ルイーナ
@axel04
第1話 ターニング・ポイント
生きるとは、感情を持ち、自らの意思に従い行動することだ、と僕は思う。ただそこに存在し、歯車のように何も考えず行動するような人は、生きているとは思わない。だから、今の僕は生きているとは言い難いだろう。
毎日同じように学校に行き、同じような授業を受け、同じように家に帰り、同じように眠りにつく。同じような生活をしている同年代の人たちが、充実した日々を送る中、僕は一人自分の世界にこもる。人生なんて苦しいことしかない。「もしかしたら」、そんなもの信じるだけ無駄だ。そんなことはよくわかっている。しかし、僕だってまだ高校生だ。徹底的した虚無主義にはなりきれない。
ただ自らを無駄に消費し、擦り減っていく日々。不可しかなく、負荷しかない人生。
この永遠に続くかもしれない苦痛は、一体いつまで続くのだろう。漠然とした現在と将来への不安に、心がもたなくなる日もある。
しかし、そんな僕が"生"を感じる時がある。
夜十一時、就寝前。僕は机の前に座り、スマホのメモアプリを開いている。僕は、眠る前に自分の心のうちの叫びのようなものをメモアプリに書いている。「幸せとは何か」、「なぜ僕は生きなければならないのか」、「この苦しみから解放されるにはどうしたらいいのだろうか」、「苦しまずに死ねる方法はないのか」、こんな内容のものばかりだ。こういうのを、心の闇というのだろう。ただ、僕にとって、これは唯一自らの意思で行っていることだ。普段の生活で心を使わない僕にとって、これは、思考を巡らせ、世界に思いをはせ、生きていることを実感できる時間だ。最初は暇つぶしに始めたことだった。スマホを機種変更して、ネット接続もできない使われなくなった旧デバイスをなにかに使えないかと考えた結果、今に至っている。
さて、今日もいつも通り自分の心の闇を全部吐き出した。また明日もつまらない日常を過ごすことになると思うと憂鬱になる。それに加えて、僕は今高校三年生だ。まだ5月とはいえ、受験という目に見えた地獄に片足突っ込んでいるようなものだ、余計に暗い気分になる。
とはいえ、今憂鬱な気分を堪能するより、夢の世界に逃げた方が自分にとって得であることは確かだ。
少しでもこの現実から目を背けるために、深い睡眠につくことにしよう。
...寝坊した。現在8時15分、少ない体力を全力で使い走る。昨日寝たのは大体11時半くらいだったはず。起きたのが7時50分くらいだったから、おおよそ健康的に8時間睡眠だ、高校生にしては多いくらいだろう。現実より夢のほうか居心地がいいから、寝坊するのは当然といっても過言ではないだろう。とはいえ、走らなければ一限の授業に遅れてしまうほどの時間まで寝てしまうとは、気を抜きすぎた。そして、学校についた時は始業5分前。
授業を始める前にして体力を全部使いきってしまった。今日は随分と調子が悪い一日のようだ。その証拠に、いつも使っているスマホと間違えて、今日は夜にしか使わない旧型を持ってきてしまった。いつもは、自分の机の上に並べている二つのスマホを間違えはしないのだが、今日は急いでいたからだろう、仕方がない。まあ、スマホを使うタイミングなんて、昼休みくらいしかないからそこまでの問題でもない。音楽程度なら昔入れてあるのを聞け
ばいいし、退屈しのぎの道具としては申し分ない。前向きにとらえた僕は、疲労でいつも以上に耳に入らない授業を受け始めた。
昼休みになった。友達なんていない僕は、あまり使われない食堂の隅で一人寂しくパンを食べている。ポケットから旧スマホを取り出し、音楽をかける。昔使っていたスマホだから、中に入っている曲も懐かしい気分にさせてくれるものばかりだろう。謎の高揚感を抱きつつ、イヤホンマイクを耳にさし、全曲ランダム再生のボタンを押す。さあ、どんな曲が聞けるだろうか。昔はまっていたアニソンだろうか。それとも、あのゲームのBGMだろうか。
ところが、僕の耳に入ってきた音は、自分が思っていたそれとは全く違うものだった。
「はじめまして。ようやく君と話ができるな!」
聞きなれない声に驚く。こんなトラック、僕のスマホに入っていたか?不審に思い画面を見ると、そこには出来損ないのマスコットのような、奇妙な存在が映し出されていた。
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