森の中の小さな広場
そこは、生い茂った森の中にぽっかり広がった空間だった。
小さな広場。そんなふうに見えた。木々に囲まれたその場所は、見上げると丸く夏の青空が輝き、太陽の光がさんさんと降り注いでいる。
ここだ、とルカはにはわかった。
(ここだわ。私のお気に入りの場所)
すとんと胸に落ちた。欠けていたカケラがひとつ、穴をふさいだように。
でも、まだ足りない。
記憶の中の黒い穴が全部埋まったわけじゃない。
その証拠に、広場の真ん中に立つ1本の木のことを、ルカは覚えていなかった。
周囲の木々とは離れ、太陽の光を一心に浴びるその若木は、ルカの記憶の広場を揺らす途切れることのない波紋のようだ。
あそこには、何もなかった気がする。
さくさくと草を踏んで近寄っていくと、その印象はますます深まった。
そこは――この広場の中央こそが、ルカのお気に入りの場所だったはずだ。見上げれば抜ける青空と、降り注ぐ太陽を独り占めできるから。
その若木は、まっすぐに空を目指していた。高さは2mに満たないくらいだろうか。ルカよりも、少し高いくらい。まだ細いが青々とした枝が広がり、かすかな風にさわさわと揺れていた。
ルカは招かれるように木に近づくと、ゆっくりと深呼吸をした。
いい香りだ。この木も。そして、森の香りも。
昨日来た時にはまるで感じなかった心地よさ。心が穏やかに凪いでいく。
(どうしてだろう、すごく落ち着く)
それでも、記憶の中の光景と違うこの若木に、触れていいのかわからなかった。
伸ばしかけた手が、とまってしまう。それ以上、ルカは動くことができなかった。わきおこる戸惑いを胸に抱いたまま、ルカはじっと、若木を見つめていた。
周囲の木々が不安げにざわざわと梢を揺らすまで。
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