本を読むのは楽しいよね。いつも新しい発見ができるから。

 その日は、宇宙人と一緒に花の図鑑を読んでいた。

「ドラフェリカ……鮮やかな青色の花だな。この説明欄にある『届かぬ想い』というのは何だ?」

「花の一つ一つに象徴的な単語や言葉を当てはめているんだ。だから、そのドラフェリカという花には『届かぬ想い』というイメージみたいなものがあるってこと」

 彼は食い入るように図鑑を見つめる。

「美しい文化だ。ワレの星にも花はあるが、それに言葉が付けられることはない。なるほどな、『希望』『愛』『幸運を祈る』……ん、この白い花は」

「ヴェファラテスだね。ううん、大丈夫。あの出来事はもう何とも思ってないよ。僕たちの出会いに必要なことだったんだ」

 彼を慰めるためでも何でもない本当の気持ちを伝えただけだったが、それは彼に届いただろうか。


「すまないな、気を遣わせてしまった。……生息地は標高の高い高山地帯で目にするのは稀。市場に出回ることは珍しい――、見たところ珍しい花らしいな。どうやって手に入れたんだ?」

「実は知らないんだ。貰い物で」

「そうだったのか。この花が意味する言葉は、『強く生きる』だそうだ。厳しい高山という環境に生息していることが由来しているのかもしれんな」

「花と言葉の関係性や由来についてはもっと詳しくまとめた本がこっちにあるよ」


 僕は本棚から『文学の花畑』という一冊の本を取り出した。その様子を見て、彼は思いついたかのように口を開く。

「この本棚には本当に様々な種類の本が置いてあるな。だが、よく見ると、植物についての本が多いように感じる。考えてみれば、花の図鑑もその本もそれらに該当する。君は植物に興味があるのか?」

「話してなかったっけ。実はこの本棚にある本は全て母のものなんだ。母は読書好きで、特に植物に対する関心が多くあった。その影響なのかな……僕も、母と同じように植物の本を読むようになったね」


 唐突にも、あの姿が目に浮かんだ。

 本を読む姿。

 静かにほほ笑む姿。

 僕を励ます姿。

 そして、「さよなら」を言う姿。

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