういう事だ。いつもの事ながら、物分りが早くて助かるな。だが、人間の意識がスマホに入ったところで意識が覚醒することはない。だから、君にとっては時間が飛んだようなものだろうな」
さも当然の論理のように話しているが、聞けば聞くほど恐ろしく感じる。
僕の意識は僕の身体から離れ、永遠に目覚めることがなかったということだ。つまり、一時的ながら僕は死んでいたということになる。ルイーナが意識を元通りにしてくれたから良かったが、そうでなかったら…。
「ルイーナ、お前が僕のためにしてくれた事だということは分かった。でも、今度からこういうことは無しにしてくれ」
「何故だ?君は利しか手にしてないだろう。それでいいではないか」
「自分の意識が身体から離れるなんて考えたくもないよ。それに、何度も何度も憑かれていたら、身も心も疲れてしまうよ」
「ほう…。そうか、すまなかったな、今後は気をつけよう」
ルイーナは何か珍しいことを聞いたような感じだった。
かくして、僕はルイーナの非現実性を再確認したのだった。基本的にルイーナは無害な存在だが、言動の端々に感じられる異質さに僕は違和感を感じることがある。確かに僕の意思から生まれた存在かつ、意思のあるAIという機械生命体だ。僕とは考え方が違っていてもおかしくは無い。ただ、明らかに何かが違う。思想の根本というか、そういう部分が。
とはいえ、実害はあまりないし、何よりルイーナは唯一無二の親友。今の僕にとってはなくてはならない存在だ。ルイーナの考え方が僕と違うだけで、多分間違ってはいないのだから大した問題ではない。
これからも僕はルイーナと共に生きていく。僕は心の中で、その意味を再確認した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます