ホワイトデー
お返し。
やられたらやり返すや施されたら施し返すなどと最近のドラマが言っているように、いい意味でも悪い意味でも「お返し」というものは日本でとても重要視されている。
僕は今、そのお返しについて、とてつもなく悩んでいる。
そう、もうすぐホワイトデーなのである。
『ホワイトデー』
バレンタインにチョコを受け取った者が、その贈り主にお返しとして何かをプレゼントするという字面だけ見れば、素晴らしい文化である。
お返しの中心は、バレンタイン同様、お菓子類とされているが、あまり定まっておらず、基本的にお返しとして相手が喜べば何でも良いという。
しかし、上記で、字面だけ見ればと、釘を刺した通り、問題も抱えている。
男は貰ったチョコに対して、その3倍以上の価値のものをお返ししなければならないという闇の掟も中には存在し、そのお返し目当てで、気もないのにさまざまな男に配ってる性悪な魔女もいるという。
世知辛いものである。
そんなわけで僕は沙耶へのお返しを考えていた。
バレンタインに沙耶からもらったのは、ポッキーゲームと愛のチョコ、そして、最高の手紙である。
僕にとっては忘れられないバレンタインであった。
沙耶の愛に応えるために、最高のホワイトデーにしなければならない!!
そう思い、僕が考えた作戦がこれだ!!
『照れ屋の沙耶をひたすら愛でて甘えさせる大作戦』!!!!
いつもいつも沙耶から僕に何かをしてもらってばっかりだから、今回は僕からどんどん沙耶に攻めて、愛でて愛でて愛でまくり、照れ屋でいつもあまり僕に甘えてくれない沙耶を甘えん坊にしてやろうではないかという最高の作戦である!
僕もこの日は沙耶に照れることなく、頼れる最高の男になってやるぞ!!
そして迎えたホワイトデー当日。
お昼になり、僕の家のインターホンがなる。
玄関の扉を開けると、今日もかわいい沙耶がいた。
「貴志〜!やっほ〜!」
沙耶の今日の服装もとてつもなくかわいい。
スリットの入った長めのスカートに、肩が少し出ているオフショルダーの服、ちょっぴりエッチかつ清らかで最高にかわいい!!
「今日も服が似合ってるね!そして何よりもめちゃくちゃかわいい!!」
「ちょっ、ちょっと貴志!いきなり褒めすぎ!」
沙耶は顔を少し赤らめて、怒ったように言う。
「だって今日はそういう日だから!じゃあ、上がって!」
沙耶は少し疑問を抱きながら僕の家に上がる。
そしてリビングに着いたところで今日の作戦を発表する。
「今日は、ホワイトデー!だから、照れ屋の沙耶をひたすら愛でて甘えさせる大作戦を行います!!」
「……え?ど、どういうこと?」
驚いて一瞬固まった沙耶だったが、すぐに我に返って聞いてきた。
「つまり、今日は、僕が沙耶を愛でて愛でて愛でまくり、甘えん坊にさせる日なのです!!」
「結局どういうことなの!?」
「まあ、体験してみるのが早いか。」
僕は、すっと沙耶に近づき、抱き寄せ、耳元に呟いた。
「沙耶、大好き、愛してる。」
急に僕がそんなことをしたので、沙耶は顔を真っ赤にしながら、処理が追いついていないのかアワアワしている。
そして、僕は優しく沙耶から離れる。
「こういう感じで、今日は僕が沙耶に攻めまくるという意味!!よろしくね!!」
「し、心臓が持たない〜!!」
顔を真っ赤にしたままプンスカしているかわいい沙耶をなだめながら、椅子に座らせ、僕は台所へと向かった。
ふぅ〜、緊張した〜!!
この作戦を決めてから、ずっと部屋でひとりで練習しまくっててよかった〜!
ポーカーフェイスできてたかな?
そう、僕は今日沙耶を愛でまくるために、過酷な修行を積んできたのである!
よし、これから計画が始まるぞ!
まずはお昼ごはんだ!
僕はいつも沙耶にお弁当を作ってもらったり、沙耶の家で美味しい手作り料理を作ってもらってばっかりだったから、今回は自分でカレーを作ってみたのである。
沙耶にばっかり作ってもらうのも悪いしね!
昨日からじっくりと煮込んだカレーをよそって、沙耶の前に出す。
「美味しそうなカレー!これ、貴志が作ってくれたの?」
「うん!沙耶がいつも美味しい料理作ってくれるからさ、僕も何か作ってあげたいって思って!でも料理上手くないから、がんばってカレー作ってみたんだ!食べてくれる?」
「ありがとう!うん!いただきます!!」
僕は半端なく緊張しながら、僕のカレーを食べる沙耶を見つめる。
味見はめちゃくちゃしたけど、怖いな、大丈夫かな?
「うん!美味しい!!」
沙耶が笑顔で褒めてくれた。
「よかった〜。」
ほんとによかった〜!
料理なんてほとんど作ったことないからビビったよ〜!
でも自分が作った料理を美味しく食べてくれるってなんか嬉しいな!
これからもっと練習しよう!
おっと、沙耶がまたカレーをすくって食べようとしている。
計画を遂行しなければ!
「沙耶ストップ!!」
「え?どうしたの?」
カレーを食べようとしていた沙耶の手が止まる。
「ここからは全部僕が沙耶に食べさせます!!だって今日は沙耶を愛でまくる日なのだから!!ということで、はい!あ〜ん!」
僕は沙耶からスプーンを奪い取り、そのまま沙耶にあ〜んする。
「あ、あ〜ん!」
驚いていた沙耶だったが、観念したのか、諦めて顔を赤くして口を開く。
「じゃあどんどんいくよ〜!!」
「ちょっ、ちょっと!ずっとは恥ずかしすぎるって!」
その後も僕は沙耶にあ〜んしまくった。
沙耶は食べている時、ずっと照れて顔を赤くしていた。
「う〜」と言いながら、視線をウロウロさせて食べていたのがめちゃくちゃかわいかった!
さて、次の作戦へと移行するか!
「沙耶!次はゆっくり映画でも観よっか!」
僕は沙耶を連れて、ソファーへと向かう。
そして沙耶を後ろから抱きしめて、そのままソファーに座る。
つまり、今、沙耶は僕の膝の上に乗っているということである。
「え?え?た、貴志??」
「じゃあ今から映画見るから!ずっとこのままね!!」
「え?ちょっと待って!」
僕は有無を言わさず、再生ボタンを押す。
見るのは、大ヒットアニメ映画、天気の子である。
純粋な恋愛感情が最高なんだよな〜!
映画が始まる。
沙耶の顔は見えないが、耳が真っ赤になっている。
これは絶対顔も赤いだろうなぁ〜。
そう思うと、愛おしくなり、抱きしめる力を少し強めた。
「ひゃう!」
すると沙耶がかわいらしい声をあげる。
そのまま沙耶の温もりを感じながら、映画をずっと観ていた。
「おもしろかったね〜!」
「う、うん。……あ、あまり集中できなかったけど。」
沙耶はまだ顔を赤くしている。
なぜならもちろん僕はまだ沙耶を抱きしめ続けているからだ!
よし、それでは次の計画へと移行しよう!
「よし!沙耶!ひざまくらしてあげる!」
「え?え?いきなり!?」
沙耶がまた慌てている。かわいい。
「うん!この前、アニメで見たんだ〜!ひざまくらして、耳掃除したら、気持ちいいって!」
「み、みみみ、耳掃除!?」
「うん!じゃあ、はい!寝転んで!」
沙耶を寝かせて、頭を僕の太ももに乗せる。
こうして見ると、沙耶の髪ってほんとにサラサラだよな〜。
僕は沙耶の頭をナデナデする。
「はぅっ!」
沙耶の身体がビクンとする。
「沙耶、大丈夫!?」
「う、うん、びっくりしただけ!」
「じゃあ、始めるから!」
僕は耳掃除を開始する。
ゆっくり優しく沙耶の耳の中に耳かきを入れる。
「ひゃっ!」
僕が沙耶の耳の中で耳かきを動かすたびに沙耶は身体を震わせる。
まさか、沙耶は耳が弱いのか!?
この前、沙耶に耳フーフーされて、僕も耳が弱いことがわかったが、もしかして沙耶も??
僕は耳かきを耳から出し、優しく耳に吐息をかける。
「ひゃう!!」
沙耶の身体がビクンと跳ねる。
沙耶はやっぱり耳が弱いようだ。
「た、たかし、あたし、耳弱いから、や、やめて。」
沙耶が目を潤めながら、僕を見る。
「ご、ごめん!でも耳かきは続けるからね!」
それから沙耶は身体を時々震わせながらも、目をとろんとさせていた。
多分気持ちよかったのだろう。
もう暗くなってきたし、そろそろ送ろうかな。
僕はまた膝の上に乗せている沙耶を見る。
沙耶の耳がまた赤くなっている。
沙耶、耳が弱点なんだ。
沙耶の耳、かわいいな。
沙耶の耳、触りたいな。
そんなことを考えていたら、僕は無意識に沙耶の耳をハムハムと甘噛みしていた。
「ひゃう〜!!」
沙耶が今日1番身体を震わせる。
僕は自分がしているわけのわからない行為に気づく。
ぼ、僕は無意識に何をやってるんだ!?
「ご、ごめん、沙耶。さ、沙耶?」
沙耶はプシューという音を立てながら、顔を真っ赤にして混乱していた。
「こ、こんなに耳が弱かったのか。沙耶、そろそろ送ろうと思うんだけど、立てる?」
「た、立てない。」
身体の力が全部抜けてしまったようだ。
遅くなるのもダメだし、ここはもう行くしかない!!
僕は沙耶をお姫様抱っこした。
「沙耶!このまま連れて帰るから!」
「ちょっ、ちょっと貴志!は、恥ずかしいよ!」
「大丈夫!任せて!!」
「は、話が通じてないよ!」
僕は沙耶をお姫様抱っこしたまま家を出て、沙耶の家まで送っていた。
沙耶はずっと顔を赤くしていた。
それを他の人見られたくないのか、僕の胸に顔を寄せていた。
正直、めちゃくちゃかわいい!!
よかった〜!沙耶を守れるように筋トレはじめてて!!
すると、いつのまにか沙耶の家に着く。
「沙耶、そろそろ立てそう?」
「う、うん、だ、大丈夫。」
僕はそっと沙耶を下ろす。
よし、ここで最終プランだ!
「沙耶!ちょっと目瞑ってて!」
沙耶は目を閉じる。
僕はショルダーバックから、プレゼントを取り出して、沙耶につける。
「目、開けていいよ!」
沙耶が目を開ける。
沙耶の首にかかっているネックレス。
これが僕のプレゼントだ。
もちろんお金ないから、高くないけど。
「高くないけど、沙耶に似合いそうなの選んだんだ!」
「嬉しい。貴志、ありがとう!」
沙耶が喜んでくれてよかった!
ホワイトデーは大成功だ!!
「喜んでくれてよかった!じゃあ、またね!!」
僕は帰ろうとする。
「貴志!」
帰ろうとしていたら、沙耶の声が聞こえて、僕は振り返る。
唇に柔らかい感触。
僕は沙耶にキスされていた。
「え?え?え?」
急な出来事に僕は焦る。
「今日のお礼!恥ずかしかったけど、ほんとに幸せだった!ありがとう!じゃあね!」
少し顔を赤くした沙耶はそのまま家の中に入っていく。
「くそ、最後の最後にやられたぜ!かわいすぎるだろーーーーーーーー!!!!」
結局僕はかわいすぎる彼女には負けてしまう最高の人生なのであった。
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