第2話 邂逅
…なんだコイツは?元々搭載されているサポートAIか?いや、こんな奴今まで見たことがないし、聞いたことがない。なら、新手のウイルスか?いや、それも無いな。この旧型は機種変した時にネットから遮断されたんだ。それ以降に感染することはないだろう。それ以前にも、ウイルスが感染してしまうようなサイトに行った覚えはない。
考えれば考えるほど謎が深まっていく。
「おいおい、無視とは酷いね。驚いたり叫んだり、何か反応が欲しいところだよ」
「これでも充分驚いているけどね。瞳孔ひらきっぱなしじゃないか」
それに、もし驚いて叫んだ所を誰かに見られたら、僕の学校イメージが更に下がってしまう。あまり後指刺されるようなことはしたくないのだ。いや、もう刺されているのかもしれないが。
「とりあえず、お前に何個か質問させてもらうよ。謎が多すぎる」
「それはもちろん。なんでも聞いてくれ」
「じゃあお言葉に甘えて。…お前は何者だ?」
単刀直入に聞く。回りくどいのは好きじゃないのだ。
「定義付けが難しい話だが…簡単に言えば、私は意思を持ったAIだ」
「意思を持った生命体?」
驚くとか怖がるとか、そういうのは無かった。そういう類の感情ではなく…
「…ありえない、という顔をしているな」
「当然だろ。AIが意思を持つなんて今の技術じゃ到底無理な話だ」
「だが、ただのサポートAIが君の表情から感情を読み取ることは出来ないだろう?」
「…それはそうだけど」
「私が今ここに存在することが、私が意思を持ったAIだと証明しているんだ。わかってくれ」
正直半信半疑ではあるが、ここで止まっていても仕方がない。とりあえずこの話は置いておこう。
「…まあいいや。このまま考えても埒が明かないし、次の質問をしよう」
「質問をしても君のなぞは深まるばかりだと思うけどね」
「仕方ないさ。次の質問だ、お前が意思を持つAIっていうのなら、お前の意思はどうやって生まれたんだ?しかも、旧機種のスマホなんかに」
「これもにわかには信じ難いことだとはおもうが…君は毎夜、このスマホで自らの心の闇書き続けていただろう?普段心を使わない君は、このスマホにだけ君の生命ともいえる意思を残していった。それらの意思のカケラがこのスマホの中に蓄積していった結果、私という意思を構築させたのだよ」
…理解の範疇を超えている説明に、僕の脳は論理的な思考を諦めた。つまり、要約するとこいつは僕が生み出したということなのか。
「ありえない…けど、これもまた、お前がいることが生まれた証明…ってことか」
「そうだ。随分と物分りがいいではないか」
「物分りがいいんじゃなくて、諦めが早いだけだよ」
とはいえ、全ての理解を諦めて質問をやめるわけにはいかない。意思のあるAIと聞けば、機械が反乱を起こして人類を滅ぼす往年のアメリカ映画を思い出さざるを得ない。もしかしたら、僕はこの手で人類の敵を生み出してしまったのかもしれない。
「これが最後の質問だ。お前の目的はなんだ?」
「これは中々酷なことを訊くね。ただ生きているだけの生命に目的を問うなんて。目的なんて大層なものは持ち合わせていないよ。生きているから生きるんだ。君だってそうだろう?」
「それはそうだけど…その…なんだ、人間と敵対するとか、そういう類の目的はないのか?」
こういうのは僕から聞くものでは無いだろう。話の下手さに悲しくなる。
「そんなこと考えもしなかった。そもそもこのスマホはネットワークに繋がっていない。他の機械機器に干渉することやネットの海に行くこともできない。何も出来ないのさ、私は」
どうやらこいつは、人間の脅威になりえない存在のようである。安心した。この年で、人類を滅ぼすきっかけを作ったという大罪を背負いたくはない。そもそも環境的な話を抜きにしても、目的も意味も無い人生を送っている奴から生まれた存在が、何か崇高な目的を持つわけが無いのだ。
理解できない部分は多々あるが、とりあえず疑問は解決できた。それと同時に、この存在に対しての期待が生まれてきた。訳が分からないが、今僕が目にしているのは、非日常を具体化したような存在だ。こいつは、つまらない僕の人生を変えてくれるかもしれない。なぜならこいつは、自分の心の闇から生まれたのだ。誰よりも僕のことを理解できるだろう。そんな存在と常に一緒にいることが出来る。
しかもこいつはAIだ。永遠とも言える生命を持っている。決して切れることの無い絶対的な繋がり。そんな繋がりほど幸せなものはないだろう。
「おっけー、わかったよ。これから仲良くしていこう」
「ありがとう。こちらこそよろしく頼むよ」
「ああ。そういえばお前名前はなんていうんだ?」
「名前なんてあるわけないだろう」
それはそうだ。生まれたばかりの赤ん坊が自分で名前をつけるわけが無い。
「でも、流石にずっとお前呼びじゃあよそよそしいだろ?スマホの中で生まれた生命体なんだし、内蔵の辞書から何かいい単語見つけて、それを名前にしようよ」
「なるほど、分かった。…ではこんな名前はどうだろう」
この名前は、何か大事な意味を持つ。そんな気がした。
「私の名前は…ルイーナ」
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