2. “惜別”の神様

 わたしは、せきべつかみとしてこのせいけた。

 おさなころから、ひと寿じゅみょうえるのだ。まだちいさいころわたしは、あとすうじつくなるつうこうにんかけるとそのなかにそっとがっしょうしていた。

 このかいでは、いのちまたたえていく。おおあめなかあまつぶめんたりはじぶまでをながめていられないように、まいびょうおびただしいかずいのちえていく。れきのこだいさいがいこっても、かいねんかんしゃすうればたるすうぎないというのは、なんむなしいことか。せきべつとはばかりだ。ひとひとつのいのちにさえ、わたしわせることができなくなってしまった。

 どうせぬ。みんなぬ。まんべんなくんでゆくのだ。そこにかなしみはい。うれいはい。あるのは、かえげん――うなれば“もんげん”のようなものなのだ。

 いきが、くるしい。




「――わたしね、おはなきなの。」

 しろびょうしつひかりが、エーデルワイスをやさしくらしていた。

「いつかれるよ、きっと。」

れるのは、いや?」

「それは、はなする。わたしは、きではないかな。」

 はなるからうつくしい、はかないからこそらしい、とごうするひとがいるが、はなはなとしてしかることができないしゃざれごとだ。わたしってきたひとみなまえいているはなしかひょうしない。いのちではなく、みやびそうしょくひんとしてながめるだけなのである。

ちがうよ。」

 しょうじょつぶやくようにくちにした。

「おはなは、きてるよ。きようとしてるもん。」

 わたしなにえなくなってしまった。くちつぐんだわたしほうを見て、しょうじょつづける。

ものみんなきてるよ。きてるか、いないかだけ。んじゃうのは、きたくないひとだけだよ。」

「……。」

 しょうじょくろおおきくわった。たそがれふくろうまなこのようにひらき、くらむらさきびたやみひとみなかひろがる。

「おじさんは――ちゃんときてる?」




 よくしゅう、そのしょうじょくなった。

 かなしいなどとは、今更いまさらじんにもおもわなかった。かりわたしが、りもしないかのじょかなしむこころやさしきにんげんであったとしても、るいせんわたししんおくによってかたじられている。たかだかひとつのいのちえたとして、しゃかいかいこまるまい。

 ただ――けるのであれば、きたかったのかもしれない。いままでながせなかったぶんなみだをどこかにてられたら、どれだけらくだろうか。




 かのじょうには、わたしんでいたのだ。




せんづるですか。」

 こうほうからこえがした。かえると、わたしよりすこわかいくらいのおとこっていた。

「えぇ、これがさいなんです。たいせつひとがもうすぐぬんです。」

 せいかくには、もうんでいた。わたしだ。わたしわたしせきべつしようとしているのだ。せんづるっても、せんるつもりはない。いちであれ、それがいのりをたずさえていれば、りっせんづるなのである。

「そのひとそばに、いなくてもいいんですか。」

 いっしゅん、このおとこはつげんかいできなかった。しかしかんがえてみればたりまえだ。つうたいせつひとぶんではないし、ぶんせんづるるようなこともしない。

 わたしうなずいた。

「もしも。もしもわたししにがみで、あなたのたいせつひとすくえるとったら……どうしますか。」

 わたしはひどくしょうげきけた。

 まえおとこしにがみだとか、そんなことにはてんできょうい。わたしが、にくたいてきえらばずにすくわれるほうほうりたかったのだ。

「あなたのおく……たいせつひとかんするおくは、すべえます。あなたはここにいるかもわすれるでしょう。それでもあなたのたいせつひとすくいたいですか?」

「……はい。」

 なんかしこしにがみなのだろうか。わたしおくさえくしてしまえば、いのちおもさも、しょうじょことも、そしてぶんかみであることすらわすれてしまう。なにも、かんがえなくていのだ。

 つぎしゅんかん――。

 なにいとのようなものがれるおといた。




 おれなにものか、なんというのか、からたのか、くのか、そういったことはなにからない。

 ただ、がんぜんおとこわたしすくってくれたことはかいた。

「ありがとう――。」

 おとこに、おれほんとうかんしゃした。

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